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2019.11.14
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』という長いタイトルの本を、手にしたのです。

おお 表紙全体がこの本のタイトルではないか♪ ちょっとやりすぎではないかと思うが強烈な「掴み」ではある。





山下泰平著、柏書房、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
漱石・鴎外を人気で圧倒しながら今では知名度ゼロの“明治娯楽物語”。その規格外の世界をよみがえらせる。朝日新聞&ジブリも注目する異才が描く、ネオ文学案内。

<読む前の大使寸評>
おお 表紙全体がこの本のタイトルではないか♪ ちょっとやりすぎではないかと思うが強烈な「掴み」ではある。

rakuten 「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本


「第2章 庶民が愛した<明治娯楽物語>」から信州小僧を、見てみましょう。
p67~74
<講談速記本「信州小僧」>
 最後に紹介する松林伯海の講演による『信州小僧』(明治35年)には、インテリヤクザ軍夫ヒーローが登場する。残念ながら馬丁ではなく軍夫ではあるが、場丁と同じく、非戦闘員の主人公であることから、一連の馬丁作品とともに紹介する。

 『信州小僧』は、講談速記本に属する作品だ。主人公は宮城半三、通称「信州小僧」と呼ばれる19歳の青年だ。信州小僧は壮士でありながら書生でもあり、侠客で軍人の卵でもある。
(中略)

■一心太助化現象
 そうこうするうちに、日本軍にピンチが訪れる。日清戦争時、日本軍がとある地域を占領した際の話である。仙台出身の片腕の大尉が、仙台人を中心に構成される第二師団の軍夫を贔屓する。第二師団は民家をあてがわれているが、東京出身者が多い第一師団は野営で夜を過さなくてはならない。清国の寒さは厳しい。やがては凍死する者も出てくる。

 こういうことが1週間も続くと、いよいよ我慢の限界、第一師団と第二師団の軍夫が衝突することとなる。荒れに荒れた数千の軍夫たちを、大尉はどうすることもできない。あわや乱戦、このままでは日本の勝利も危うしッ!という危機一髪の瞬間に、軍夫服を脱ぎ捨ててふんどし一丁で駆け付けたのが信州小僧であった。

待った待った、この喧嘩、信州小僧が預かった。聞いて見りゃあ、どっちにも理のある同士の衝突だ、どっちを無理ともいわねえから、しばらく俺に預けてくんねぇ。(『信州小僧』62頁)
 と叫びながら、双方のド真ん中に大の字に寝転んでしまう。

うちわの喧嘩に血を見るような、そんないらねえ捨てる命なら、国家の為に捨てなせぇ。それとも聞かずにやる気なら、この信州を血祭りに、殺してからやんなせぇ。サァ命はみんなに進ぜた。(同書62~63頁)
 その大胆不敵な行動と説得力のある言葉に、無頼決死の軍夫たちも驚いてしまった。流石は噂の信州小僧、年は若いが度胸がいい。小太りに太った真っ白い肌、おまけに左の腕には物凄い生首が生々しく「鮮血淋漓」の四字と並べて彫り付けてある。

 その度胸と侠気に、軍夫たちは納得し喧嘩は無事に丸く収まってしまうわけだが、下手すれば凍え死にしてしまう厳寒の中、ふんどし一丁で説得にかかる信州小僧の行動は完全に狂っている。片腕の大尉の説得に応じなかった軍夫たちが、あっさり納得してしまうのも謎でしかない。現代人としては、どう解釈してよいのか迷うことだろうが、この場面にも無理がある。

 実は大喧嘩の場に乗り込んで、大の字に寝転び「サァどうでもしろ、サァ殺すなら殺せッ」と絶叫するのは、明治の娯楽物語では定番の場面だ。ふんどし一丁で乗り込むというのもよくあるパターン、有名なものだと、『露西亜がこわいか』でも触れた一心太助の名場面がある。

 ちょっとした行き違いから佃芝浦と魚河岸の魚屋たちが大喧嘩になった際、典型的な江戸っ子たる一心太助がやはり半纏を脱ぎ捨てるとふんどし一丁、双方の間に割って入り<待った待った、この喧嘩は三河町の太助が引き受けた。俺に任せてくれるなら双方顔の立つようにするし、さもなければこの太助を相手に喧嘩をしろッ>と大音上げて呼ばわった。太助の左の腕には<男は気で持つ/なますは酢で持つ>とある。

 要するに信州小僧は、清国で一心太助と同じ行動をしている。ある作品の主人公が、別作品の名場面を演ずるというのは明治の娯楽物語でよくあることだ。ふんどし姿で啖呵を切ることも、定番シーンの再現にすぎない。

 類似の事例として、清兵の死骸を食い続けたため凶悪な猛獣となった野犬を、信州小僧が退治するという場面もある。これも加藤清正の虎退治オマージュだ。





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Last updated  2019.11.14 08:38:50
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