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2019.11.29
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カテゴリ: アート
図書館で『天子蒙塵(四)』という本を手にしたのです。
この本は、どうゆう訳か図書館予約システムでは借りられなかったのだが・・・
とうとう図書館内で手にしたのです、ラッキー♪





浅田次郎著、講談社、2018年刊

<「BOOK」データベース>より
満洲でラストエンペラー・溥儀が皇帝に復位しようとしている。そんななか、新京憲兵隊将校が女をさらって脱走する事件が発生。欧州から帰還した張学良は、上海に襲い来る刺客たちを返り討ちにしていた。一方、日本では東亜連盟を構想する石原莞爾が関東軍内で存在感を増しつつあり、日中戦争突入を前に、日本と中国の思惑が複雑に絡み合う。満洲に生きる道を見いだそうとする正太と修の運命は。長い漂泊の末、二人の天子は再び歴史の表舞台へと飛び出してゆく。

<読む前の大使寸評>
この本は、どうゆう訳か図書館予約システムでは借りられなかったのだが・・・
とうとう図書館内で手にしたのです、ラッキー♪

rakuten 天子蒙塵(四)


冒頭の語り口をちょっとだけ、見てみましょう。
p7~9
<五十九>
 冬の陽光がちりちりと肌を焼く。
 目に見えぬほど小さな黴菌どもが、ひとたまりもなく揮発してゆく。
 ペスト。コレラ。チフス。天然痘。結核。スペイン風邪。さあ、これでもか。みんなくたばれ。

 接見のない日は、正午に起床したあと下ばき1枚の姿で日光浴をする。いつの間にか習慣になった。睡眠時間を奪う御前中の接見はよほどの急用であるから、ほぼ正確な日課と言ってもよかった。

 もっとも、今の私に急用などあるはずはない。万事において執政閣下の意思は、後回しでもかまわないからである。場合によっては決裁の署名すらも。
 それでも週に一度、たいていは月曜の早朝に、その「急用」とやらが入る。御前太監が寝台の下にかしこまって、こう言うのである。
「万歳爺におかせられましては、天機うるわしくおめざめにござりまする。ただいま梁文秀様が急用にて参内なされました。いかがいたしましょうや」

 どれほど睡かろうと機嫌が悪かろうと、私は「召見」と応じねばならない。先帝光緒陛下の寵臣であった梁文秀は、私の師フであり、小宮廷では唯一と言える無私の人だった。すなわち、私自身の力ではもういかんともしがたく、なるようにしかならぬと誰もが考えている国家の、彼は良心であった。どれほど睡かろうと機嫌が悪かろうと、良心を拒むことはできない。

 太監たちが床に這いつくばってカーテンを開け、両脇から掛け蒲団をそろそろと剥がして、私の体を獰猛な陽光に晒す。
 着替え。整髪。薄い髯をていねいにあたる。みずから手を使うのは、歯磨きと洗面だけである。玉体がすりへらぬよう、なるべく動いてはならぬという日常生活のきめごとは、この氷に鎖された北の都の監獄めいた宮廷にも生きていた。紫禁城の暮らしとどこも変わらず。

 なすがままにされながら、いつも同じことを考える。三皇五帝の神の時代を経て、初めて龍玉を禅譲された兎王は、身を粉にして黄河の治水に打ちこんだのではなかったか。歩きに歩き、働きづめに働き、頭頂も踵もすりへって、ついには身が偏枯してしまうほどに。

 そうした中華皇帝が、いつから動かざるものとされたのか私は知らない。
「昨ーッ! 万歳爺、お出ましになられます」
 太監が両膝をついて出御を告げる。梁文秀は古式に則った三キ九叩頭の礼で私を迎える。

 彼の挙措は老いるほど優雅になってゆく。私の足元に三度ひざまづき、九度額を床にこすりつける。老躯にはよほど応える動作であろうに、それはまるで儀式というより舞うがごとくであった。
 そのつど感心しつつ思う。若き日の彼は西太后様の御前に叩頭したのだ、と。毎朝こうして、光緒陛下に礼を尽したのだ、と。

ウーム 愛新覚羅溥儀が第一人称で語る小説なのか・・・
まるでベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『ラスト・エンペラー』を彷彿とするではないか。

『天子蒙塵(3)』3 :満州国のメカニズム
『天子蒙塵(3)』2 :ヌルハチ公神話を語る主人公
『天子蒙塵(3)』1 :ヌルハチの伝説
『天子蒙塵(2)』1
『天子蒙塵(1)』3 :天津の日本租界
『天子蒙塵(1)』2 :浅田治郎独占インタビュー
『天子蒙塵(1)』1 :序章の語り口





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Last updated  2019.12.02 00:31:15
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