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2020.10.20
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『トモスイ』という本を手にしたのです。
パラパラとめくってみると、10の短編小説集になっています。
冒頭に「トモスイ」が載っていて、気軽に読めそうなのがええでぇ♪





高樹のぶ子著、新潮社、2011年刊

<「BOOK」データベース>より
タイ訪問を機に執筆され、選考委員に絶賛された川端賞受賞作「トモスイ」ほか、アジア10カ国との交流から生まれた10の短篇。台湾の小さな島から上海の路地裏へ、そしてモンゴルの荒野、インドネシアの密林まで。それぞれの土地に息づく瑞々しい匂いとやるせない思いを吸い込み、論理を超えた熱をはこぶ、アジアをめぐる物語たち。第36回川端康成文学賞受賞。
【目次】
トモスイ/四時五分の天気図/天の穴/どしゃぶり麻玲/唐辛子姉妹/投/モンゴリアン飛行/ジャスミンホテル/ニーム/芳香日記

<読む前の大使寸評>
パラパラとめくってみると、10の短編小説集になっています。
冒頭に「トモスイ」が載っていて、気軽に読めそうなのがええでぇ♪

rakuten トモスイ



短編小説集「トモスイ」の中で唐辛子の話が面白いので、その語り口を見てみましょう。
p87~88
唐辛子姉妹
 6月、空気が光彩を含んで明るい。
 姉の唐辛子が、隣の枝のまだ青くて固い妹唐辛子に言った。
「妹よ、あんたのその枝は滋養が足りんのか日差しがちと及ばんのか、熟すんが遅いわい。あたしを見てみなされや、そろそろ色づいて来とるわいな」

 妹の唐辛子も負けじと言い返す。
「姉さん、早く赤くなったところでカプサイシンが増えて辛くなるだけで、旨みが少ないのを知ってますでしょ。この国の唐辛子は海の向こうの日本という国の唐辛子と違って、しみじみ深い味があるのです。その昔、豊臣秀吉一派の武士がこの国にやって来た折のこと・・・」

 姉唐辛子は、ああまたその話かと思う。辟易した風情が妹唐辛子にも伝わったらしい。「まあ聞いてください。その豊臣らが持ち込んだ唐辛子ではありますが、この国で進化して旨みを増したのは、何と申しましてもこの土のお陰なのですよ姉さん」

 妹唐辛子がこの土というのは、全州市の隣益山市を流れる広やかな川の水が、いたひたと潤す農地のことである。唐辛子の隣の畝には、大蒜(にんにく)のほぼ枯れた葉がさやさやと風に打たれている。土の中から半分覗いた大蒜は、競って白い肩を盛り上がらせ、ニラ、ネギ、ショウガもサックリとした黒土の上で背伸びしている。

 畑の向こうには大麦畑が薄荷色に波打っているけれど、唐辛子の木の背丈はせいぜい40センチだから、姉唐辛子にも妹唐辛子にも大麦畑は見えない。見えないけれど、風が麦の匂いを運んでくる。

「妹よ、豊臣の話なんぞどうでも良いわい。それよりこの匂いは乾いていて、何とも極上であるよね」
「はい姉さん、きっと豊臣らもこの匂いを嗅いだのでしょう」

 姉唐辛子は陽を浴びて色づくことに必死だけれど、妹唐辛子は代々大地から伝わる唐辛子の記憶遺伝子を総動員した、豊臣伝説をひけらかす。このあたりの農民が酷い目に遭わされたことはきれいさっぱり忘れている、というより、記憶の遺伝子から恨(ハン)のDNAが抜け落ちてしまっている。


ネタバレになるけど、唐辛子姉妹はこの後、大阪のオバチャン三人組の一番太った人に食べられるわけです。もうすぐ帰途の関空です。
…で、<唐辛子姉妹>のラストシーンを見てみましょう
p100
「姉さん、ここはどこ?」
「ここは多分日本の大阪というところではないかな」
「あ、大阪なら知っています、豊臣秀吉がお城を造ったところですよ姉さん。ここは唐辛子の故郷ですよ」

 姉唐辛子はこれまで、妹唐辛子の浅い知識を馬鹿にしていたけれど、このときばかりは確かに唐辛子遺伝子の導きかも知れないと感動を覚えた。消化不良でそっくりカタチを残した生人参に掴まったまま、唐辛子姉妹はおおよそ四百年の歴史を思いつつ、白い陶器の奥へと流されて行った。

太子も韓国出張の際、仁寺洞あたりでこんな大阪のオバチャン連中とすれ違ったわけである。それにしても、著者・高樹のぶ子が韓国料理や韓国文化に精通しているのには、驚いたのです。

『トモスイ』1





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Last updated  2020.10.20 02:57:03
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