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2021.05.16
XML
カテゴリ: 中国
図書館で『民族世界地図』という細長い装丁の本を、手にしたのです。
1993年刊行とやや古いが、国際政治経済情報誌「Foresight」で連載した記事をもとに単行本にしたとのことであるが・・・
とにかく、洋書のような装丁がお洒落なわけで、これがチョイスした決め手でした。(ややミーハーだったかも)





浅井信雄著、新潮社、1993年刊

<「BOOK」データベース>より
国境が変わり、民族が移動し、至る所で硝煙のあがるこの二十世紀末―。複雑をきわめる民族対立の歴史をふまえつつ、世界の緊張空間を地図三十枚に集約。

<読む前の大使寸評>
1993年刊行とやや古いが、国際政治経済情報誌「Foresight」で連載した記事をもとに単行本にしたとのことであるが・・・
とにかく、洋書のような装丁がお洒落なわけで、これがチョイスした決め手でした。(ややミーハーだったかも)

amazon 民族世界地図


世界のお荷物漢族が語られているあたりを、見てみましょう。
p161~164
<中国の圧倒的多数派「漢族」とは何か>
 10億以上という世界最大人口と56の民族からなる中国の国家的な構造変化こそ、21世紀にかけての世界史の大きなサスペンスであろう。

 中国語の文献に「民族」の用語が初めて登場したのは1899年で、やがて多民族国家の概念が生まれるが、それ以前は群雄割拠の広大な地に国家の全体概念を描くことが困難だったのだろう。

 最大民族は総人口の92%を占める漢族で、他は少数民族と呼ばれる。したがって中国人とは漢族と少数民族の両方の総称だが、漢族が圧倒的であるため、中国人、中国語、中国料理、中国民謡といった呼称が、日本では漢族のものと同一視されることもしばしばである。

 公用語の中国語も漢語のことだが、漢族の他にプイ族、満族らも漢語を主言語としている。一民族が圧倒的であるという点で、多民族大国の米国や旧ソ連とも異なる国家像をもつ。ただ、少数民族が自ら「少数民族」と名乗ることからみて、その言葉自体には差別感がないようだ。

 漢族の密度の高い居住区域は全国土の約30%で、ほぼ東部地域にあたる。特定の少数民族が集中する地域には共産党の指導権の容認などを前提とした自治が認められ、部分的自治を享受している地域は全国土の約65%にもなるが、残り約5%は漢族と少数民族、あるいは少数民族と少数民族の混住地域である。

 部分的自治の享受が少数民族にとっての最大限の自由であり、少数民族に分離独立の権利はなく、その手続きは用意されていない。

 多民族間の関係をどう安定させるかこそ、中国の支配者にとって大きな問題であったが、中国共産党の基本的考え方は、諸民族は平等、諸民族の文化、言語、宗教、伝統的慣習は尊重されねばならないというものである。

 国家統合の基礎として、多民族間の概念と文化多元主義を明確にしているわけだが、現実に圧倒的な漢族の支配は全民族の意識上もまた実力上も否定できないところだ。当然、最有力の漢族にすり寄って同調安定を求める動きもあり、漢族に次ぐ第二位の人口ながらわずか約1600万で、しかも経済基盤の健全なチワン族がその例である。

 その一方で、漢族支配に対する反感も根強く存在することは、東部の中央政権から遠く離れた新疆ウイグル自治区やチベット自治区における再三の暴動・反乱にうかがわれる。ただ、その動きが分離独立に発展する可能性はまだ小さく、それが旧ソ連と違うところだろう。

 また1958年からの大躍進期に、漢族への強制的同化論を否定し、自然融合が唱えられた。そこまでは米国の民族史と似ているが、米国と違って中国の場合は、諸民族の調和を目ざす文化多元的なサラダボウル論が、建て前はともかく、現実には推進されないのは、やはり漢族の一極支配的条件が強いからであろうか。

 世界に進出した華僑を含め世界最大民族でもある漢族が、中国でも優勢だという事実の背後に、漢族それ自身の多様性がひそんでいる。外見からしても、北部の漢族は長身で、食事は麺類など粉を中心に、家屋は土を主材とするのに対して、南部の漢族は短躯であり、食事は米が中心、家屋は木材を多用する。

 その多様性は漢族の複合民族性で説明される。黄河流域の中原を求めて集まった諸民族が長い年月に融合して、共通のアイデンティティを築き、全体を統轄する人物が王朝を建てた。夏の時代に人びとは夏人と名乗り、秦の時代は秦人、漢王朝では漢人であった。今日、漢の名が残り、民族の名前になったというのだ。
(中略)

 多様かつ絶対優勢な漢族と多様な少数民族にほぼ共通するのは、漢字だけといわれる。こんご中国が時折り国家分裂の揺れをみせることは確実だが、その過程が旧ソ連や米国と違う道をたどるという以外は確たる予測はできそうにない。


漢族に対してもっと厳しい見方もできるのだが、著者のスタンスが出ているのかリベラルな論調ですね。この本が出た1993年ころは、ウイグル族ジェネサイドなんか知られていなかったのかも。





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Last updated  2021.05.16 06:53:00
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