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2021.05.22
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『遺言未満』という本を、手にしたのです。
ぱらぱらとめくってみると、「死」に関するエッセイ集になっています。
これまでのシーナとちがって重いテーマが続くわけで、やや面食らった次第です。





椎名誠著、集英社、2020年刊

<「BOOK」データベース>より
空は蒼く広がっているのだろうか。風は感じられるのだろうかーその時、何を見て、何を想い、どう果てるのか。齢76。作家、ときどき写真家がカメラを抱えて迷い込んだ“エンディングノート”をめぐる旅17。
【目次】
「死」を知る生物/念願のお骨佛をおがみに/家のいのち/遺骸と地獄好き/四万十川での死/孤立死はいやだ/身のまわりの「死」のことなど/多死社会を迎えうつ葬祭業界/遺言状と死にそうになった話/葬列の記憶/鳥葬へのあこがれ/東京のイスラム教モスクに行く/墓のない国/ハイテク納骨堂の周辺/骨を食らう。骨を撒く/遺言未満

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくってみると、「死」に関するエッセイ集になっています。
これまでのシーナとちがって重いテーマが続くわけで、やや面食らった次第です。

rakuten 遺言未満



世界の墓や葬礼が語られているので、見てみましょう。
p184~187
<寺も墓も見ない場所>
 旅をしていた当時は気がつかなかったが、思いかえしてみると寺とか墓を見なかった国もしくはエリアというのがずいぶんあった。

 たとえばアマゾンである。アマゾン河は6000キロとか7000キロなどとさまざまに言われているが、これは上流地帯にいくとエクアドル、コロンビア、ペルー、ボリビア、ガイアナ、ベネズエラなどの高地、高所から流れてくる2、3000キロもの長さの何本もの大河が毎年氾濫し、広大なアマゾナスを洪水地帯にするので正確な長さが測れないからなのだ。洪水地帯はヨーロッパ全土ぐらいに匹敵し、乾季の頃の地表から平均10メートルぐらいの高さで水が大地を覆い、乾季をむかえて大地が現れるまで半年間かかる。

 ぼくはその洪水の季節に奥アマゾンを旅したが、人々は筏を作ってその上に小屋をたて、そこに10人とか20人の1族が生活していた。1ヵ月足らずしかいなかったが、こういう状態のときにヒトが死んでしまうとどういうことになるのだろうかと考えた。通訳を通して長老にいろいろ聞いてみたが、具体的な葬送については殆んど話をしてくれなかった。

 子供たちが死んだときは「精霊のもとに返す」という言い方をした。ただし本当にそういう表現をしたのかは確認できなかった。現地語のポルトガル語にエリアごとの原始言語がからまる三重通訳であったから、どの質問にどう答えてくれたのかわからない、というのが実際のところだった。

 アラスカ、カナダ、ロシアの北極圏には同じ年に旅したが、ここでも明確な葬送の仕組みはわからなかった。生きることに精一杯の人々にとって、アジアから来たヘンな奴に「悲しい死」の話をしつこく聞かれるのはさぞ迷惑だったろう。

 樹木のない自然環境を見れば、こういうところではまず火葬することはできない。土の中に埋葬することも無理だろう、とのっけから判断できる。もし氷や雪をとり除いて大地に埋めたとしてもそこは通年凍っているツンドラだから、遺体はずっと溶けず大地と融合することはないだろう、ということぐらいは理解できる。
 ああいうとんでもない極寒の辺境では海氷を割って海に流すのでさえも難しいだろう。
<砂漠の小舟と死者の柩>
 砂漠を旅したときは国際的な探検隊の一員としてだった。目指すのはロプノールと楼蘭である。タクラマカン砂漠のただ中まで四輪駆動のトラックで車列を作りテント泊しながら砂漠の中を砂埃まみれになって進んでいく1ヵ月ほどの旅だった。

 目的地のロプノール(ロプ湖)は、スヴェン・ヘディンによって発見され『さまよえる湖』(岩波文庫)として世界中の冒険好きの人々の心を熱くさせた。琵琶湖の30~40倍ぐらいある砂漠の中の湖が1600年周期で数百キロも移動している、という推論が発表されたのだ。

 アルチン山脈のほうからタリム川という雪解け水を集めた大きな河が砂漠の真ん中に流れ込んできて大湖を作ったという。その巨大な湖が移動しているのはタリム川の流路が年によって大きく変わったからだ、というのが定説になっていた。
 干上がったロプノールを通過するのに1日そっくりかかった。10センチぐらいある真っ白で大きな巻き貝が見わたすかぎりころがっていた。

 楼蘭はシルクロードの要衝にあるアーリア系の王族が支配していた広大な砂漠の中の小さな王国なのだが、交易に有利なその立地や財宝を狙われて短いあいだに滅ぼされてしまった。

 探検隊は最終的にその荒れ果てた砂の古城内で三泊したが、そのあいだにかなりの数の古代の人の骨を見た。それらの中にはミイラもあった。シルクロードを行く盗賊に沢山の墓があばかれ、埋葬品めあてで蹂躙されたのだ。我々が行ったときにとくに印象に残ったのは死者が小舟の形をした柩に安置されていることだった。

 砂漠の真ん中に小舟の柩というのは不思議なとりあわせだった。それまでここに至った各国の探検隊によって、その舟の柩のことはいろいろに語られ分析されていた。諸説あってどれが正解なのかわからないが、砂漠のただ中では樹木が乏しいから火葬はできない。砂の中のほんの表層部分を掘って埋めても乾燥しきっているからミイラになるだけだ。

 ぼくは大湖ロプノールが砂漠の陽光の中でまんまんと水をたたえていた頃に、死者を小舟に乗せてロプノールに流し、湖の沖から天空に通じる道におくった、という美しい埋葬の風景を、極めて個人的に夢想した。


『遺言未満』2 :「四万十川での死」の続き
『遺言未満』1 :「四万十川での死」
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Last updated  2021.05.22 00:19:43
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