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2021.06.14
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カテゴリ: アート
図書館に予約していた『熱源』という本を待つこと1年で(最長記録で)ゲットしたのです。
島田雅彦の『エトロフの恋』という小説を最近読んだのだが、ロシア美人と残留朝鮮人のオモニが登場します。そしてこの『熱源』ではロシア美人と樺太アイヌが登場するわけで、舞台設定が似てなくもないのです。



【熱源】


川越宗一著、文藝春秋、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
故郷を奪われ、生き方を変えられた。それでもアイヌがアイヌとして生きているうちに、やりとげなければならないことがある。北海道のさらに北に浮かぶ島、樺太(サハリン)。人を拒むような極寒の地で、時代に翻弄されながら、それでも生きていくための「熱」を追い求める人々がいた。明治維新後、樺太のアイヌに何が起こっていたのか。見たことのない感情に心を揺り動かされる、圧巻の歴史小説。

<読む前の大使寸評>
島田雅彦の『エトロフの恋』という小説を最近読んだのだが、ロシア美人と残留朝鮮人のオモニが登場します。そしてこの『熱源』ではロシア美人と樺太アイヌが登場するわけで、舞台設定が似てなくもないのです。

<図書館予約:(6/08予約、副本33、予約676)>

rakuten 熱源


和人のなかのヤヨマネクフを、ちょとだけ見てみましょう。
p38~40
<五>
 ヤヨマネクフが知るアイヌの生活には、生業というものがない。生きるに足る食物を自ら山や海から獲り、生きるに要る道具を自ら小刀で削りだし、錦や宝玉、酒や煙草が要る分だけテンや熊の皮を獲ってきて売る。そのような古来からのアイヌの生き方は、いつのまにか半ばを奪われ、半ばを自ら捨てようとしている。

 自分たちではとても喰い切れない量の魚を獲って売り、着物やら時計やらこめやらを買い、家族を養う。いままでは死んでいたかも知れない傷病者は医者が治してくれるようになり、巫術はめっきり行われなくなった。いまヤヨマネクフが着ている綿の着物は開拓史から支給されたもので、つんつるてんだが草皮衣よりも暖かく、慣れれば肌触りも悪くない。

 文明が、樺太のアイヌたちをアイヌたらしめていたものを削ぎ落としていくように思えた。自分たちはなんの特徴もないつるりとした文明人になるべきなのだろうか。
「ほらほら、授業を始めるぞ」
 後ろから道守先生の声がした。
「入りなさい、“八夜招(ヤヨマネク)”」
“フ”の音が、日本語の音韻で育った人には聞こえないらしい。

 俺もいつのまにか、つるりとしてきた。口をすぼめて“フ”を自分で補いながら、先生に続いて教室に駆け込む。

「西郷先生は、まことにご立派であった」
 何度聞いたかわからない話から、その日の授業は始まった。機会がなくても道守先生は郷土の英雄という西郷隆盛を称揚する。怒ると怖いがふだんは優しく、アイヌの言葉は使えないが熱心に授業をしてくれる。道守先生はなんだかんだで生徒たちに好かれていた。その先生が尊敬してやまない"大西郷"は、いつのまにか校内でも屈指の英雄となっていた。

 続きの話は、皆知っている。維新の大業が成ったのち、私欲に走る官吏たちが政治をめちゃくちゃにし、大西郷は政府を辞めて国に帰った。軍人だった道守先生も軍を辞めて従い、大西郷が鹿児島に作った学校で教鞭をとった。その後も改まなかった政治を正すため、大西郷は兵を挙げた。道守先生は生徒のうち25人を率いる隊長となって大西郷に従い弾雨をくぐった。というのが、いつもの話だった。だが今日は別のことを言いだした。

「不肖道守、西郷先生とともに畏れ多くも天朝に弓引く賊軍となった。悔いこそなけれど、赦されざる大罪である。しかるに天皇陛下の一視同仁のご温情により再び国家に奉仕する機会を賜り、今こうして諸君らに学を講じておる」
 ヤヨマネクフの抱えている悩みを見透かしたような、けれど的には外れているような話だった。道守先生にとっては、日本への復帰だろう。だがヤヨマネクフにとっては、日本に呑まれるような立場なのだ。

<六>
 終業の二時を目前にして、ヤヨマネクフはすっかり眠気に抱き込まれていた。
 ふと首の力が抜ける。がくんと動いた視線の隅に現れた人影で、一気に覚醒する。
 庶務の職員に連れられ、一人のアイヌの男が教室横の廊下を歩いていた。もみあげの上から前髪を真上にそり上げ、後ろ毛は首の中ほど辺りで横にぱつんと切り揃えている。鼻下と顎は豊かな髭で覆い、ヤヨマネクフには文字通り目が覚めるように白い草皮衣で、大きな体躯を包んでいる。

 ここが樺太の海辺かと錯覚してしまうほど堂々たるそのアイヌは、チコビローだった。


最近読んだ『エトロフの恋』を付けておきます。

【エトロフの恋】


島田雅彦著、新潮社、2003年刊

<「BOOK」データベース>より
あの人は、深い森へと姿を消したー。恋に破れ、家は破滅し、声を奪われ、穢れた死者として追放されたカヲルは、最果ての島へたどり着く。「一番いい時代の私をあなたに預けます」-あの人の微かな声に導かれ、黄泉の国と繋がったこの場所で、恋は今再び、脈打ち始める…。島田雅彦の代表作「無限カノン」第三部完結編。

<読む前の大使寸評>
冒頭部を読むと、ソ連領となったエトロフ島が舞台となっていて・・・興味深いのです。

rakuten エトロフの恋





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Last updated  2021.06.14 00:51:14
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