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2022.05.23
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カテゴリ: カテゴリ未分類
図書館に予約していた『暁の宇品』という本を、待つこと5ヶ月ほどでゲットしたのです。
今でも日本近海や太平洋の海底に沈んでいる輸送船の数々・・・米軍の攻撃を受けて沈んだのであるが、そこには皇軍の兵站軽視という問題があったわけで、ここが大使の関心を引くのです。





堀川恵子著、講談社、2021年刊

<「BOOK」データベース>より
日清戦争、上海事変、ガダルカナル、そして8・6-。日本の「海の戦争」を支えた輸送基地=宇品港の三人の司令官と、軍都・広島が背負った「宿命」。日本軍事史上の最重要問題に光を当てる傑作。

<読む前の大使寸評>
今でも日本近海や太平洋の海底に沈んでいる輸送船の数々・・・米軍の攻撃を受けて沈んだのであるが、そこには皇軍の兵站軽視という問題があったわけで、ここが大使の関心を引くのです。

<図書館予約:(12/14予約、副本6、予約61)>

rakuten 暁の宇品

大発動艇


「第3章 上陸戦に備えよ」で、陸軍兵站の近代化が語られているので、見てみましょう。
p80~84
<ズーズー弁の天才技士>
 市原は阿吽の呼吸で通じる田尻班長の下、存分に働ける職場で飛び跳ねた。大発(大発動艇)に続いて一回り小さい小発(小発動艇)、装甲艇、高速艇甲、高速艇乙、特殊発動艇など、さまざまな種類の舟艇を怒涛の勢いで完成させていく。
 舟を持たぬ陸軍は、ようやく自前の「足」を得ることになった。

<船舶工兵と練習部>
 大発や小発が完成すれば、今度はそれを操縦できる人員が必要になる。いわば、陸軍版の水兵だ。田尻は船舶班長時代、後に陸軍の主要な制度として定着する二つの組織改革を宇品の運輸部を舞台に実現させた。

 まず目を付けたのは「工兵」の存在である。工兵とは、敵との戦闘を目的とする「歩兵」と異なり、専門的な技術で戦闘を支える兵隊のこと。具体的には道路の構築()や要塞陣地の建設、鉄道、電信、航空、測量などの分野がある。田尻はこれに「船舶」を加えられないかと考えた。 

 船舶輸送の仕事は、たとえば搭載荷の重量計算や必要燃料量の予想、輸送ルートの最短化の検討など緻密な計算が必要で、理系の能力が要求される。さらに操船やクレーンなどの機械を扱う揚陸の作業でも専門技術が必要だ。これまで民間人の腕と経験に頼ってきた業務だが、今後の戦闘をともなう上陸作戦を考えると、新兵器たる大発を民間人に操縦させるわけにもいかない。そこで工兵の文科の中に船舶部門を設け、上陸作戦の専門部隊を育成する方針を提案した。

 そうして陸軍に新設されたのが「船舶工兵」だ。その最初の拠点となったのが広島の第五師団である。
 広島市中心部の北側に「白島」という閑静な住宅街がある。私もここに長く暮らしたことがあるのだが、白島地区のへりをなぞるように流れる京橋川には広島市内で唯一の吊り橋がかかっていて「工兵橋」と呼ばれている。広島地区に明治から置かれた広島第五師団・工兵第五連隊が由来という。

 昭和2年、宇品の陸軍運輸部にもっとも近い工兵隊という事情から、その白島の中隊が日本で最初の「船舶工兵」に指定された。最初は数十人という小さな規模から始まり、宇品港沖で大発の操縦訓練を三ヶ月間、実訓練を150時間かけて行った。少し遅れて第11師団(善通寺)や第18師団(久留米)にも船舶こうへい部隊が儲けられ、各地で同様の上陸演習が行われるようになる。
(中略)
 最初は工兵の一分科に過ぎなかった船舶工兵は、後の数度の事変を経て徐々に数を増してゆく。田尻なき後の太平洋戦争には独立工兵連隊として宇品に拠点ができ、昭和18年には兵役法の改正で「船舶兵」という新たな兵種が誕生、約18万人を抱える大所帯となる。そんな近未来の景色を共有することができる者は、まだ田尻のそばにはいなかった。

 同じ時期、田尻が宇品で完成させたもうひとつの制度が「船舶練習員制度」だ。
 陸軍に入隊した兵隊は、陸上の戦闘訓練が中心で、船に接する機会はほとんどない。中には海をみたことのない兵隊すらいる。日本軍が外征するには必ず船に乗らねばならず、軍事教練では「下船訓練」も行われた。だがその内容は小学校の二階の窓から縄梯子をぶら下げ、地上に下りる程度のものに過ぎなかった。

 実際の現場では、波の影響で上下左右に激しく揺れ動く輸送船から重い背嚢鵜を背負って銃を持ち、完全武装の状態で艀を伝い、海面に揺れる小舟に飛び降りなければならない。これには相応の経験と技術が必要で、タイミングを間違えばすぐに足を骨折してしまう。足場を踏み外して転落でもすれば、重装備のまま海没することになる。

 また陸軍の御用船では、操船は一般の「船員」が行い、船内のあらゆる業務は「船長」が実権を握る。小型の舟艇とは異なり、高度な航海技術を必要とする輸送船では、これまで通り民間人に頼らねばならない。だが戦闘海域で戦況を分析して船上の部隊を統率したり、上陸地点を定めたり、兵隊や軍需品を揚陸したりする際に指揮をとるには軍人でなければ務まらない。

 そこで田尻は昭和4年、各師団から陸軍将校や下士官を宇品の陸軍運輸部に派遣させ、海洋での業務を訓練させる「船舶練習員制度」を創設した。言ってみれば陸軍版の「船舶兵学校」だ。内訳は毎年、甲練習員として陸大卒業者2名とその他将校8名、半年ごとに乙練習員として下士官約10名である。(中略)
 一人前の高等船員を養成する基礎教育は、後頭商船学校では座学3年と航海実習1年の4年を要する。それを宇品では将校に約1年、下士官に約半年の間、一気に学ばせるという猛烈なカリキュラムを組んだ。

 座学は「上陸作戦」「船舶輸送」「海運資材」「舟艇」「艤装」「揚搭」「港湾施設と海運地の設定」「海洋」「通信」「気象」「海図の見方」などの諸学科で、実技は「手漕」「水泳」「小蒸気船の運航」などの船舶の実務全般を修習する。最初は長い軍刀を腰から離そうとしなかった将校たちも、狭い船内を駆け回るうち帯刀をあきらめた。基本の水泳訓練は対岸の金輪島で行われ、宇品の練習員になると、ひと夏で元の顔がわからぬほど真っ黒になった。


『暁の宇品』1 :陸軍の操船





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Last updated  2022.05.23 00:12:12
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