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2022.12.26
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カテゴリ: 気になる本
図書館予約で借りた村上春樹著『女のいない男たち』を読んでいるが・・・ええでぇ♪
実はこの本は5年ほど前に借りて読んだことのある本なんですが(またか)
それに気づかず再度予約していたものなんです。
・・・ということで、今回の記事を(その3)としています。



春樹

村上春樹著、文藝春秋、2014年刊

<「BOOK」データベース>より
絡み合い、響き合う6編の物語。村上春樹、9年ぶりの短編小説世界。
【目次】
ドライブ・マイ・カー/イエスタデイ/独立器官/シェエラザード/木野/女のいない男たち

<読む前の大使寸評>
村上春樹の短編小説集ってか・・・
『1Q84』ブームの後に、こんな本が出ていたとは、春樹ファンを自認している大使としては不覚であった。

rakuten 女のいない男たち


「女のいない男たち」の冒頭の語り口を、紹介します。
p279~281
 夜中の1時過ぎに電話がかかってきて、僕を起こす。真夜中の電話のベルはいつも荒々しい。誰かが凶暴な金具を使って世界を壊そうとしているみたいに聞こえる。人類の一員として僕はそれをやめさせなくてはならない。だからベッドを出て居間に行き、受話器を取る。

 男の低い声が僕に知らせを伝える、一人の女性がこの世界から永遠に姿を消したことを。声の主は彼女の夫だった。少なくとも彼はそう名乗った。そして言った。妻は先週の水曜日に自殺をしました。なにはともあれお知らせしておかなくてはと思って。とかれは言った。なにはともあれ。

 僕の聞く限り、彼の口調には一滴の感情も混じっていなかった。電報のために書かれた文章のようだ。言葉と言葉のあいだにほとんどスペースがなかった。純粋な告知。修飾のない事実。ピリオド。

 それに対して僕はどんなことを言ったのだろう? 何かは口にしたはずだが、思い出せない。いずれにせよ、そのあとひとしきり沈黙があった。道路の真ん中にぽっかり開いた深い穴を両端から二人でのぞき込んでいるような沈黙。それから相手はそのまま、何も言わずに電話を切った。壊れやすい美術品をそっと床に置くみたいに。僕はそのあとしばらくそこに立ち、とくに意味もなく受話器を手に握っていた。白いTシャツに青いボクサーショーツというかっこうで。

 なぜ彼が僕のことを知っていたのか、それはわからない。彼女が僕の名前を「昔の恋人」として夫に教えたのだろうか? 何のために? またどうやって彼はうちの電話番号を知ったのだろう(電話帳には載せていない)。それにそもそもどうして僕なのだ? なぜ夫がわざわざ僕に電話をかけて、彼女が亡くなったことを知らせなくてはならないのだ? 彼女がそうしてくれと遺書に書き残していたとはとても思えない。僕と彼女がつきあっていたのは、ずいぶん昔のことだ。そして別れてからはただの一度も顔を合わせていない。電話で話したことさえない。

 でもまあ、それはどうでもいい。問題は彼が僕に何ひとつ説明を与えてくれなかったことだ。彼は妻が自殺したことを僕に知らせなくてはならないと考えた。そしてどこからか僕の自宅の電話番号を手に入れた。しかしそれ以上の詳しい情報を僕に与える必要はないと思った。僕を知と無知の中間地点に据えること、それがどうやら彼の意図するところであるらしかった。どうしてだろう? 僕に何かを考えさせるためだろうか?

 たとえばどんなことを?
 僕にはわからない。疑問符の数が増えていくだけだ。子供がノートにゴム印を手当たり次第に捺していくみたいに。

 そのようなわけで、彼女がなぜ自殺したのか、どのような方法を選んで命を絶ったのか、僕はいまだに知識を持たない。調べようにも、調べる手だてがない。僕は彼女がどこに住んでいるかを知らなかったし、そんなことをいえば、彼女が結婚していたことすら知らなかった。当然ながら彼女の新しい姓も知らない(男も電話で名前を言わなかった)。どのくらい長く結婚していたのだろう? 子供(たち)はいたのだろうか?

 でも僕は夫が電話で言ったことを、そのままのかたちで受け入れた。疑う気持ちは起きなかった。僕と別れたあとも、彼女はこの世界を生き続け、誰かと(おそらく)恋に落ち、その相手と結婚し、そして先週の水曜日に何らかの理由で、何らかの方法で、自らの命を絶ったのだ。なにはともあれ。彼の声には確かに死者の世界に深く結びついたものがあった。夜の静寂の中で、僕はその生々しい繋がりを耳にすることができた。


『女のいない男たち』2 :「女のいない男たち」p265~268
『女のいない男たち』1 :「シェエラザード」p173~175
『ドライブ・マイ・カー』が公開中なので :女のいない男たち





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Last updated  2022.12.26 00:30:18
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