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2023.04.16
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『小隊』という本を、待つこと11ヶ月ほどでゲットしたのです。
元自衛官の作家といえば、浅田次郎さんが、まず思い当たるが・・・砂川文次さんは次につぐ作家ではなかろうか。ロシアのウクライナ侵略に揺れる昨今、興味深い作品である。




砂川文次著、文藝春秋、2021年刊

<出版社>より
元自衛官の新鋭作家が、日本人のいまだ知らない「戦場」のリアルを描き切った衝撃作。
北海道にロシア軍が上陸、日本は第二次大戦後初の「地上戦」を経験することになった。自衛隊の3尉・安達は、自らの小隊を率い、静かに忍び寄ってくるロシア軍と対峙する。そして、ついに戦端が開かれたーー。

<読む前の大使寸評>
元自衛官の作家といえば、浅田次郎さんが、まず思い当たるが・・・砂川文次さんは次につぐ作家ではなかろうか。ロシアのウクライナ侵略に揺れる昨今、興味深い作品である。

<図書館予約:(5/11予約、副本3、予約43)>

heibonsha 小隊


わりと薄い本だったので、一気呵成に読みきってしまった。
ラストあたりを、紹介しておきます。
p147~ラスト
 段列(後方支援地域)は、やはりなくなっていた。連隊の車両は、どれも無傷とは思えなかった。同業者が力なく徘徊している。二人はすれ違う退院一人ひとりから情報を収集した。全体像が浮かび上がる。絶望的だった。

 段列を指揮していた4科長は、砲撃に遭って早々に行方不明となった。D/S(直接協力)の後支隊も壊滅した。居残る隊員たちのほとんどは戦意を喪失していて、ほとんどが鉄帽も小銃も身に着けてはいなかった。ロシア軍が来たら投降するつもりだと誰もが言っていた。
「空爆があったとき、連隊はすぐに後退の命令を出したんです。でも3中はGFのせいでうまく下がれなくて、全中隊が一線に張り付け状態になって、下がれるところから逐次に下がっていきました」

 4科の後方幹部が、花壇に腰を下ろしつつ力なく答えた。すでに彼は上衣すら脱ぎ、ドーランをすっかり落としていた。清々しくすらあった。いつにない晴天だった。暑い。後方幹部は五十がらみの、頬のたるんだ人のよさそうな男だった。部内の、多分SLC(3尉候補者過程)出の幹部だろうと思われた。
「何人かうまく逃げおおせるのを見ましたよ。W(WAPC)が一両、小一時間くらい前かな、おんなじように帯広まで行くって。パジェロも一両来ましたよ。まだあっちに止まってるんじゃないかな。疲れちゃった連中はここでおしまいです」

 安達は段々と苛立たしさがこみあげてきたから会話を切り上げた。二十名前後の隊員がこいつの出来の悪いクローンみたいにあちこちに腰を下ろして空を眺めたり膝に顔をうずめたり片腕を枕にしたりしている。命令違反は警務隊に引き渡すことになっていたが、そんなものはすでに空爆で吹き飛ばされていた。階級上位のものが命令に違反した場合、どう処置するのかは示されていなかった。想定していなかったのだ。このままここにいたらこいつらを殺してしまいそうだった。何にもましてこいつらに取り憑いている、まとっている空気は感染性だ。自分までどうにかなりそうだ。

 安達は「あっちに止まっている」とこの男が指示したあたりに視線をやった。枯れ果てた枝葉とバラキューに包まれたパジェロが一両、確かに停車している。エンジンも止まっていた。
「行くぞ」
 木村に声をかけた。その横顔には、ありありと羨望の色が浮かんでいた。
(中略して、一気にラストへ)

 国道には時折、どうしてそうなったのかはむろん分からなかったが、ワンボックスカーとか牽引トレーラーとかが道路脇に駐車したままになっていた。AMに切り替えると、普通に放送していた。おれたちのことは一言も触れていなかった。釧路川を渡り、釧路市街へと入る。こちらも住民の大半は避難をしていたが、全員ではない。

 ほとんどの店がシャッターを下ろしていたが、開いているいくつかの個人商店の店奥に人影を見た。敵が誤爆でもしたのか、釧路市街からも煙が立ち上っている。消防はもういない。火はどんどん燃え広がっていくだろう。自分が抑えられない。忽然と腹の底から何かがせりあがってくる。大声を出してダッシュボードを殴りつけた。収まらない。やたらめったらに暴れた。

 助手席のガラスに、蜘蛛の巣状のひびができていた。大勢殺された。次はこっちの番だ。安達は誓った。木村はおびえた目つきでちらちらと視線を投げかけてきている。いつの間にか大楽毛まで来ていた。渋滞も信号もないから早い。

 正午のニュースで、音威子府と釧路の二か所で大規模な戦闘があったと、アナウンサーが淡々とした音声で読み上げる。政府広報は、「まだ詳細は分からない、国民のみなさまには冷静な対応をお願いしたい」とコメントしているとのことだった。
「ちょっとトイレ行ってもいいですか」
 木村がまっすぐ前を向いたまま訊く。
「どこ寄る?」
「あそことかどうでしょう」

 左手には太平洋が、右手には東西に伸びる線路が一本。ぽつりぽつりと民家やパチンコ店が道路沿いに並ぶ。木村が言う「あそこ」がなんなのか、安達にもすぐ分かった。数百メートル先に、見慣れたオレンジ色と緑色のラインが入った看板が見えた。セブンイレブンだった。

「いいよ」
 木村は律義にもコンクリートに惹かれる白線に沿ってパジェロを止めた。駐車場に面したガラスは悉く割れている。自動ドアは枠だけだ。入ると、酸っぱいにおいがした。略奪があったのだろうが、まだかなりの数の商品が残っていた。安達は、ペットボトルの並ぶ陳列棚からコーラを取り出して半分ほど飲んだ。それからキャップを閉めることなく床に投げ捨て、次いでサッポロビールを取り出し、プルタブを引いて、こちらも半分ほど飲んでやめた。ぬるかった。
(中略)

 飲み物と食べ物、Amazonギフトカードを接収してパジェロに戻った。
 走り出してすぐにラジオを消した。うるさかった。もっと世の中がめちゃくちゃになっているのかと思ったが、そんなことはなかった。日経平均は1万を割ったがちゃんと開場している。リスナーは昨今の国際情勢に不安を覚えて、SNSでののしり合う人々を悲しく思い、明日はうつうつとしながら仕事に行くというメールをラジオ局に送って、DJが感傷的なコメントとともにそいつを読み上げていた。

 日常がちゃんと営まれていた。訓練で何よりもつらいのは、演習場の外、パジェロの窓の向こうに日常があるにも拘わらず、みじめに穴蔵で眠ったり風呂に入れなかったりねれなかったりすることだ。そういう点からいえば、今も何も変わっていない。背中が痒い。浦幌川にかかる万年橋に差し掛かったとき、「あそこの脇に入ってくれ」、と道路から逸れたところにある土手を指差した。もう耐えられなかった。

 砂利を踏みながら、川べりにパジェロが止まる。木村は訝しみながら安達を見ていた。安達は車から降りるなり、鉄帽を外して投げ出した。防弾チョッキを脱ぎ、靴を脱ぎ、全ての服を取り払った。足の裏に砂利が食い込む。

 右足を川に突っ込む。水に浸かっている部分が、くるぶしより先が、自分の身体ではない、別の何かに変わっていく。みんな死んだ。安達は川の奥へとどんどん進んで、潜った。身体の奥で鼓動がする。刺すように冷たい水だ。熱がある。身体の奥に、自分の奥に熱がある。川面から顔を勢いよく出し、空気を吸い込む。岸を眺めると、木村も服を脱ぎ始めていた。
 おれは生き残った。生き残ったのだ。





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Last updated  2023.04.28 23:10:03
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