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2024.01.30
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カテゴリ: 気になる本
図書館で「河原者ノススメ」という本を手にしたのです。
画像も多く、内容も充実していて・・・2010年泉鏡花文学賞受賞作というのも納得できるのです。





篠田正浩著、幻戯書房、2021年刊

<出版社>より
構想50年の渾身の書き下ろし。日本映画界の旗手が、芸能者たちの《運命》を丹念に追跡し読み解く意欲作。独自の視点で、日本の芸能の歴史を再構築する。2010年第38回泉鏡花文学賞受賞作。映画『夜叉が池』リメイク版公開を記念に、泉鏡花をめぐる文章を増補して新版として刊行。

<読む前の大使寸評>
画像も多く、内容も充実していて・・・2010年泉鏡花文学賞受賞作というのも納得できるのです。

rakuten 河原者ノススメ


『法然上人絵伝』(知恩院蔵)

まず、「第1章 芸能賤民の運命」の冒頭から、見てみましょう。
p12~16
<善と悪の変転>
 奈良の平城京から抜け出した古代王権が、山城の京都に遷都して平安京を確定させると、中世と呼ばれる多様で世俗的な時代が到来した。この時代変革は、古代大和王権の宗教儀礼に関与しながら育ってきた芸能とその縁者たちの境遇に、多様な変容をもたらした。その変容の底知れない形態は、日本演劇への歴史的考察を錯綜させ、その所説を解題するだけでも、あまりのハードルの高さに呆然とするばかりである。

 まず「中世」という時代区分が問題となる。西洋史では、東方のフン族の圧迫で四世紀頃にはじまったゲルマニア民族の大移動から、百年戦争が終結した
十五世紀頃までを指すと教えられてきたが、日本史では、武士が政権を奪い鎌倉幕府が成立した十二世紀末から室町幕府の消滅までと定義されている。しかし、山路興造は芸能史にこのような政治史の時代区分は合わないとする。

 たしかに芸能の変容が歴史の変動と連動してきた例は多くあるが、化石のように古代が温存、継承されてきた芸能もある。山路興造は「中世」を、古代から中世への流れと、中世から近世への流れの二つに区分し、天皇家が継承権で分裂抗争した南北朝をもって境界とした。私はこの意見に賛意を表したい。

 さらに、芸能を論ずるにはコトバだけではすまないという難問が控えている。私が学生だった昭和20年代の教室でも邦楽史の授業があったが、テレビはもちろんのこと、テープレコーダーもまだ教室にはなかった。芸能者が演ずる音声や舞踏の姿を、現代のエレクトロニクスが再生する音声や画像として体験することはできなかった。芸道物や時代劇の映画音楽、極めてまれに歌舞伎・能狂言の舞台鑑賞、そしてラジオから耳にする邦楽演奏だけが頼りであった。
 私の場合、姉たちが嫁入り前の教養で琴や三味線を倣っていたので、門前の小僧よろしく『六段』や『越後獅子』を口ずさむ程度の体験があった。

 十二世紀、源平争乱に翻弄されながら後白河法皇自ら編纂した『梁塵秘抄』は、平安期に流行した「今様」の歌謡集である。だが、歌詞そのものは採録されたが、肝心な今様の温局自体がどのように歌われたかは、推測の域にとどまっている。

『紫式部日記』の寛弘5年(1008)8月20日過ぎの手記では、宿直の公達たちが秋の夜長に読経争いや今様の美声を競ったと記されている。傀儡女と卑しめられた芸能者の唄が、貴族たちの世界に深く浸透していたさまが読みとれる。
 読経争いという言葉から、仏教の勤行が美声を競う芸能と化している光景も興味深い。

 この紫式部の時代の今様が、百数十年後の源平争乱の最中に後白河法皇によってさらなる「今様」となり採録されたのだ。後述するが、源義経の愛人だった静御前も白拍子で、兄頼朝と政子の夫妻の面前で今様を舞い歌ったことは有名である。今様という芸能をひとつ取り上げても、中世の混沌とした変容と向かい合ってしまう。

 遊女の好むもの
 雑芸 鼓 小端舟
 おほがさ翳し 艫取女
 男の愛祈る百太夫
(『梁塵秘抄』380番歌)

 嘉禎3年(1237)に成立したという『法然上人絵伝』(知恩院蔵)の中に、江口、神崎という高名な港町のある淀川水系河口の光景が描かれている(図)。大傘を差しかけられた遊女が小舟に乗って、船旅へ向かう貴族たちの停泊している船へ、鼓を鳴らしながら近づいていく。楫をとって櫂を漕ぐのも女である。遊女が鼓の音を川面に響かせながら旅船へと接近する風情には、身を売る女の哀歌がある。





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Last updated  2024.01.30 00:17:16
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