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「しまった、チラシ読んでもた。これ読んだらアカンやつや。事情がわかっちゃうやん。まあ、しかたがない、読んじゃったんやし。」 暗くなって映画が始まりました。
「前の方の、あの丘、あれ越えたら、何か見えてくるんかなあ。砂と石か。荒涼としとんなあ。」 ボンヤリと映像に引き付けられていきました。同じシーンが続いています。ふっと、息をつくと、いきなりシーンが変わりました。
前へ、前へ、、右へ、ストップ。後、後、左へ、ストップ。 身体がしなやかに動きます。地面を滑るように踏まれるステップ。 「捧げつつ」 のまま固定した自動小銃を軸にして、体が前後左右に滑っていくのです。
「すごいなあ、このシーンだけで、この映画は見る価値があるな。続けて、もっと続けて。」 ラクダが通りかかります。ほかには何もやって来ません。兵士たちは退屈しています。4人の若い兵士が、毎日、少しづつ傾き続けているコンテナの中で暮らしています。国境でしょうか、検問所の休憩所です。一人の青年が、退屈しのぎに コミック画 を書いています。
「これか、 フォックストロット って。夢の中みたいなダンスや。砂漠の真ん中やで。」
「ここに漂う気配はなんだろう?」 兵士たちは、やはり、退屈していて、不機嫌です。
「何に苛立っているのだろう?」 酔っているのだろうか、車の中で騒いでいる4人連れの若者が通りかかります。ドアが開いて、何かが転がり落ちました。車の中の誰かが叫びます。いきなり重機関銃が連射され、車は蜂の巣のようになりました。
前へ、前へ、、右へ、ストップ。後、後、左へ、ストップ。 もう一度シーンが変わりました。最初のシーンの繰り返しのようです。砂漠の中の、石ころだらけの一本道を車が走っています。やがて、砂漠の丘の向こうが映し出されます。
「前へ、前へ、、右へ、ストップ。後、後、左へ、ストップ。」 と、独り言を言いながら、神戸駅まで歩いきました。誰かが、そばで見ていたら、確実に危ない徘徊老人だったでしょう。でも、無性にうれしかったのです。
「また、メモなしやん。どこいってたん?」 スジ無しで、感想をいうのは、なかなかムズカシイ。
「でも、垂水から歩いてんで。」
「はいはい、映画行ってたん?パルシネマ?」
「いや、シネ・リーブル。今日のは最高やで。観にいきや。話はな、あっ、いうたらあかんな。結構、オーソドックスな、映画!っていう感じやねんけど。うん最後まで謎があって。でも、アメリカの映画の感じとは違うな。」
「怖いん?辛いん?哀しいん?どれ?」
「うん、まあ、哀しいかな?泣いたな。でも、最近、すぐ泣くからな。途中、大丈夫、これは泣かんなやつやと思ってたら、泣かされた。アンナ、このチラシのこの子が踊るねん、砂漠の真ん中で、めちゃめちゃかっこええねん。ムーンウオークみたいなん。」
「ダンスなん?そういうの好きやわ。行こうかな。」
「うん、いきいき。アッ、でもチラシも読んだらあかんで。」
「エッ、読んでもた。」
「しゃーないな。」
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