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2020.01.02
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​​フー・ボー 胡波「象は静かに座っている」元町映画館
 上に貼ったチラシをご覧ください。

​​ 正面で遠くを見ている少年が、 ウェイ・ブー 。彼は今日、恐喝されている友達 カイ をかばって、事故とはいえ、人を一人殺しました。​​
​​ 横顔が写っている、少し近くを見ている少女が ファン・リン 彼女 は通っている高校の教員の 「不倫」 相手であることがネットで拡散し、怒鳴り込んできたその教員の妻と不倫相手の教員を金属バットで殴り倒しました。彼女は ウェイ・ブーの同級生 です。​​
​​​​​​​​ 帽子をかぶって、うつむいているように見える姿が写っている男が ワン・ジン は娘夫婦から老人ホームへ行くことを要請され、挙句、アパートから出ていくことを命じられている老人です。が、今日、 は長年飼い続けてきた愛犬を、散歩の途中、金持ちの飼い犬にかみ殺されました。彼は ​ウェイ・ブーの隣人​ です。​​
 チラシの裏面に、 ウェイ・ブー に話しかけてる男がいます。彼がこの町のチンピラ達を仕切っている青年 ユー・チャン
​​  は昨晩、友人の妻だか、恋人だかと寝ました。妻の情事を知った友人は、今朝、 ユー・チャン の目前でマンションの窓から飛び降りて死にました。​​
​​​ 同じ、今日のことですが、 ユー・チャン ​​の弟が死にました。弟を殺した少年 ウェイ・ブー を、漸くさがしだし、今、 石家荘 の駅裏の丘の上で 「落とし前」 をつけようとしているのが、この写真のシーンです。​​​​​​​​​
「どこに行こうとしてた?」
「満州里」
「何をしに行く?」
​​「象を見る」​
​​​​​  ウェイ・ブー が庇った 「嘘つき少年 カイ がピストルを持ってあらわれ、すべてを告白し、 ユー・チャン を撃ちます。撃たれた ユー・チャン が言います。 ​​​​​
「おまえらはゴミだ」
​​「この世界、ヘドがでる」​
​​ ​ カイ はそう答えると銃口を自分に向けます。​
​銃声が夕暮れの空に響きます。​
​​​​​ようやく 石家荘 の鉄道駅に、 ウェイ・ブー、ファン・リン、ワン・ジン の三人と、 ワン・ジン の連れてきた 孫の少女 が揃います。ゴミだめのような 「この世界」 から掃き捨てられた三人です。集まった三人が求めているのはいったい何でしょう。
ウェイ・ブー 満州里の動物園の象 の話をします。 満州里 は中国の北の果ての町です。そこの動物園の檻の中に座っている象に逢いたいと
ウェイ・ブー はいいます
 彼らは何を求め、どこに行こうとしているのでしょう。それにしても、
「出発」 することのほかに、どんな 「生き方」 があるというのでしょうか。
 しかし、ここまで来て、乗ろうとしていた列車は運休でした。そこから先の道行きのあてはありませんが、 瀋陽 に向かう夜行バスに乗るしか 満州里 に向かう方法はありません。​​

​ 諦めて、その場を去ろうとする 老人
ワン・ジン に向かって ウェイ・ブー が声をかけます。​
「どこへ行く?」
​​「人は行ける、どこへでもな。そしてわかる、どこも同じだと。その繰り返しだ。だから行く前に自分まで騙すんだ。今度こそ違うと。わかわるか?お前はまだ期待している。一番いい方法は、ここにいて向う側を見ることだ。そこがより良い場所だと思え、だが、行くな。行かないからここで生きることを学ぶ。」​​
​​​ そう答えると、孫の手を引いて駅から出ていこうとする 老人ワン・ジン を追った少年が一言叫びます。​​​
​「行こう!」​​
​​​​​​​​​ 「『希望』はどこにあるのか?」
「『希望』はここにではない、地の果てでじっと座っている!」
「だからワン・ジン、あんたもあきらめるな!ぼくと一緒に行こう!」
​  ウェイ・ブー のそんな叫びが聞こえてくるようでした。スクリーンを見ている老人の涙が止まりません。​
​ 三人と小さな少女を乗せたバスが高速道路を走ります。まだ明けない闇の空に アフリカ象の雄叫び が響きわたりました。​
​パゥオー!
 ぼくのなかで 2019年ベスト1 の映画が決定した瞬間でした。​​​​​​​​​​​​​

 監督 フー・ボー 胡波
脚本 フー・ボー
撮影 ファン・チャオ 范超
美術 シェ・リージャ 謝萌佳
編集 フー・ボー
音楽 ホァ・ルン
キャスト
    チャン・ユー 章于(ユー・チェン 街のチンピラ)
 パン・ユーチャン彭昱暢 (ウェイ・ブー 高校生)
ワン・ユーウェン 王玉雯(ファン・リン 女子高生)
リー・ツォンシー李双喜(ワン・ジン 老人)
2018 年製作/ 234 分/中国 原題「大象席地而坐」英題「 An Elephant Sitting Still」
2019 12 20  ​元町映画館​no33

​​ ​​​ 追記2020・01・01 ​​ 
 全く偶然なのですが、 「満州里」 という場所について、ぼくには思い出があります。四十代の半ば、神戸で大きな地震があった、その数年後のことです。転勤した郊外の職場の近くには、まだ、たくさんの仮設住宅が立ち並んでいました。

どこか遠くに行ってみたい という願望があったのでしょうか。長期休業の期間、何度か、休みを取って中国の 内モンゴル自治区 の首都、 呼和浩特(フフホト) という町の日本語学校に日本語を教えに出かけたことがあります。​
 その学校で学んでいたのは、十代の終わりか二十歳過ぎの若い人たちだったのですが、それぞれ専門学校や高等学校を出て 「日本に行きたい」 という夢を持っていました。その中に遊牧で暮らすモンゴル族の少女がいました。
「故郷はどこですか?」
 そう尋ねたぼくに、彼女は教室の後ろに貼ってあった世界地図を指さしながら答えてくれました。
「家族は、今、このあたりにいると思います。」
 彼女の指は中国とロシアの国境近く、バイカル湖の少し南のあたりを押さえていました。家族に会うには二泊三日の列車とバスの旅をするそうです。その故郷の駅が​ 「満州里」 でした。 石家荘 からであれば、おそらく2000キロを超える彼方の町です。
 あれから、二十年の歳月がすぎました。名前も忘れてしまった彼女が、念願の日本留学を果たしたのかどうか、本当に、この国で 「希望」 を見つけたのかどうか、今となっては、もう、わかりません。​​​​​​​​​​
​​​​ 中国も日本も 「希望」 を見つけにくい国になっていることは間違いないでしょう。 28歳 で、この映画を作った 監督フー・ボー は、 29歳 で自ら命を絶ったそうです。​まったく、言葉がありません。​哀しいだけです。
追記2021・07・28​
東京オリンピック2020 が開催されています。この国のコロナの感染者数は最多数を更新し始めていますが、メディアは金メダルに驚喜しています。 SNSの投稿に若い人たちの 「金メダル・イイネ!」 が氾濫しています。
 1936年 ヒトラー が強行し、 レ二・リーフェンシュタール 「オリンピア」 という映画で宣伝した 「ファシズム」の祭典 を思い浮かべています。中止された 1940年 東京オリンピック のために建設された国立競技場、 「明治神宮外苑競技場」 ​では、 1943年 2万5千人 の学徒兵士が行進し、歓喜の拍手で戦場に送られた 「学徒出陣式」 が行われたそうです。
 「ゴミだめ」 化しつつある世界から、 「希望」 を見つけるために 「出発」 することは可能なのでしょうか。少なくとも、歴史を振り返ることを忘れているこの国に明るい未来が待っているとは思えません。
 古い投稿を修繕しながら、 ​監督フー・ボー​ が生きていたら、今、どんな映画を撮るのだろう、そんな思いがふと湧きました。​
​追記​2022・08・20
​ コロナの蔓延の中で強行されたオリンピックが終わって一年経ちました。 強行した権力者は狙撃され、取り巻きの権力者たちとインチキ宗教との結託が暴露され始めています。 インチキな記録映画は不発に終わりましたが、一方で、庇い手がいなくなったのでしょうか、お金にまみれた関係者が逮捕され始めました。コロナの蔓延は、もはや警報状態ですが、有効な対策として打つ手もなければ、打つ気もない様相です。いよいよ ゴミだめ がぶちまけられ始めたのでしょうか。
 今や 「希望」 という言葉が死語になりつつある予感、いや、実感さえし始めましたが、それでも、 希望 にかけたい今日この頃です。どこかに、 静かに座っている象 がいるのではないでしょうか。​

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最終更新日  2023.09.04 00:24:47
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