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【 7
日間ブックカバーチャレンジ】(2日目)(2020・05・13)
です。
今日は二日目です。一日目が 「本を焼く話」
だったので、二日目は 「本を作る話」
です。
「本」
が出来上がる工程は、ちょっと考えただけでも 「書く人」
、 「編集する人」
、 「印刷・製本する人」
、 「売る人」
、そして 「読む人」
という具合ですが、今日は 「印刷する人」
についての紹介です。
で、紹介するのは 松田哲夫「印刷に恋して」(晶文社)
です。
まず、 松田哲夫
という人ですが、若い人にはなじみのない名前でしょうね。
「偏集狂」
と自称した 「編集する」
人で、 1978
年
に一度倒産した 筑摩書房
の復活を支えた編集者の一人です。
和田誠
が似顔絵を描いている 「編集狂時代」(新潮文庫)
が、自伝的回想なのですが、読めばわかります。小学生の時から面白い人です。
世の中には野球ゲーム盤だけを、一人で操作して、プロ野球のシーズンをセ・パ両リーグに渡って開催し、一チーム140試合の戦いを、全12チームについて実施することを、無上の楽しみとするような人が実際に存在します。ぼくの友人は、大学生の時に、実際に、かなり真剣にやっていましたが、 松田哲夫
という人はそういうことに熱中できる小学生だったらしいというところから、この回想は始まります。
しかし、まあ、 「編集狂時代」
については、べつに案内するつもりなので、今日はこれくらいにしておきます。
1978年
といえば、ぼくは大学生でした。つぶれてしまった 筑摩書房
が、再建されて、新たに 「ちくま文庫」、「ちくま学芸文庫」
を創刊したころで、大学生だったぼくは 「文学の森シリーズ」、「哲学の森シリーズ」
というベストセラー・シリーズの恩恵に直接与ったのわけですが、企画のアイデアは 松田哲夫
だったということです。作品・テーマと人とを組み合わせる 「アンソロジー」
の編集センスが、多分、独特なんだと思います。
専務だった 筑摩書房
での最後の仕事が、今は亡くなってしまった作家の 橋本治
をアドヴァイザーに据えて企画した 「ちくまプリーマー新書」
の創刊ですね。十代をターゲットにした新書の登場は画期的でした。結局のはなしですが、 「ちくま」
を平仮名にしたのが彼の、ひょっとしたら、一番の功績だったかもしれませんね。
橋本治
の 「ちゃんと話すための敬語の本」
は プリマー新書
の 創刊第 1
巻
です。
とはいうものの、ぼくにとっての 松田哲夫
は 「性悪ネコ」
の やまだ紫
とか、 「百日紅」
の 杉浦日向子
のマンガの文庫化や「全集」化の編集者であり、 赤瀬川原平
が唱えて面白がられた 「トマソン」
とか 「路上観察学」
の仕掛け人で 「路上観察学会」
の会長だったりする人で、実に「キッチュ」で「ヘンテコ」な人が 松田哲夫
ですね。
その 松田哲夫
が西暦 2000
年、書籍印刷の大手、大日本印刷の工場に突撃ルポしてできたのがこの本です。で、面白いことにこの本の一番の眼目は印刷機械や工程のイラスト画です。それを描いているのが 内澤旬子
です。
「世界屠畜紀行」(解放出版社)
で度肝を抜く以前、 斉藤政喜「東方見便録」(文春文庫)
で、アジア諸国のトイレのイラストを描いて、一部の人間から
「くさいヤツ」
とうわさされ始めていたころの 内澤旬子 仕事です。
これも、トイレのイラストおもしろいです。 「東京見便録」
というのもあった気がします。
最初に貼った
表紙の写真をご覧になれば分かると思いますが、このリアルで、いかにも 内澤旬子
ふうのメモいっぱいの細密画が 100
ページ以上あります。ようするに絵本なんですね。
物としての 「本」
に興味があって、こういうのをチマチマとご覧になるのがお好きな方には応えられない 「本」
ですね、きっと。
表紙でお気づきの方もあると思いますが、装幀が 平野甲賀
、企画が 晶文社
の 津野海太郎
なのですから、名うての「本づくり」達が、総出で作った本というわけです。
津野海太郎
という人は、 晶文社
の編集者で伝説の 植草甚一
を始め、 小林信彦
、 片岡義男、リチャード・ブローティガン、
ピアニストの 高橋悠二
の 「水牛通信」
を世に出した人なのですが、一方で、劇団 黒テント
の演出家でした。ぼくが黒テントの芝居で名前を知ったのが70年代でしたが、彼が晶文社とどういうかかわりがあるのかわかりませんでした。2000年になって気付いたら社長さんでした。最近では新潮社のウェブマガジン 「考える人」
に 「最後の読書」
を連載しています。
最後に 「印刷に恋して」
に戻ります。こういう本は、やはり図書館がたよりですよね。早く図書館があけばいいですね。じゃあサヨウナラ。次回は3日目ですね。
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