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2021.02.23
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カテゴリ: 歴史
図書館で『コロンブスの図書館』という本を、手にしたのです。
先日『図書館超活用術』を読んだばっかりで、この本のタイトルに反応したわけです。






エドワード ウィルソン リー著、柏書房、2020年刊

<「BOOK」データベース>より
1539年、スペイン・セビーリャー世界最高の図書館をつくりあげたのはコロンブスの息子だった。あらゆる分野におよぶ蔵書は、ヨーロッパ一の規模を誇り、さらにその図書館には驚くべき“仕掛け”があったー。持ち主の名はエルナンド・コロン、コロンブスの私生児である。15世紀半ばのグーテンベルクの印刷革命から100年足らず、ルネサンス、宗教改革、大航海時代の最前線で世界のありとあらゆる情報を集めて目録化しようと試みた書物狂の知られざる物語。

<読む前の大使寸評>
先日『図書館超活用術』を読んだばっかりで、この本のタイトルに反応したわけです。

rakuten コロンブスの図書館

コロンブスの上陸


エルナンド・コロンの死から始まる冒頭の語り口を、見てみましょう。
p10~13
<プロローグ>
 セビーリャ
 1539年7月12日

 死を迎える日の朝、エルナンド・コロンは枕元にひと椀の土を運ばせると、使用人たちに言った。私にはもう腕を持ち上げる力もない、その土を顔に塗ってくれないか…。

 10年以上も忠実に仕えてきた使用人たちも、主人はついに正気を失ってしまったのかと、今度ばかりは指示に従おうとしなかった。そこでエルナンドは最後の力をふりしぼって椀に手をのばすと、みずからの顔に土をこすりつけた。

 グアダルキビル川の土…セビーリャの街をくねりながら進み、彼の屋敷をその腕に抱くゆるやかな流れが運んできた土で顔を汚しながら、エルナンドはラテン語でつぶやいた。それを聞いてようやく、集まっていた者たちは彼のこの行為の意味を理解したのである。「人はみな土より生まれ出で、土に還る」

 その少し前、グアダルキビル川の対岸で、エルナンドの父である“太洋の提督”クリストファー・コロンブスの亡骸が、その同じ土から(30年間眠りつづけた墓から)掘り起こされた。史実がエルナンドの言葉どおりならば、探検家の骨とともにあらわれたひと山の鎖を見て、墓を掘り返した男たちは驚いたことだろう。

 その鎖は、エルナンドの過去のある一点へとつながっている。当時12歳だった彼の目の前に久方ぶりにあらわれた父は、その鎖で縛られていた。みずからが発見者であるはずの楽園、スペインへの贈り物であった楽園から、コロンブスは囚われの身として帰還したのである。

 偉大なる探検家の副葬品、コロンブスが自身の亡骸とともに埋葬してほしいと望んだその鎖の意味をエルナンドが明かしたのは、晩年になって父の伝記を書きはじめてからだが、死の朝にみずからの顔に土を塗った意味は、その場にいた全員に伝わったことだろう。それは卑屈なまでの謙遜のしるしだ。

 自分はそうやって堂々とへりくだって見せるに値する偉業を成し遂げた人物だと、彼は自覚していたのだ。わが身がまもなく朽ち果てていくのを喜んで受け入れようとしているこの男は、時の猛攻撃にも永遠に耐えうる、ある仕組みを構築したのだから。
 このパフォーマンスのあとまもなく、午前8時ちょうどに、エルナンド・コロンは息をひきとった。

 1時間後、エルナンドの次なる出し物、風変わりな死のページェントが始まった。遺言の読み上げのために、近親者たちが彼の屋敷に集まってきた。彼らはプエルタ・デ・ゴーレスの門をくぐり、名も知らぬ植物が植えられた庭園を抜けて、グアダルキビル川のほとりに建つイタリア風のヴィラへやってきた。

 並外れた記憶力をもつリストマニアで、細やかな道義心の持ち主であったエルナンドの遺言書は、じつに詳細だった。そこには、なにがしかの借りがある相手の名前が、それこそ20年近くも前に借りをつくったラバ追いにいたるまで、ずらりと書き連ねてあった。道義心にもとづくこのリストが尽きたあと、遺言はいよいよ本題に入るのだが、その内容は当時の人々にはとうてい理解不能なものだった。

 エルナンドが遺した財産の主たる相続人は人間ではなく、彼の驚くべき創造物…図書館だった。この世で築いた財産を一群の“本”に遺すなど、ヨーロッパの歴史が始まって以来のことであり、その行為そのものが当惑を招いたに違いないが、それをさらに理解不能にしていたのが問題の図書館の“形態”だった。

 エルナンドの蔵書の多くは、当時の大型図書館に大切に所蔵されていた手稿本、すなわち神学や哲学、法学などの大冊、その価値に見合う豪華な装丁がほどこされた貴重な書籍ではなく、むしろ地位も名声もない著者による本や小冊子、さらに酒場の壁を飾るような、1枚の紙きれに印刷された物語詩(バラッド)など、当時の人々には紙くずにしか見えない代物だった。

 偉大なる探検家の息子が遺したものは、はたから見ればなんの役にも立たないごみ同然だったのである。しかしエルナンドにとっては、あらゆるものを蒐集し、それまで誰も思いつかなかった“ユニバーサル”な図書館をつくりあげたいという夢へ近づけてくれるかけがえのないものだった。

 いつ始まりいつ終わたのかもわからない種々雑多なコエクションには、書物に加え、いくつもの収納箱に入った版画(史上最大なコレクションだった)のほか、1ヶ所に集められたものとしては最多となる楽譜も含まれていいた。また、外の庭園には世界中から集めた植物が植えられていたと伝えられるが、当時はまだ、そうした庭を呼ぶ“植物園”という言葉は存在しなかった。

 エルナンドの図書館を訪れた人々は、じつは奇異な光景に出迎えられたことだろう。膨大なコレクションはまさに壮観で、当時の個人蔵書としては他の追随を許さず、視界に入りきらないほど先の先まで本がずらりと並び、遠くのほうはかすんで見えたに違いない。そしてどこか方向感覚を失ったような感じがするのは、図書館の壁が消えているせいだと気づいただろうか。

 壁があるはずの場所には、特別にしつらえた木のケースに本が“立てて”並べられ、それが何段にも積み重ねられていた。現代人の目にはなんの変哲もない書架だが、当時この図書館を訪れた人々にとっては初めて目にするものだった。

 この書架は、エルナンドの途方もない図書館にこらされた驚くべき意匠のひとつにすぎず、ほかにも入り口に掲げられた「この建物は糞の上に築かれた」と誇らしげに宣言する銘文をはじめ、なんとも説明のつかないものがいくつもあったのである。


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Last updated  2021.02.23 00:08:11
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