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2021.03.21
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カテゴリ: 気になる本
図書館で予約していた『星に仄めかされて』という本を待つこと2ヶ月ほどでゲットしたのです。
多和田葉子さんと言えば・・・
ドイツに在住の作家で、なんといっても「パンスカ」という言葉を造語した言語感覚が素晴らしいのです。つまり汎スカンジナビア語を「パンスカ」としたのです。





多和田葉子著、講談社、2020年刊

<「BOOK」データベース>より
世界文学の旗手が紡ぎだす国境を越えた物語の新展開!失われた国の言葉を探して地球を旅する仲間が出会ったものはー?

<読む前の大使寸評>
多和田葉子さんと言えば・・・
ドイツに在住の作家で、なんといっても「パンスカ」という言葉を造語した言語感覚が素晴らしいのです。つまり汎スカンディナビア語を「パンスカ」としたのです♪

<図書館予約:(1/05予約、副本5、予約20)>

rakuten 星に仄めかされて


「だるまさんが転んだ」という遊びが語られているので、見てみましょう。
p265~269
 わたしの同級生はそんな時代の流れの中で全国紙に躍り出た「北越プラーブダ」という新聞に勤めていた。ところがある時、ロシアと中東の間を縫うようにジープを走らせて取材してルポルタージュを書いていて、テロ組織に捕まってしまった。

 テロ組織は、国に多額の身代金を要求してきた。世間では、「勝手に危険な地区に乗り込むような、しかも自国の政府を批判するような民間新聞の記者になぜ税金から身代金を出さなければならないのだ」という意見が強かった。政府は、「最近は身代金を出しても人質が殺されることが多いので、安全のために身代金は出さないことにした」という声明を発表した。

 この丁寧で、誰が聞いても完璧に理論的で矛盾を全く感じさせない、さすが政府としか言いようのないみごとな説明に国民は納得したのか、身代金は払われず、政府に抗議するデモも起こらなかった。ところが人質になった本人は殺されなかった。どこに滞在しているのかは不明だが、政府のサイトに不正侵入して、「自分を助けてくれない国家になど未練はない。kれからは翻訳者になってテロ組織に情報を提供するつもりだ。スパイになるつもりはない。ただ、正しい情報がいろいろな方向に流れるようにしたいだけだ」などという大胆なメッセージを送ってきた。

 彼の行為を「国を売る許し難い行為」と批判した大臣に対して彼はすぐに、「自分は国も栗も売っていない。時々市場でピスタチオを売っている程度だ」という答えを返してきた。わたしはなんどかピスタチオという響きがおかしくて、涙が出るまで笑ったのを覚えている。

 「だれかさんがころんだ!」
 全く表情を動かさないsusanooに向かって歌うように口ずさんでみると、「誰かさん」ではなくて、「だるまさんが転んだ」という遊びだったような気がしてきた。どっちだろう。誰かさんか達磨さんか。サムバデイかボーディダルマか。

 「どうしたの? 何を言おうといているの?」
 クヌートがまた待ちきれなくなったのか、わたしの肘を後ろから掌で包んで揺らしながら訊いてきた。いい香りがゆっくり鼻の粘膜にしみていった。クヌートは杉林とラベンダーと焼きたてのパンの混ざったような香りがする。わたしはこぼれてくる微笑を隠さずに答えた。

 「子供の遊び。誰かさん転んだ。または達磨さんが転んだ。誰なのか、達磨なのか。」
 「ダルマって誰?」
 「何年も座禅を組んでいたら、手と脚がなくなった人。達する人。磨く人。それが達磨。」

 わたしは喋る時にも漢字を思い浮かべて喋っている。クヌートには漢字は見えないんだな、とふと思った。とすると、クヌートはアルファベットを声にしていることになる。ダルマと言う時もアルファベット。鮨と言う時もアルファベット。わたしがそんなことを考えているとも知らずにクヌートは言った。
 「いつだったか、ダルマという名前のレストランに行ったことがあるよ。そこで赤貝の鮨を食べた。ところで、カルマとダルマの関係は?」
 「どちらもインド発。」
 「インド!?」

 予想外の方向から素っ頓狂な声が飛んで来た。いつの間にかドアが開いていて、しきいの向こうに真っ赤なサリーを着たアカッシュが立っていた。ナヌークは厳しい顔を保とうとしながらも口元に微笑をにじませて、早く中へ入ってドアを閉めるようにとアカッシェに手で合図した。

 アカッシェは赤い。ダルマ人形も赤い。もちろんサリーの鮮やかな紅色は、民芸品の土臭くて温かい赤とは違う。体型もアカッシェはほっそりしていて、達磨さんとは対照的だ。アカッシェ、達磨さんって知っている? インド人よ。そんな風にアカッシェに話しかけたかったけれど、アカッシェには英語で話しかける必用があるし、今英語を使ってしまうとsusanooから気持ちが離れてしまいそうだったので、わたしはアカッシェにはうなずいてみせただけで、susanooに向かって言った。
 「達磨はインド人だったと知った時は意外だった。そんなに遠い国の人だったなんて。子供の頃、一番好きだった料理はカレー。わたしだけじゃない。みんなカレーが好きだった。あんたもそう? 子供の頃から馴染んできたヒトやモノが遠いインドから来たなんて不思議ね。だから人は自分の子供時代に出遭うために、遠い外国を旅するのかな」

おお 日本語におけるカタカナの機能が、欧米語ではアルファベットになるのか。更に、漢字が概念を表すなど・・・やはり日本語は最強のハイブリッド言語なんだろう。

『星に仄めかされて』1 :「パンスカ」が出てくるあたり





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Last updated  2021.03.23 21:10:15
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