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2021.07.06
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『溶ける街透ける路』という本を、手にしたのです。
この本の目次を見ると・・・ヨーロッパ、北米の都市名が並んでいます。つまりそれだけ動き回っていたわけで、パンスカを生み出した人はすごいでぇ。






多和田葉子著、日経BPM(日本経済新聞出版本部)、2007年刊

<「BOOK」データベース>より
揺さぶられる身体感覚。欧州、北米、中東、日本を駆け巡り、自作を朗読し、読者と話した1年。見る、聞く、歩く、触る、食べる。街の表層が裂け、記憶がゆがむ。待望のエッセイ集。

<読む前の大使寸評>
この本の目次を見ると・・・ヨーロッパ、北米の都市名が並んでいます。つまりそれだけ動き回っていたわけで、パンスカを生み出した人はすごいでぇ。


rakuten 溶ける街透ける路



先ずパリに関するエッセイを、見てみましょう。
p110~113
<パリ Paris>
 フランスの地方都市でしばらく過ごしてからパリに出ると、奇麗と言うより疲れるところだと感じてしまう。ボルドーからパリ行きの特急に乗る。二等車での全席指定になっているのでさすがに立っている人はいなかったが、満席で、気のせいか、これからパリに出る人たちの緊張感が社内に張りつめているようで、どうもくつろげない。

 パリのモンパルナス駅を降りると、ものすごい人ごみで、地下鉄の切符売り場には、長い列ができている。やっと切符を買って階段を降りて行くと、男が一人倒れていた。そのまわりに制服姿の女性が三人、テープを張って救急車の来るのを待っている。地下鉄の中は満員で空気が悪い。まわりを見まわすと、みんな疲れた顔をして乗っている。

 郊外電車に乗り換える。改札の駅員は機嫌が悪く、こちらの質問に親切に教えてくれない。
 東京に比べれば、パリは特に人口が多いわけでもないし、せわしなくもないが、ボルドーに住む知人が「昔はパリに住んでいたけれどボルドーに引越してから生活が暮らしやすくなった」と言う意味が分かった。

 大学のゲストハウスに荷物を置いて少し休んでから町へ出た。三時に地下鉄のベルビル駅でLさんと待ち合わせしていた。
 Lさんはドイツ育ちの韓国人で、もう長いことパリで暮らしている。Lさんの住んでいる地区はパリの中でもあまり観光客が来る機会のない地区で、とても面白いからいつか案内したいと、二年くらい前から言ってくれていた。

 Lさんといっしょに地下鉄駅の階段をあがって外に出ると、ゆるやかな坂に沿って、中国語の看板が続いている。ここでおいしい中華料理やベトナム料理を食べたという人の話を思い出した。料理屋や食材を売る店だけでなく、中国語の本屋も雑貨屋もある。その隣の大通りは、主に左側はユダヤ系の移民、右側にはイスラム系の移民が店を並べている。もう一つのパリに来たという感じだった。

 Lさんの話によると、移民の歴史は長いが、北アフリカの植民地ではフランスからの独立運動といっしょにナショナリズムが盛り上がり、そこには反ユダヤ的な傾向が含まれていたので、ユダヤ人たちは1950年代からパリに移り住み始め、1962年のアルジェリア独立の際には更にたくさん移民があり、フランス政府はそれを積極的に受け入れたという。

 外壁にダビッドの星が描かれた建物がある。ユダヤ教の教えに従って処理された肉だけを売る精肉店がある。わたしたちは道を渡って、反対側を少し行ったところにあるあるッジェリア人のお菓子屋に入った。ピスタチオやアーモンドの入った練り菓子や焼き菓子が50種類ほどきれいに並んでいる。味見もできる。見かけも甘さの質も、西洋のケーキと和菓子の両方を同時に思い出させるものが多かった。

 写真を撮ってもいいかLさんが私のためを思って訊いてくれたが、店員は、だめだと言う。Lさんが驚いて、理由を尋ねると、店員は「ライバルにデザインを盗まれるかもしれないから」と答えてから、自分の厳しさを少し後悔したのか、「今日は店主もいないし、まあ1枚くらいなら」と譲歩した。それからわたしたちの顔を見て、「どこから来たの?」と訊く。Lさんはあっさり「パリに住んでいるのよ」とだけ答えた。

 墓地を見学してから別のアルジェリア人の店でお茶を飲んだ。あおあおとしたペパーミントの葉っぱがガラスのコップに数枚入っている。砂糖の入った熱湯を鉄瓶で高い位置からコップの中に注ぐ。「どこから来たの?」とウェイターに訊かれて、Lさんはまたあっさり「パリに住んでいるのよ」と答えてから、「アルジェリアのペパーミント茶とモロッコのペパーミント茶とどこが違うの?」と訊いた。ウェイターは、「ほぼ同じだけど、違いは、アルジェリアのペパーミント茶の方が美味しいことかな」と答えて笑った。





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Last updated  2021.07.06 00:17:12
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