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2021.09.01
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カテゴリ: 気になる本
本屋の店頭で『文芸春秋(2021年9月特別号)』を、手にしたのです。
ウーム 今月号は読みどころがたくさん載っていて、芥川賞受賞作(二作)と台湾・蔡英文総統インタビューが決め手になって・・・8月号に続いて買い求めたのです。





雑誌、文芸春秋、2021年刊

<出版社>より
〇台湾・蔡英文総統 単独インタビュー
「香港、ウイグルへの弾圧を北京当局がやめるよう呼びかける。
聞き手・船橋洋一

〇第165回 芥川賞発表
・貝に続く場所にて 
東日本大震災で生き残った者の罪悪感を 文学として昇華させた
石沢麻依(いしざわまい)
・彼岸花が咲く島 
台湾出身の作家が描く 女性が統治する島の秘められた過去とは
李琴峰(りことみ)

<読む前の大使寸評>
今月号は読みどころがたくさん載っていて、芥川賞受賞作(二作)と台湾・蔡英文総統インタビューが決め手になって・・・8月号に続いて買い求めたのです。

bunshun 文芸春秋(2021年9月特別号)

石沢麻依

芥川賞選評のうち気に入ったものを、見てみましょう。
p284~285
<選評:吉田修一>
 対照的な二作が受賞作となった。
「貝に続く場所にて」
 完成度の高い作品である。
 一種の幻想小説であり、ドイツのゲッティンゲンという小さな町を、正者も死者も共に生きる場所として浮き上がらせる。

 正者と死者、過去と現在、こちらとあちら、東日本大震災とコロナと第二次大戦におけるジェノサイドまで、とても捉えきれそうにない遠近を、なんとか言葉で捉えようとする意欲作で、ゲッティンゲンの町にあるという太陽系の惑星モニュメントなどを使いながら、このパースペクティブを巧みに構築してゆく。

 このように構成や構図があまりに巧みなため、文章自体の真面目さや硬質さがそのまま堅苦しい印象を与えてしまうところはあるのだが、私としては、この作品を詩人の散文として読んだ。とすれば、“記憶の痛みではなく、距離に向けられた罪悪感。その輪郭を指でなぞって確かめて・・・”というような取っつきにくい文章も好意的に読め、さらに言えば、ラスト近くにふいに出てくる「午後二時四十六分」という時刻までが、たとえば有名なロルカの「午後の五時」のように、詩的な響きを持って胸を打つ。

「彼岸花が咲く島」
 一方、こちらは「貝に・・・」と並べると、少し未熟な作品かもしれない。御獄信仰のある南海の孤島を舞台とした寓話で、この島で暮らすボクとキミの日常がそのまま世界や歴史と繋がっているというある種のセカイ系ものの物語空間は、フィクションとリアリティの按分もあまり上手くいっていないと思うし、物語の構成に致命的な破綻もある。

 たとえば、男の元にあった権力がすべて女に移譲されるという決定的な瞬間があまりにあっさりしている点や、登場人物たちが皆いい人ばかりで悪やネガティブなものは全てこの島の外にあるというのもご都合主義とも捉えかねない。

 ただ、それでも尚、この作品を受賞作として推したのは、この作者が作中で未来の可能性について語る時の力強さ、そして可能性という言葉に対する無防備なまでの信頼感が、いつの頃からか曇った目でしか未来を見なくなっていた私の心に、まっすぐに突き刺さってきたからだ。

 御獄というのは琉球神道における祭祀を行う施設で男子禁制。王でろうとも女装をしなければならなかったらしい。このように一見乱暴に掻き集められたような作中のエピソードの一つ一つは、実はこの作者がこれまでの人生をかけて自身のテーマであるセクシャルマイノリティーやフェミニズムを描くために地道に集めてきたものである。決して場当たり的なものではなく、作者の信念に裏打ちされている。

 よって今回私は一人の新人作家の可能性に賭けてみることにした。
(他の作品評については大使略す)


p285~286
<小説にしかできないやり方:小川洋子>
 小石を丹念に積み上げるようにして築かれた『貝に続く場所にて』の世界を、興味深く探索することができた。そこでは行方不明者も、死者も、犬も、生者も皆が同じ地平に立ち、平等に振る舞っている。
 彼らの抱える記憶が重層的に絡まり合い、何度も遠近感を失ってめまいを起こし、気がつけば予想より更に奥深い地点にまで引きずり込まれていた。

 特に印象的なのは、具体的な事物によって小説が奥行きを増し、遠く離れた無関係なはずの時間がつながって、鮮やかなイメージを結ぶ点だった。例えばトリュフ犬が掘り出し、ウルスラの募集部屋に保管される日常品の欠片たちは、行方不明者の生きた証を求めて津波の跡をさ迷う人々を連想させ、海を漂う野宮の不在は、貝殻を手に歩む巡礼者と重なり合う。そうした彼らを、惑星から孤立した冥王星のブロンズ板が見守っている。

 小説にしかできないやり方で、東日本大震災の体験を刻み付けようとする本作の試みを高く評価したい。

 『彼岸花が咲く島』はさまざまな方向から読み解いてゆけるタイプの小説だが、最も心打たれたのは、島の若者三人の、実に生き生きとした関係だった。游娜と宇実は檀草の実を投げ合ってじゃれ合いながら、互いの体温を感じ合う。<島>に残る決意を固めた宇実に游娜は唇を合わせる。秘密めいた感情が二人を結び付ける。一方、拓慈はあ、いくら努力しても、本当になりたい自分にはなれないのだという現実の前で立ちすくんでいる。そんな彼を少女二人はどうにかして救い出そうと、新しい道を探る。

 私は本作を、性の揺らぎの中で怯える若者たちの青春小説として読んだ。それで十分、賞に値すると思った。
(他の作品評については大使略す)


ドイツで暮らす(ドイツ語は話さないが)石沢麻依さんは、多和田葉子路線を歩んでいるようで・・・注目株ではあるなあ♪

『文芸春秋(2021年9月特別号)』5 :芥川賞受賞者・李琴峰とのインタビュー
『文芸春秋(2021年9月特別号)』4 :芥川賞受賞者・石沢麻依とのインタビュー
『文芸春秋(2021年9月特別号)』3 :「経済安全保障」について
『文芸春秋(2021年9月特別号)』2 :台湾・蔡英文総統への単独インタビュー(続き)
『文芸春秋(2021年9月特別号)』1
「〇」 (〇) (笑)。





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Last updated  2021.09.01 09:16:57
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