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2023.04.05
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カテゴリ: アート
浮世絵からジャポニスム、スーパーフラットという概念が連想されるのだが・・・
以前の日記から ジャポニスムとスーパーフラット を復刻して読んでみます。

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図書館で借りた『版画のジャポニスム』を読んでいるのだが・・・
19世紀後半、浮世絵がフランス印象派に与えたインパクトは大きくて、今のクールジャパンやスーパーフラットの比ではなかったようです。

【版画のジャポニスム】
版画

コルタ・アイヴス著、木魂社、1988年刊

<内容説明>より
事実上、19世紀後半のフランスにおけるすべての画家は、浮世絵の思想を蒙ったのである。
画家の想像力を解放し、世俗的な主題に光をあてた運動としてのフランス印象派と後期印象派に対する考察を進めていくと、19世紀のフランスの版画家と浮世絵師との深い関係が明らかになる。
浮世絵師もまた彼らより一世紀早く、同じ目標に向かって苦闘していたのである。

<読む前の大使寸評>
ロートレックのポスターには、浮世絵のテイストが顕著であり、ゴッホは浮世絵を模写したりしていますね。
また、村上隆の提唱するスーパーフラットの原型が当時のジャポニスムにも感じられます。
言ってみれば、当時は第一次「クールジャパン」のような感があるのです。

aishoren 版画のジャポニスム


この本でボナールのあたりを見てみましょう。

<ピエール・ボナール> p72より
洗濯屋

 ボナールの初期の版画のほとんどには、子供のような無邪気さがある。しかし1896年の「小さな洗濯屋」(図)ほど素朴な例は他にない。この作品でボナールは、日々の生活のはかない出来事を、東洋的な簡潔さと情感をこめて扱った。人気のない通りを疲れて歩く、傘を手にしたぎごちない姿は、1891年のフランスの雑誌、『芸術の日本』に翻刻された浮世絵の横向きの姿を模倣したものである。この小さな洗濯屋の姿に、ボナールは北斎の墨で描いたスケッチが持つ生気と、春信が描いた娘(図)の心をそそる魅力を暗示的に込めている。浮世絵の影響は、斜めの方向に向いた構図や、平面的な人物の形、わずかな色彩を淡く使用していること、そして表面上はあまりわざとらしくない細部の描写などにおいても、明らかである。

 ボナール自身の小さな浮世絵コレクションには、国芳、広重、国貞などがあった。ボナールの親しい友人であったタデ・ナタンソンによれば、風景画の巨匠、広重の版画が最も深い影響を及ぼしたとのことで、それは1899年にボナールが出版した12枚のリトグラフ「パリ生活情景」を見ても明らかである。広重が、江戸や日本の主な街道に沿った景色を描いた無数の版画は、フランス人のコレクターの間でも人気は高く、1890年代を通じて浮世絵展にしばしば展示された。
 広重もボナールもともに、様々な視点から、町という環境を背景にしてそこにある人々の生活、日常的な些事、珍しい出来事などを描いたのである。


この本でロートレックのあたりを見てみましょう。

<トウールーズ=ロートレック> よりp92~106
 トウールーズ=ロートレックは外国の品々への関心を父から受け継いでいた。父アルフォンス2世伯爵は、バッファロー・ビル帽をかぶり、鎖かたびらを着て、腰には日本刀を掲げていた。息子のアンリもまた、異国の昔の衣装を着るのが好きだった。彼が日本の大名を服装をした写真が少なくとも2枚残されている。

 ロートレックは才能においても性格的にも、浮世絵師からも十分評価されるような画家であった。彼は鋭い観察者であり、有能な職人でもあった。彼のアトリエがあったモンマルトル界隈のカフェ・コンセールを毎晩訪れては、役者の動きや誇張された表情を研究したり、スケッチしたりして、夜遅くまでそこで過ごすのが常であった。

 1888年までに、ロートレックはそれまで深く従っていた印象派の様式と別れ、ドゥガやヴァン・ゴッホ、浮世絵などの影響のもとに自分のスタイルを確立していた。彼は、自分が見たものをより素早く、より簡単に記録できるような、新しい、自由で無駄のない表現を獲得したのである。浮世絵の原理は、明らかにロートレックの新しいスタイルに認められる。それはふっくらとした肉付きのよい女性像を、美しい曲線で描くことを基本とするものであった。彼は、ヨーロッパ的な明暗の配合と無関係に、明るく平板な色彩を大きく使って、輪郭を表情豊かに描いた。

 ロートレックの作品における平板さと単純さの追求は、1891年にマスターしたリトグラフィーという手段を使うことによりいっそう進歩した。多色刷りリトグラフの場合、浮世絵の技術と同様に、ひとつひとつの色に対して別々の石版を用い、輪郭線のためにも基本となる別の石版を用いることが必用であった。

 ロートレックは362点のリトグラフを制作した。また、ロートレックは30点のポスターをリトグラフで制作した。その中で彼は、他のどの分野におけるよりも遥かに大胆に、日本的手法の様式的な可能性を開拓した。彼はポスターがそれ自身でひとつの芸術の形であり、浮世絵のような簡潔な絵画様式にふさわしいものであることを認識していた。
ムーラン・ルージュムーラン・ルージュ

 直接的にも間接的にも、人間の姿を描くことが、ロートレックのライフワークであった。機知に富んだ描写で、世紀末のパリの娼婦の世界を描くことが、彼のポスターやリトグラフを支える大きな力となっていた。彼が役者を描いた作品は、個々の人物の内面に深く突き刺さる洞察力を明らかにしており、卓越した装飾的なセンスを併せると、1794年から95年まで大胆に歌舞伎役者を描き、自らも役者であった絵師、写楽(図)と比肩し得よう。

写楽

 写楽は彼が描く対象の表情を過度なまでに単純化し、歪めた。それは見る者を不安にするほどであったが、彼が創造したダイナミズムは、ロートレックに強い印象を与えたにちがいない。ロートレックは、絶えず自己の描く対象の性格を綿密に調べていたが、写楽の力強い描写を頻繁に借用している。女優ラ・モーム・フロマージュ(図)を描いた際に、ロートレックは、写楽の役者絵のひとつにある芝居風のメーキャップをした気味の悪いほどのしかめっ面で彼女を描いた。

ロートレック


この本でドゥガのあたりを見てみましょう。

<エドガー・ドゥガ> p54~55より
 印象派の中で最も教養があり、はっきりと自己を表明したドゥガは、また最も洗練された趣味を画面に表わした画家でもある。彼の幅の広い関心は、古典美術、アッシリア美術、初期イタリア美術、16世紀ヴェネツィア美術、そしてドラクロア、アングル、ドーミエ、および彼の同時代人たちを自己の作品に取り込んだのである。彼は明らかに視覚的な能力については無制限な抱擁力を持っており、見るものすべてが彼の芸術を豊かにした。ドゥガの才能の奇跡とも言えることは、これらの様々な素材から彼が吸収するものはすべて、いつのまにか自分自身に生まれつき備わっていたかのようなものと化すことであった。
 浮世絵は芸術の意味と目的についてのドゥガの信念を確たるものとしたのである。彼は浮世絵の巨匠たちと、自己を取りまく世界についての高度な認識、つまり日常の中に特異さを、平凡の中に珍奇さを、瞬間の中に無限を見る目を、共有しているのである。彼はこのような天性を発達させた文化的な遺産を尊敬していた。そこでエコール・デ。ボーザールで絵画を勉強していた日本人に合ったとき、ドゥガはこう叫んだものである。「日本に生まれるという幸運に恵まれながら、なぜこんな所ヘ来て、西洋の教授たちの訓練を受けなければならないのか・・・・」

 浮世絵のきまぐれで図式的な版画ほど、ドゥガ自身がしっかりと根ざしていた古典派の巨匠たちから、縁遠いものは他になかった。しかし油絵の画家というよりはむしろデッサンの画家であったドゥガは、線とデッサンの中に最も良く自己を表現することができ、ごく自然に浮世絵に惹かれたのである。

ドガ



村上隆が提唱するスーパーフラットをウィキペディアで見てみましょう。
平面性、装飾性、世俗的ということでは、浮世絵の伝統は生きているようです。
スーパーフラット


wikipedia スーパーフラット より
 スーパーフラットという言葉は日本の消費文化独特の浅はかな空虚感をはじめ、日本における様々な時代の様々な種類の平面絵画、アニメーション、ポップカルチャー、ファインアート、キャラクター文化といったものを示すときに村上が使用する言葉である。日本のアートムーブメントであり、欧米に向けられたブランド性をもったアートの現象であり、ニッチ市場販売の成功例でもある。

 特徴として、平面的で二次元的な絵画空間を持ち、余白が多く、また、遠近法などの技法をあまり使わないことが挙げられる。これは日本の伝統的な絵画から現代の漫画・アニメにまで共通してみられる、画面の立体感のなさ、平面性、装飾性、遊戯性を示すものであり、また現代の日本社会の階層性のなさやフラットさをも示すものである。平面作品だけでなく日本のアニメーション関連の立体作品(フィギュアなど)もこれに含まれる。


なお、村上隆の戦略性については 村上隆アンソロジー でとりあげています。





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Last updated  2023.04.05 09:17:12
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