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2019.06.08
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​​ ギョーム・セネズ「パパは奮闘中!」シネ・リーブル神戸​​​​​​​​​​​​​​​​​
 シネ・リーブルでもらったチラシに 「クレイマー・クレイマーの感動から今・・・」 って書いてあるのを読んで出かけた。
「あの映画で メリル・ストリープ が嫌いになってんなあ。」
「そうや、40年も前から、おまえはフェミニズムが嫌いやってん。」
「いや、いや、・・・」
「人前ではごまかしてても、性根は変わらへんのやろ。」
わけのわからん独り言をブツブツ言うてるうちに始まった。
​​​ おかーさんの ローラ さんと二人のおチビさんの毎日。おにーちゃんの エリオット はけがの薬を胸に塗ってもらってる。小学校三年生くらいか。妹の ローズ (弟だと思っていた)は、まだ、ぐずぐずする年頃。絵本読んでもらうのがうれしい。幼稚園ぐらいかな。おかーさんは洋服屋さんで働いてる。​​​
 おとーさんの オリヴィエ が働いているのは大きな集荷場のようなところ。なんか、「希望の灯り」のマーケットの倉庫とちょっと似ている。ベルトコンベアーに箱が並んでやってくる。次々に商品を入れて蓋をする。朝早くから、遅くまで、そんな仕事。​
 仲間思いのマジメな奴らしい。組合の活動家かな?退職を勧告された高齢の同僚が自殺して死んじゃったり、妊娠がばれて首になりそうな女性の苦情を聞いたり、ちょっと、何なんだよここっていう感じの職場。なんか、家にいる時間なんて、寝てるだけ。
 ああ、あ。 ローラ さん消えちゃった。出て行っちゃたんだ。おとーさんボー然としてないで、なんとかしなきゃあ。彼女は本気だよ。ああ、着替えもわからないし、食事作るなんてことは無理そうだね。どうするの?​
 まあ、まず母親に頼るわけだ。ああ、ああ、なんですか オリヴィエ さん、そのいい方は。相手のいうこと聞きなさいよ。お母さん心配して、手伝ってくれてるのに。子供も気つこてるやん。一人で意見まくしたてんのやめなよ。​
 妹が手伝いにきてくれたんや。おチビちゃんたちもおばちゃん大好きや。いい家族やねえ。
 ​おいおい、 ローラ の故郷まで探しに行くのはいいけど、見つからないからって、ほかの女の人のとこ行っちゃうって、どうなんよ。​
 ほら、少しはわかってきたの、自分のこと。妹にも見破られてるでしょ。 ​でも、やっぱり子供のことわかってないでしょ? ローズ ちゃん、しゃべらなくなっちゃったじゃないか。
 ほらほら、カウンセリングにでかけるのはいいけど、実家に帰ってるとか、相変わらずだねえ。見栄はってる場合じゃないでしょ。自分は悪くないと思ってるでしょ。​

​ いろいろ、一人で考えてるけど、 おチビちゃんが二人でいなくなっちゃった じゃないの。朝、学校まで送ったのにねえ。やるね、おチビちゃんたちも。で、どうするの?​


 子供たちが母親探しの冒険から無事帰ってくる。ここからダメオヤジと本当に「奮闘」していた子供たちに「コミュニケーション」が生まれはじめる。
​ 家族にダイアローグが生まれる楽しさを映画は映し始める。ここまで、子どもたちも、おとーさんも、そしておかーさんも、モノローグの世界にいたことがよくわかる。
 ​ エリオット がいう。​
「パパが探しに行かないから。」
「いや、パパは一人で、行ったんだよ。」
「どうして、ぼくたちと一緒に行かなかったの?」
「いや、それは・・・」
​  ​ 黙っていた ローズ が一言。彼女に言葉が戻った。​
「おにーちゃんも、本当は嫌だったカバンのこと黙ってたよね。」
「えっ、あの新しい鞄イヤだったのか?」
​​  そうそう、それが会話ってもんでしょ。イヤだったり、話したかったりすること、あなたは聞く耳持ってた? あなた、この家族で何様だったの?
ローラ の言葉に、本気で耳を傾けたことあったの? ローズ が拒否ってたことが何だったのか分かった?​​​

 大人の都合で子供を見て心理学とかで解決できるとか、仕事優先で妻と話して、シンドイのはお前だけじゃないとか、自己弁護してなかった?気持ちはわかるけど、やっぱり、それはダメだったんじゃない?
​​  チビの ローズ が紙に、お絵かきみたいにして、慣れない字を書きながら、あどけなく言う。このチビちゃんの可愛さはちょっと説明できない。ヨタヨタしゃべるのが、またいい。
「これって、デモク、デモク・・・?」
 「そうだよ。デモクラシイ。これからどうするか、三人で投票するんだ。この家を出て、新しい職場に移るか、ここでママを待つか。」
​ こんどは投票で負けた エリオット の負け惜しみ。 ​
 ​「デモクラシイなんて嫌だよ。」
「いや、これは、結果をいやだと思う人が少ない選択なんだ。」​​
 堅物で、まじめなパパが、一緒にやっていくために、民主主義というルールで暮らすことを提案したらしい。
 こう書くと、何だか教条的、民主主義映画のように受け取る人もいるかもしれない。
​  しかし、 話し合うことからたどり着いた民主主義 は、子どもを大人が認める場を作ることであり、それは、とりもなおさず、人間として生きる場を失った「おかーさん」が帰ってこれる場を作る方法なのだと納得させる展開は、決して教条的ではない。​
 崩壊寸前の「家族」を描きながら、 デモクラシーという方法の原点 を浮かび上がらせたところに、作り手の現代社会に対する視点の確かさがあったし、ラストシーンもなかなか爽快だった。
 壁いっぱいに描かれた落書き。それは、不在の ローラ に対するダイアローグの呼びかけだったからです。​​
 帰り着いて、自宅の食卓に座り込んで尋ねた。
​ 「ねえ、 クレイマー・クレイマー って、どっちが勝ったんだっけ?」​
​ 「 メリル・ストリープ が裁判で勝って、息子が泣くのに負けるのよ。」​
 「愛は勝つか?」
 「どやったの、今日は?」
 「ええ、思うで。」
  「見行こうかな。」
 「うん、そうし、そうし。でも、帰ってきて。あれ、誰かと同じやいうのはなしな。あ、原題〈ぼくらの闘い〉やし。」
 「えっ?」
 「いや、そんだけ。」


監督 ギョーム・セネズ
 製作  イザベル・トゥルク   ダビド・ティオン  フィリップ・マルタン
 脚本 ギョーム・セネズ
 キャスト
    ロマン・デュリス(夫オリヴィエ )
    ロール・カラミー(同僚クレール)
    レティシア・ドッシュ(妹ベティ )
    ルーシー・ドゥベイ(妻ローラ)
    バジル・グランバーガー (息子エリオット)
    レナ・ジラード・ヴォス(娘ローズ)

 原題「Nos Batailles」  2018年 ベルギー・フランス合作 99分 2019・05・29・シネリーブル神戸(no11) ​​ ​​​​​​​​​ ​​ ​​​ ​​ ​​ ​​ ​​
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最終更新日  2023.12.24 21:47:53
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