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今回は、試しに趣向を若干変えて、敬体で書いてみることにします。
前回、 SODEOKAさん
が紹介してくれた 『わたしの小さな古書店』
の記事を読みながら、次はどうしようかとつらつら考えてみました。
古書絡みだと、 岡崎武志
の文庫を読んだ記憶がありますが、本棚を眺めても見つかりません。かと言って 「苔」
や 「亀」
で何か思い浮かぶ本はありませんでした。
そこで 「木山捷平」
に目をつけました。
いや、 木山捷平
は、名前は聞いたことがあるだけで読んだことはありません。
ただ 「木山捷平賞」
を受賞した作家の本は読んだことがあります。
『雪沼とその周辺』堀江敏幸 新潮社
この短編集は、 2004
年第 8
回木山捷平賞
を受賞し、同時に 谷崎潤一郎賞
も受賞、さらにここに収められた 1
編 『スタンス・ドット』
が 川端康成文学賞
を受賞。
ちなみに 「木山捷平賞」
は Wiki
によると、岡山県の笠岡市が主催していた純文学が対象の賞で、「開始時の規定によって」、 2005
年の第 9
回で終了したようです。どういう趣旨の規定だったのかちょっと興味が湧かなくもないですが、これ以上は調べていません。また、 2006
年からは 「木山捷平短編小説賞」
という公募新人賞が始まったということです。
堀江敏幸
は好きな作家です。
最初に読んだのが確か、 三島賞
を受賞した 『おぱらぱん』
で、その後既刊のものを読み、さらに
「出ると買う」
作家になりました。
それが 2011
年
の 『なずな』
まで続きましたが、それ以降は本を増やさないために、せめて文庫まで待とうというスタンスになりました。
図書館に行くという手もあるんですが、現時点ではまずはうちにあるいわゆる 「積読」
を読む方に重心を置いているので、図書館はそれが一段落してからになりそうです。
この作家、読んですぐ気に入ったというわけではなく、気がついたら読んでいたという感じでしょうか。
初期の作品は、たとえば作家や書名などの固有名詞もそこここに登場する、小説か随筆かよくわからない文章で、最初はいくぶん戸惑いながら読んでいた記憶があります。
比較的息の長い、くねくねと続くことの多い文体は、必ずしも読みやすくはなく、ただ使われている言葉自体は特徴的なわけではなく、文章はどちらかというと古風で端正な印象を与えます。そうした文体で物事や人の心理の機微、情緒が妙に丁寧に掬い取られていくのが心地よかったのでしょう。
さて、この本ですが、表題の一部にもなっている 「雪沼」
という架空の町とその周辺で暮らす市井の人々を描いた、 7
つの短編を収めた連作短編集です。
「雪沼」
は架空の町ですが、何度か 「尾名川」
という名前が出てきます。検索すると 栃木県足利市
あたりを流れる川でした。むろんこの名前も架空かもしれませんが、 「権現山」
(
この名前は全国いたるところにあるようですが )
やスキー場が出てくる短編もあり、そのあたりの土地を作家はイメージしていたのかもしれません。
例によって話の展開はほとんど忘れていたので、 7
つのうち 3
つを再読してみました。案の定、いくらか思い出せたのは設定だけで展開その他はまるで覚えていませんでした。
共通しているのは、ごく普通の、けれどそれぞれに事情や起伏のある登場人物の人生や生活、過去がある断面から描かれるという形式です。
小さなボーリング場の最後の 1
日を迎えた経営者が、ひょんなことから自ら投げることになった最後の一投、書道教室を営む夫と年の離れた妻との馴れ初めからその後の悲劇とさらにその後、電車の窓から見た青い「生きもの」が突風にあおられて飛んでいく様から、たどり着いたもうひとつの青いもの、等々。
唐突に始まり、唐突に終わる。そして静かな余韻。
そしてこの 7
編が、場所なり人なりでふとしたところで重なり「干渉」し合うのもこの設定ならではでしょう。
作品中のエピソードや小道具的なあれこれもごく自然で嫌味がないのも実は結構貴重な気がします。
いや、あたらめていいなと思いました。その魅力を短い言葉で表現するのは難しい。
この作家の、まだ未読の本が何冊かある幸運を改めて感じ入った次第です。まぁ、今回読み直して改めて、既読のものでももはや未読みたいなものだとわかったので再読してもいいわけですし。
では、次回、 DEGUTIさん
、いかがでしょうか。
(2020・06・01T・KOBAYASI)
追記2024・01・20
100days100bookcoversChallenge
の投稿記事を
100days 100bookcovers Challenge備忘録 (1日目~10日目)
(11日目~20日目)
(21日目~30日目)
(31日目~40日目)
(41日目~50日目)
という形でまとめ始めました。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと
備忘録
が開きます。
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