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2020.11.13
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​​​​ ​朝倉裕子「詩を書く理由」(編集工房ノア)​


大人になっても

大人になっても
しゃがみ込んで
こどものように
泣きたいときがある

母になっても
電車に乗って隣町あたりへ行き
捨てられた犬になって
歩いていたいときがある

風のない夜の雪のように
静かに降り積もるものが
眠りによって繋がれた日常の上に
重ねた年月の上に
心の底に握った小さな固いこぶしの上に
ある
​    冬至の頃

真横に伸びるひかりが
家を貫く時間がある
冬の中心に向かうなかで
与えられた驚き
黙しがちな朝の支度の最中
胸のあたり
黄金色の扉がひらく
​  ​​久しぶりに チッチキ夫人 と映画を見て、元町から神戸駅に向かって歩きながら古本屋に立ち寄りました。偶然、手に取った1冊の詩集のページを繰りながら、詩人の名前に心当たりを感じて買ってきました。 朝倉裕子さん 「詩を書く理由」(編集工房ノア) という詩集です。​​
 詩人は、夕食を調え、月を見上げ、路上のネコとの出会いや、隣家の白い木蓮の花の思い出を詩のことばに託しています。
 家族が寝静まった真夜中の台所のテーブルに広げられた1冊のノートがあり、ジッと俯いてすわっている女性が思い浮かんでくる詩集でした。
 彼女はこの台所で子供を育て、父や母を送り、マイタケのてんぷらで銀婚式を祝う夫と暮らしているようです。
 「風のない夜の雪のように」降り積もり続ける時間、黄金の光が差し込んで来る冬の朝の喜び、ひっそりと、日々の暮らしが書き留められた詩が、他人ごとではなく、胸を打ちました。

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最終更新日  2020.11.15 10:15:16
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