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2021.01.04
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​​ 勝田文「風太郎不戦日記(1)」(MORNING KC)

​ 2021年、1月3日。 ヤサイ君 のマンガ便、初荷ですね、届きました。入っていたのがこの作品、 「風太郎不戦日記(1)」(講談社) でした。​
​​​​ 驚きましたねえ。かつて批評家の 関川夏央さん 「戦中派天才老人」 と称えた、伝奇小説の天才 山田風太郎 の日記文学の傑作、 「戦中派不戦日記」(講談社文庫) を漫画にした人がいるんですね。それも女性漫画家だというから、もう一度驚きでした。
 何で女性のマンガ家に驚くのかと訊ねられそうですが、原作が医学生で病弱という理由で徴兵猶予になっている「青年」の告白日記ですが、それを女性が描くのかと思ったからです。
 が、ページを繰って主人公のキャラクターの造形を見て納得しました。​​​​
​なるほど、こういう、何となくうだつが上がらず、くよくよと考え込む「男性」のタイプに対する「批評性」というのは、女性の眼のほうが鋭いのかもしれませんね。
 原作が持っている作家 山田風太郎 自身の自己批評性にも理由はあるでしょうが、マンガの絵柄の、どことなくコミカルなイメージが、そのあたりを鋭く描いていると感じました。​

​​​ 伝記作家 山田風太郎 は「奇想天外」という決まり文句て紹介されることが多いのですが、作品世界を伝奇的に、あるいは荒唐無稽に描きながら、その時代や事件に対するシニカルな批評性と、フトした拍子に描き出す、リリシズムとカタカナで言いたくなるような抒情性にこそ特徴があると思うのですが、 勝田文さん は、この、後の作家の若書きの日記の中から、 風太郎文学 の肝ともいえる、シニシズムとリリシズムを、見事に描き出していました。​​​

​ 醒めてシニカルで、それでいて、ニヒルになり切れない根性なしの、医学生 「山田誠也」 の素顔がこれです。

​​​ マンガで描かれてみると、後の 山田風太郎 が、ここに居るというのが 勝田文 「戦中派不戦日記」 の読み方なんだなと共感しました。​​​
 そしてページをめくるとこのシーンです。


2月26日 の雪の朝の光景ですが、もちろん、 1936年 のあの日のことではありません。 1945年 の冬の朝のことですが、ふと1936年のあの朝を思い浮かべさせる描き方がうまいですね。時間の重層性とでもいうイメージが、実に抒情的な、いや、リリカルな美しい画面として描かれているところに感心しました。
 それにしても、若いマンガ家たちが「戦争」を書き始めているのは何故でしょう。単に売れ筋を探しての現象というばかりではないと思うのですが。
​​​ もう一つの期待、 山田風太郎 の「日記」というネタは戦後の子育てまで、かなりたくさんありますが、 勝田文さん はどこまで書くのでしょうね、原作の日記は、それぞれ、結構分厚くて読み直すのは大変です。頑張って続けてほしいものですね。
 ああ、そういえば 山田風太郎 は、先日、 対談集 を案内した 水木しげる 鶴見俊輔 の二人と同い年、 1922年生まれ ですね。この世代の人達の残したものに光を当てるという作業にも​​、ぼくは共感しましたね。​

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最終更新日  2021.01.04 03:01:03
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