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コタツで夕食をいただいて、 チッチキ夫人 がテレビのチャンネルを回して(回さないけど)いて 「これかな?」 といいながら手を止めた画面に 「秋日和」 という文字が映っていて始まりました。 小津安二郎 の 「秋日和」 です。
「あのな、これ、ビッグ映劇ってあったやろ、新聞会館の道渡った南側。あっこで見たで。大学の 2 年くらいの頃。忘れられへん映画体験やで。」
「秋日和って、アキビヨリやんな。読める?」
「読める。」
「その日な、ガラガラのビッグ映劇で小津の特集やってんけどな、後ろの端のほうに座ってたらな、ほかに席はいっぱいあるのに、なんか、ちょっときれいな女の人が『あいてますか?』とか言いながら横に座らはんねん。」
「なに、それ?」
「な、そう思うやん。ドキドキするやん。そんなン。そしたら話しかけてきはってな、『この映画、アキヒワですよね。』って。でな、ちょっとおもろいなって思てんけど『いいえ、アキビヨリです。映画見ながら話しかけんといてくれます。』いうてん。そしたら、向こうに行ってしまいはってん。」
「なに?お仕事?映画館なんか入るのにお金要るやん。」
「まあ、事情は知らんけど、あの頃、ビッグって 200 円二本立てとかやなかったか?ほんで、あの辺、居ってやったやん、そういう仕事の人。そやからな、映画の筋とか何にも覚えてへんのに、この映画を見たことはよう覚えてんねん。」
で、久しぶりに、 チッチキ人 と二人で 「秋日和」 を見ました。 1960 年 の作品で、マア、むちゃくちゃな筋なのですが、 三輪秋子(原節子) という、かつて仲間内のマドンナ(?)だった女性の亡くなった夫の 7 回忌とかのお寺の場面から始まるのですが、 間宮宗一(佐分利信)、田口秀三(中村伸郎)、平山精一郎(北龍二) という、夫の旧友三人組が、 未亡人秋子 と遺児 アヤコ の結婚をめぐって、あれこれ画策する話なのでした。
「この人ら、今の私らより、みんな若いんやんな。」 映画そのものよりも、 見ながら、 チッチキ夫人 が、ふと、漏らした一言のほうが衝撃でした。 20 代で見た時に、登場人物たちはみんな年上で、映画の中で、やっていることも、話していることも、そういう世 代の人の世界の出来事で、マア、他人ごとやったわけで、話の筋は何となく覚えてはいたものの、面白かったという記憶はないのですが、 20代 の青年が見て面白いかったはずがないなと、今では思うのですが、40年たって、今度は年下の人たちがいろいろやっていることが、40年間、ただの一度も経験したことのない、やっぱり、他人事なわけだったのですが、登場人物たちの 「空気感(?)」 には、妙に納得するところもあって、こういう世界がこの国の、この 70 年ほどの間に、どこかにあったんだと思うと、つく づく、すごい映画だと思いました。
監督 小津安二郎
脚色 野田高梧 小津安二郎
原作 里見 弴
撮影 厚田雄春
美術 浜田辰雄
音楽 斎藤高順
編集 浜村義康
キャスト
原節子(三輪秋子)
司葉子(三輪アヤ子:秋子の娘)
笠智衆(三輪周吉:秋子の伯父)
佐田啓二(後藤庄太郎:秋子のフィアンセ)
佐分利信(間宮宗一)
沢村貞子(間宮文子:宗一の妻)
桑野みゆき(間宮路子:宗一の娘)
中村伸郎(田口秀三)
三宅邦子(田口のぶ子:秀三の妻)
北龍二(平山精一郎)
岡田茉莉子(佐々木百合子:アヤ子の友人)
渡辺文雄(杉山常男:後藤の友人)
1960年・128分・日本
配給 松竹
2022・12・15-no137・こたつシネマ
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