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2022年
の秋からでしょうか、 リービ英雄
という小説家に惹かれています。 「天路」(講談社)
という最新作を読んだことが始まりですが、 「模範郷」(集英社文庫)、「天安門」(講談社文芸文庫)
と読み継ぎながら、彼の本業(?)に興味をひかれて手に取ったのがこの本でした。
梅花の歌三十二首より 見開き2ページを使って、 万葉集の和歌 、 現代語訳 が右ページ、その歌の リービ・英雄 による英訳が左のページです。日本語の和歌はもちろん縦書き、英訳は横書きで、余白の多い装丁です。
わが園に 梅の花散る 久方の 天より雪の 流れ来るかも 主人(あるじ)
私の庭に梅の花が散る。それともはるかな遠い天空から、雪が流れて来ているのだろうか。
(大伴旅人、巻5・八二二)
from
Thirty-two poems on plum blossoms
Plum blossoms fall
and scatter in garden;
is this snow come streaming
from the distant heavens ?
By the host,Otomo Tabito
(P68~P69)
大陸との交流の接点である大宰府の、輸入されたばかりの大陸文化に通じて文才もある「帥老(そちらう)」、大伴旅人の、「宅(いへ)に萃(あつ)まり宴会を申(の)ぶ」。その日は「天平二年正月十三日」。漢文の序は、「初春の令月、気淑(うるは)しく風和らぐ。梅は鏡前の粉に被(ひら)き、・・・・」 なんだか長々しい引用で、読みづらかったと思いますが、いかがでしょうか。和歌の英訳が、日本語だけで解釈している私たちの理解に揺さぶりをかけるということは当たり前です。しかし、 リービ英雄 が
The air was clear,the wind was soft.The plum blossoms opened like a spray of powder before a dressing mirror・・・
と中国大陸から輸入された言語で日本人が書いた散文を、アメリカ大陸の言語に翻訳していると、言語の輸入が真っ盛りであった島国文化の位置が、かえって強く印象づけられてしまう。
詩に落梅の篇を紀(しる)す。古今それ何ぞ異ならむ。
In Chinese poetory are recorded works on the falling plum blossoms. What difference between ancient and modern times?
つまり「古」の、向こうの言語で書かれたテーマを、「今」においてはこちらの、島国の言語で詠もうじゃないか、と漢文の序が結び、それから日本語の「梅花の歌」が三十二首、開く。はじめてそんな試みを日本語でなそうとする宮廷人たちは、ある種のの実験に心浮き立っていたのだろうか、一首ごとに新鮮さが漂い、文学の新しい領域が切り開かれてゆく気概が、不思議と二十一世紀の、もう一つの大陸のことばにも伝わる。
“By Lord Ki,Vice-Commander of the Dazaifu”“By Yamanoue Okura,Governor of Chikuzen”“Fujii Onari,Governor of Chikugo”と一人ひとりの歌人の名前を記しながら、宴会という共同創作の場で次つぎと詠まれる歌を英訳していると、またかまたかという興奮を、千三百年経って、共有する。
そして「主人(あるじ)」という作者記を、By the host,Otomo Tabitoと書き、その一首に特に目をひかれる。
Is this snouw come streaming
from the disutant heavens?
という質問で終わる歌の中に、風景を詠じただけでなく、自然現象に対する一つの問いかけを試みた、主観の意識が現れてくる「かも」という、問う意識のしるしが、クエスチョン・マークになる。
自然に対する質問は、十何世紀が経っても、さらにもう一つの言語で聞かれても、答えはない。(P70~P71)
はじめてそんな試みを日本語でなそうとする宮廷人たちは、ある種のの実験に心浮き立っていたのだろうか、一首ごとに新鮮さが漂い、文学の新しい領域が切り開かれてゆく気概が、不思議と二十一世紀の、もう一つの大陸のことばにも伝わる。 と、書いているのを読むとき、ぼく自身の 万葉の和歌 に対する読みの浅さを思い知るとともに、 万葉集 という和歌集に対する心躍る面白さが新たに広がって来るような興奮を実感します。
天の海 雲の波立ち 月の船、星の林に 漕ぎ隠るみゆ 言わずと知れた 柿本人麿 の名歌ですが、英訳はこうです。
On the sea of heavenいかがでしょうか、翻訳にあたっての リービ・英雄 の語りは、本書をお探しいただき、直接お読みいただきたいと思います。
the waves of cloud rise,
and I can see
the moon ship disappearing
as it is rewed into forest of stars.
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