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素人の眼差し! の新鮮さです。そして、知ったかぶりを振りまわすことなく
もう一歩奥まで、という関心の執拗な深さ! たどり着いた深みからの報告に徹しているかの
気取らない文体! で、読み手に対しての
「専門領域への案内」の丁寧さ! ですね。
アラビア語との出会い から報告しています。
他の言語と比べて、アラビア語の最も特異な点は、文語と口語が画然とちがうことである。この場合、日本語でいう文語と口語を想像されると困る。アラビア語の文語は古典語、すなわちコーランのアラビア語がその範とされることばである。コーランのアラビア語といえば、七世紀のアラビア語である。同時代の日本ではまだ古事記も万葉集も成立していない。この時代のことばで、いまだに生きて用いられつづけていることばといったらアラビア語をおいてないだろう。 「アラビアのロレンス」 も見たことがあるし、 「アラジンの魔法のランプ」 も子供の頃から知っているわけですが、しょせん、イギリスの俳優がかっこいい映画とか、ルイ14世の時代のフランス人が喜んだ昔話のなかで、
知ったつもりのアラブ なのですね。だいたい、 アラビアンナイト は ペルシャ の話ですからね。
ペルシャとアラブの違い だって、あやふやなわけです。そういうわけで、たとえば、 アラビア語 がどういう言葉なのかなんて、全く知らないわけで、ことばの具体的な姿に限らず、 アラビア語 という言葉が世界地図のどこで話されていて、その言語圏の、
どこがパレスチナなのか? 実は何も知らないわけです。
口語のアラビア語は地域によって大幅にちがう。発音はもちろん、単語の意味やいいまわしまでちがってくる。隣接した地域ならともかく、北アフリカとイラクのように離れたところだと、まず口語によるコミュニケーションは不可能である。大ざっぱにいって、北アフリカ、エジプト、東アラビア、メソポタミア、湾岸諸国、アラビア半島のアラビア語はそれぞれちがうことばであると思っていただいてよい。 で、その 文語アラビア語 の特徴はというと
にもかかわらず、アラブ諸国間の国際会議が通訳なしで通じるのは何故か。
そこで、語られるのは文語だからである。いわば文語アラビア語は、中世ヨーロッパ社会におけるラテン語のような位置を占めているわけである。
第一に、コーランに始まる一三〇〇年余のアラビア文学の遺産が、単語やいいまわしの隅々まで生きているということだ。これは日本でも近世までは会ったことだ。浄瑠璃の詞など、和漢の古典が驚くほど精緻に織りなされている。その後、日本語は古典から切断されてしまったので、現代日本語、ひいては現代日本文学は、言語表現という点では恐ろしく貧弱なものになってしまったのだが、これは別の話だ。 で、その 翻訳不可能性の理由 として解説されるのが、 アラビア語の音韻構造 です。 アラビア語 の特徴の二つ目は音だということですね。
だから、アラビア語をその含蓄、ニュアンスをも含めて翻訳するのはほとんど不可能といってよい。(P22)
西洋の伝統においては、ことばはロゴスに他ならないのだが、アラブにおいては、ロゴスはことばの一部でしかない。ロゴスに音楽性がかきたてるパトスが加わってはじめて、ことばはことばとして意味を持つ。 と、まあ、こういう調子なのですが、このあたりは、 1974年 当時 「諸君」 という、保守系の雑誌に、多分、連載で掲載された 「パレスチナ報告」 のさわりにすぎません。
ところが翻訳という操作は、ロゴスを移すことはできても、このパトスを移すことはできない。だから、コーランはいまにいたるも世界のどこのイスラム教徒でもアラビア語のまま用いている。各国語の翻訳もあるにはあるが、それは異教徒が読むもので、イスラム教徒が読むものではない。翻訳でコーランを読む異教徒は、本人はわかったつもりでも半分もコーランの意味が理解できないはずだという。(P24)
なるほど、そうか! という気分で読み始めましたが、ここからは 1970年 当時の パレスチナ に関して、 シオニズム 以来の歴史と現状、錯綜する政治・社会を入念に解説しながらのレポートで、 2024年の今 読んでも、まったく古びていないという印象でした。
目次
1 パレスチナ報告
第1章「パレスチナ報告(1972「諸君」)」
第2章「独占スクープ・テルアビブ事件(1972「週刊文春」)」
第3章「アメリカの世論を変えたパレスチナ報道(1988「週刊現代」)」
第4章「自爆テロの研究(2001「文藝春秋」)
2 ニューヨーク研究
第5章「ニューヨーク’81(1981「くりま」)
第6章「AIDSの荒野を行く(1987「ペントハウス」)
追記
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