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2019年11月02日

チェコ映画を見るなら(十月卅一日)





 その映画の題名は「S tebou m? baví sv?t」という1982年に公開された作品である。『チェコ語の隙間』にあげられていた批評家が選んだ名作のランキングでは5位以内に入っていないが、一般の人たちによるアンケートで、20世紀最高の映画、コメディ限定だったかもしれないけど、に選ばれており、今でも毎年何回かテレビで放送されている。「トルハーク」と違って、ついつい全部見てしまうということはないけど、ところどころ名場面をつまみ食い的に見してしまう。
 監督と脚本はマリア・ポレドニャーコバー。天才子役のトマーシュ・ホリ—の登山家の父親二部作もこの人の作品だったかな。映画監督としての作品数はそれほど多くないけれども、特に子供向けの作品に名作と呼ばれるものが多い。その頂点が、この直訳風に訳すとすると「お前と一緒なら世界は楽しい」である。


 妻たちの結託した本気を感じ取った男たちは、男の子だけは連れて行って面倒を見るという妥協案を出すのだが、女の子が、自分も男の子になって行くと言って泣きながら髪の毛を切ってしまったものだから母親の怒りが爆発。男3人で、オムツの取れない赤ん坊一人を含めて計6人の子供たちをつれて山小屋に向かうことになる。おまけに、怒りの収まらない妻たちが自動車は自分たちが使うと言い張ったために、男三人、子供六人で、スキーやそりなど山のような荷物を担いで、電車に乗るのである。

 電車の中では、何度も見たチェコ人の多くが覚えてしまっている名場面が何箇所か出てくるのだが、例を挙げるとすれば、男の子が唐突に、「ヘビっておならするの?」と父親に尋ねるシーンと、子供たちのコンパートメントに置かれた赤ん坊が、お漏らしをして、というかオムツの中に出してしまって、臭くて眠れないと、父親達のところに不満を述べに来るシーンだろうか。大物俳優ぞろいの父親たちと子供たちが見事な掛け合いを演じているのが素晴らしい。
 駅から山小屋までも大変そうだけど、そこは描かれず、山小屋での生活に入る。最初は元気一杯の子供たちに付き合っていた父親たちも、三日目ぐらいになると疲れ果てて何をする気力もなくなり、一日中小屋の中でのんびりするために、かくれんぼ大会を開催する。一日親たちに見つからないように隠れた子供が優勝でメダルをもらえるというものなのだけど、親たちは部屋で寝ているのである。

 父親たちが疲れているのは、三人のうちの一人の奥さんが歌手で地方巡業で近くの町に滞在していたので、夜な夜な山小屋を抜け出して会いに出かけていたのに、残りの二人に地元の若い女の子たちと知り合ってと嘘をついたために、二人は抜け出す男を夜中に追跡することになったからである。この辺りから、嘘やらいたずらやらが飛び交って、誰が誰に嘘をついているのかしばしばわからなくなる。
 それはともかく、子供たちにかくれんぼをさせて、面倒を見るのを放棄しているところに、三人の母親のうちの二人が、差し入れを持って陣中見舞いにやってきて、父親たちが子供の面倒を見るのを放棄した惨状を発見して、再び怒りを爆発させるのである。母親達はもう帰るぞと宣言するけど、子供たちは帰りたがらない。それがまた母親達の怒りを増幅して……。
 プラハの自宅に戻った後は、各家庭で、歌手の女性の家はそれほどでもないけど、夫婦が冷戦状態に陥る。夫婦の対立が男同士の対立につながったり、仲直りのために男たちのやらかすことが悉く裏目に出たり、とにかくどたばたコメディーと呼ぶにふさわしい内容である。最後は、友人を罠にかけるために赤ん坊を隠した洗濯籠を、友人たちにゴミ捨て場に捨てられた父親が、ごみの回収車を必死で追いかけているのに、後で笑っている母親の腕の中には赤ん坊がいるというシーンで終わるんだったかな。お母さんがいつも一番賢くて強いのである。

 共産主義の時代に、これだけ見事に家族愛、夫婦愛、そして友情を描き出した作品が製作されたのは軌跡のようにも思える。同時に、共産主義の時代だったからこそ、ここまで突き抜けたコメディーが撮影できたのではないとも言いたくなる。ビロード革命後の作品には、ここまでよくできた作品はない。「トルハーク」がちゃんと公開されていたら、最高の作品として選ばれたのは間違いないけどね。
 ちなみに、主役の一人を演じているのはスロバキア人のサティンスキーなのだが、そのチェコ語は完璧で、スロバキアの臭いはまったくしない。最近の俳優はスロバキア人がチェコ人を演じると、明らかにスロバキア人だと言うことがわかるチェコ語しか使えないらしい。昔は俳優に対する教育も厳しかったのだろう。
2019年10月31日24時。











タグ: 映画
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