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2016年07月18日

世はなべてカメラマン、もしくはナルシスト(七月十五日)




 カメラというものには憧れのようなものがあって、いずれは一眼レフなるものに手を出してみたいと思っていたのだが、いつの間にかデジタルカメラの時代になっていて、手を出すタイミングを失ってしまった。オートフォーカスじゃなくて、手でレンズの焦点を合わせるとかやってみたかったのだけど、実現しなかった。
 チェコに来ると決めたときに、チェコ語で取扱説明書は読みたくなかったので、一応デジタルカメラを一台とフィルムカメラを一台日本で買った。どちらもコンパクトカメラだったが、ものすごく時間をかけて選んだ。特にフィルムカメラは、わざわざ新宿の中古を扱っている店まで出かけて発見したコンタックスのT2を結構なお金を出して購入した。


 カメラは持っていても、写真を撮るためだけに出かけたりはしないし、どこに行くのでもカメラ片手なんてこともない人間の目から見ると、最近の世界は不思議に見える。日本人だけでなく、誰でも彼でも、どこでもここでもスマホを構えて、写真だか動画だかの撮影をしている。以前、何かのスポーツイベントの客席の様子を映したビデオを見て、観客がほとんど全員、目の前にスマホをかざしている様子に愕然としたことがある。
 目の前の光景を自分の目に焼き付けるほうが、ディスプレイ越しに見て、それを後で見返すよりもずっとずっと印象に残るとは思わないのだろうか。それにそんなにたくさん撮影して本当に見返すのかという疑問もある。ハードディスクの肥やしになるのが関の山じゃなかろうか。そうか、ネット上に載せるという可能性もあるのか。それにしても、みんながみんな撮影する必要はなかろうというものだ。

 そしてさらに理解できないのが、自撮りとかセルフとか言われる奴である。ちなみにチェコ語でもセルフォバットという動詞ができるくらいには一般化している。手前の写真なんざ撮影して何が嬉しいんだ? 自分で自分の写真を撮るなんて、よほど自分の容姿に自身があるのか、救いがたいナルシストなのか。自分で自分の写真を撮ってうっとりと眺めているような人間は知り合いにいないと信じたい。
 これも、ネットにあげるということなのかと考えるとさらにうんざりする。何を好き好んで世界の人に自分が何をしたか知らせる必要があるのだろうか。ブログなんてことをやっている人間が言うのは、天に唾するような行為かもしれないが、そこまで自己顕示欲が強い人間が増えているというのは、社会的に問題があるんじゃなかろうか。誰かに見てもらっているという実感を必要としていて、見てもらうためのものが必要だということなのだろうか。
 子供の頃なら、親に写真を取ってもらえるのは嬉しかったかもしれない。でも、高校生ぐらいになると、写真に写るのは、できれば避けたいわずらわしいことで、記念写真なんかでも仕方なく写ることが多くなかったか。自分で写真を撮るときは、風景の写真を撮るのが第一で、自分の写真を撮ろうなんて考えたこともなかった。カメラの性能の面で難しかったというのもあるのかもしれないが、需要があればその手のことを可能にする製品なり、補助具が開発されていたはずだから、当時は本気で自分で自分を撮影使用なんて人はいなかったのだろう。冗談でやって変な写真を撮ったことのある人は多いだろうけど。

 ついつい見入ってしまうツール・ド・フランスの中継でも、沿道のファンの中に普通のカメラならまだしも、スマホを体の前に構えている人が一定数いるのに気づく。隣の人の構えた腕が邪魔にならないように前に出すぎて、選手の邪魔になっている場面も一度や二度ではなかった。こういうのを見ると技術が発展して便利になったのがよかったのかどうか懐疑的になってしまう。
 それに、無駄にバイクに乗ったカメラマンが多すぎて選手たちの邪魔になっているのも気になる。数年前にバイクが自転車に乗った選手を跳ね飛ばすという事件があって以来、バイクの動きが多少大人しくなったような印象はあったが、今年は選手の自転車ぎりぎりをすり抜けて追い抜いたり、バイクがたまって通行の邪魔になっていたりする場面が目立つ。レースの、選手たちの邪魔をしてまで撮る甲斐のある写真が一体どのくらいあるのだろうか。

 自分で自分の写真を撮って悦に入るぐらいなら、写真を撮られたら魂を抜かれると考える田舎者でいいや。

7月17日18時。








 コンタックスを選んだ理由のひとつはこのマンガかも知れない。
posted by olomou?an at 06:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 戯言
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