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2019年09月25日

アボリツェって何?(九月廿三日)




 これに関する記事を読んでみると、ゼマン大統領は、必要ならバビシュ首相にアボリツェを与えることも辞さないと語っており、それに対してバビシュ首相は、アボリツェは受け入れないと思うと語っていた。どうも、例の「コウノトリの巣」事件に関して、検察がバビシュ氏の起訴を取りやめた件についての発言で出てきた言葉のようだ。ウィキペディアの説明を読むと、恩赦とか特赦を意味する概念のように読み取れるのだけど、似たような言葉との違いがよくわからないので質問してみた。

 政治家が、正確には国会議員が持つ逮捕されない権利のことはイムニタ(imunita)という。この言葉を最初に知ったのは、伝染病などに対する免疫という意味での使い方だったが、政治の世界でも使われるのである。チェコのイムニタの問題点は、国会議員在職中だけでなく、終生の権利だったことなのだけど、これに関してはすでに修正されたと記憶する。
 犯罪を犯した、もしくはその疑いのある国会議員について、警察に捜査逮捕を認めるかどうかは、国会の特別委員会で決定する。委員たちの審議に際しては該当する議員が出席して、自分の意見を述べるのだけど、最近は自分の無罪はちゃんと捜査をすれば明らかだからと自ら権利をはく奪されることを求める人もいる。有罪にされた場合に捜査がちゃんとしていなかったと主張するためのアリバイ作りでもあるだろうけど。
 簡単にまとめると、このイムニタは、事件を起こした場合に、国会議員が刑事事件の捜査の対象にならない権利であって、すでに警察によって捜査が行われ、検察に起訴、不起訴の判断がゆだねられた「コウノトリの巣」事件には適用できない。バビシュ氏の権利イムニタをどうするかというのは、2017年の下院の総選挙の前後に盛んに取りざたされていたけれども、どうなったのかよくわからない。警察に捜査を許したということは権利は、この事件に関してははく奪されたのだろうけど。

 もう一つ関係する言葉としては、ミロスト(milost)とかアムネスティエ(amnestie)と呼ばれるものがある。ミロストは普通は愛情とか慈悲という意味で使われるが、裁判で有罪判決を受けた人の刑罰を取り消して釈放する恩赦という意味でも使われている。正しいかどうかはわからないが、対象が一人の場合はミロストが使われることが多く、たくさんの人を対象にするときにはアムネスティエと言われるような気がする。
 クラウス大統領が、退任直前に大々的に行ったアムネスティエは、実際にどんな罪が対象になるのかがはっきりせず、事前の予想よりもはるかに多くの罪人が刑務所を出たことで社会に混乱を巻き起こした。よかったのは定員を超える数を収容していた刑務所の受刑環境が改善されたことぐらいだろうか。クラウス大統領がこの件で激しい批判にさらされたからか、ゼマン大統領は就任時にミロストを与える権利は、命にかかわる事態以外は行使しないと言っていたのだけど、元気な元殺し屋カイーネクに恩赦を与えたのはすでにどこかに書いた通りである。
 このミロストは、すでに裁判で判決が下りて有罪が確定した人に対して与えるものである。現時点では起訴さえされていないバビシュ氏には与えることができない。バビシュ氏自身は、起訴されようが有罪判決を受けようが、辞任する気はないと主張しているから、有罪判決を受けてもミロストを求めたりはしないのではないかとも思う。獄中から外遊する総理大臣とか見てみた意気がするんだけどなあ。

 そして、アボリツェは、イムニタとミロストの中間のようなもので、ある人物が警察の捜査の対象になっている場合には捜査を止めさせ、裁判が行われている場合には裁判を停止させることらしい。政治家の場合にはイムニタを剥奪されて、ミロストをもらえるようになるまでの間に刑事罰から逃れるための手段のようだ。アボリツェはチェコの憲法では国家元首である大統領の権利として認められているとゼマン大統領は主張しているのだが、当然大きな反発と、法治国家としてはありえないという批判を呼び起こしている。
 バビシュ首相は大統領からアボリツェを与えられても受け入れないといっているようだが、ゼマン大統領自身が、以前はアボリツェについて考慮に値しないと主張していたようだから、バビシュ氏も意見を変える可能性もある。それにしても何で今頃こんなことを言い出したのだろうか。チェコの政界はよくわからないことばかりである。
2019年9月23日25時。










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