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2015.01.03
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『驚きの介護民俗学』という本を借りて読んでいるのだが・・・
大使は昨年春に父を看取ったので、この本の内容が他人事ではなかったのです。

神戸から四国の養護老人ホームに足しげく通ったが・・・
その都度、父から昔話が聞けたわけではなかった。
やはり、この本の著者のように積極的に問いかける必用があったのだと、今にして思うのです。

民俗学の偉大なフィールドワーカー宮本常一が「忘れられた日本人」という労作をものにしたが…
我が父も「忘れられた日本人」のひとりとなってしまったのではないかと、息子として悔やまれるのです。

ネットを巡ってみると、去年のNHK番組で、著者の六車さんを見つけたので紹介します。
ここでも「家族も知らなかった親の人生」というくだりが出てきます。

2013.9.25 リハビリ・介護を生きる 私の介護論(1)六車由実 民俗学が介護と出会うとき
六車

気鋭の民俗学者が大学を辞めて、介護の現場に飛び込みました。そこで出会ったのは・・・。
「忘れられた日本人」のような思いもかけない職業遍歴、波乱に富んだ人生経験を持つ人々の豊かな語りでした。

発電所からの電線を引くために家族と共に山村を渡り歩いた人、蚕の鑑別嬢として養蚕農家で働いたことを誇りにする老女、流しのバイオリン弾き。認知症をも患う人たちの生き生きとした語りに驚きながらペンを走らせ、聞き書きをした六車さんは思います――施設でただ世話されるだけ、介護されるだけの存在とみなされがちな利用者にも、それぞれ語るに足る人生がある、聞いてほしい思い出がある。それをこれまで介護現場ではちゃんと聞き取ってこなかったのではないか。民俗学の知識や技術が介護現場で役に立つのではないか。

六車さんは丁寧に時間をかけて聞き取った人生の軌跡を本にまとめ、本人と家族に手渡します。家族も知らなかった親の人生に驚きます。「介護民俗学」の可能性と、聞き書きを通した新しい介護のあり方を伺います。




<言葉を聞き、書くという民俗学の手法>
 実は私は、介護の世界に関わるようになってからずっとひとつの疑問を抱き続けてきた。それは、介護や福祉の世界でのコミュニケーション論では、語られる言葉による言語的コミュニケーションに比べて、態度や表情、身振りといった言葉以外を情報としてやりとりをする非言語的コミュニケーションが過剰に重視されがちではないか、という疑問である。たとえば、私が勉強してきた社会福祉士養成のテキストでは、相互援助のためのコミュニケーションとして、次のように記されている。

【相談援助においては、「言葉」に着目して話を聞きがちになるが、非言語で表されたものでも、言語同様、あるいはそれ以上に多くのことを物語っている場合が多く、言語以外の表現方法や感情などを大事にする必用がある。(中略)コミュニケーションをとるということは、言葉だけでなく、人間の五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)をすべて使って相手を理解することである。ソーシャルワーカーは利用者の言葉の裏に隠されたさまざまな思いを非言語から発せられる表現に注意しながらみていく必要がある。利用者の訴えや言葉とともに発せられるさまざまな信号、非言語的コミュニケーションに注意しながら、語られた言葉のなかに隠された利用者の気持ち、思い、心の動きなどを積極的に「傾聴」し、「共感」し、「受容」することが重要である。(全国社会福祉協議会「社会福祉援助技術論2」)】

 もちろん、相手を理解するためには非言語的コミュニケーションも必用不可欠であるということはその通りなのだが、ではここで「『言葉』に着目して話を聞きがち」と記されているように、言葉を聞くという技法は介護や福祉の世界で本当に定着しているのだろうか。たしかに介護や福祉で「話を聞くこと」は「傾聴」と表現され、ケアや援助の場面の基本とされている。
 しかし、その「傾聴」で強調されているのは語られる言葉の内容の受け取り方ではなく、むしろ聞き手側の姿勢や態度ではないか。

 たとえば、『社会福祉士相談援助演習』では、「傾聴とは、単にクライエントの話を聴くだけではなく、聴いているということを非言語的に伝えるということも含んでいる」と定義づけられ、そして、そうした態度を示す応答技法として、相手の言葉をそのまま繰り返して反射する=単純な反射、相手の言葉をワーカーの言葉で言い換えて反射する=言い換え、相手が語ったことを要約して反射する=要約、相手の語ったことを明確にして示す=明確化といった方法が有効であるとされている。
 つまり「傾聴」とは、そういった応答技法によって相手を安心させたり、勇気づけたりすることで、語られる言葉が示す内容そのものよりも、「言葉のなかに隠された利用者の気持ち、思い、心の動き」を「察する」ことを目的にしていると言えるだろう。

 しかし、「利用者の気持ち、思い、心の動き」はそう簡単に察することができるのだろうか。そもそも、利用者はそうした「隠された気持ち」を深読みしてほしいのだろうか、などと偏屈な私は思ってしまう。私が民俗学の調査で行ってきた聞き書きでは、調査者の倫理として調査対象者に不快な思いをさせてはならないという配慮はもちろんするが、語られた言葉を聞き、書きとめることで、「何が語られたのか」を理解することが基本となる。
 実は、この語られた言葉を聞き、書きとめるというのは意外に技術を要するものである。というのも、話のプロではない限り、語りは論理的には進んでいかない。話の内容が突然変わることもしばしばあるし、書きとめているあいだに急展開することもある。
(中略)

 民俗学では調査対象者を「話者」と呼ぶことがある。それはまさに民俗学が、相手の言葉を聞き、書きとめるという聞き書きを重視してきたことを示していると言える。言葉の裏にある見えない「気持ち」を「察する」のではなく、相手の言葉そのものを聞き逃さずに、書きとめることに徹する。それによって相手の生活や文化を理解するという民俗学における聞き書きの手法が、介護の現場においても、あるいは認知症の利用者への関わりにおいても有効ではないだろうか。


介護でいう「傾聴」とは、フィールドワーカーの手法でもあるわけだけど・・・
なによりも身をもって介護の世界に飛び込んだ六車さんに、大使は驚いたわけです。


【驚きの介護民俗学】
介護

六車由実著、 医学書院、2012年刊

<「BOOK」データベース>より
第1章 老人ホームは民俗学の宝庫(「テーマなき聞き書き」の喜び/老人ホームで出会った「忘れられた日本人」/女の生き方)/第2章 カラダの記憶(身体に刻み込まれた記憶/トイレ介助が面白い)/第3章 民俗学が認知症と出会う(とことんつきあい、とことん記録する/散りばめられた言葉を紡ぐ/同じ問いの繰り返し/幻覚と昔話)/第4章 語りの森へ(「回想法ではない」と言わなければいけない訳/人生のターミナルケアとしての聞き書き/生きた証を継承するー『想い出の記』/喪失の語りーそして私も語りの樹海に飲み込まれていく)/終章 「驚けない」現実と「驚き続ける」ことの意味(驚き続けること/驚きは利用者と対等に向き合うための始まりだ)

<大使寸評>
著者は大学准教授から特別養護老人ホームに介護職員として転職したそうで、かなり異色な民俗学的アプローチとも言えるわけです。
著者のサイト 驚きの「介護民俗学」の実践 「介護民俗学」へようこそ! で、著者の近影が見られます。

この本はブログ友のレビューを読んで、以下のとおり図書館に借出し予約したものです。<図書館予約:(12/23予約、12/28受取)>

rakuten 驚きの介護民俗学







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Last updated  2015.01.03 00:18:33
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