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2019.01.07
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カテゴリ: 歴史
図書館で『思考としてのランドスケープ地上学への誘い』という長いタイトルの本を手にしたのです。
ぱらぱらとめくると、地形、農耕、土木、造園、景観に絡めた広い視点がいいではないか・・・ということで借りたのです。





石川初著、LIXIL出版、2018年刊

<「BOOK」データベース>より
地上は愉快でたくましい生存のスキルで満ちている!自然と人、それぞれの仕組みと事情のままならなさを受け入れ両者を橋渡しする“ランドスケープ的思考”という新しい道具。その使い方と楽しみ方をここに伝えよう。前方後円墳や平城京跡の観察から自宅の庭いじりまで、時間、スケール、事象を絶え間なく往還する“地上学”へ!

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくると、地形、農耕、土木、造園、景観に絡めた広い視点がいいではないか・・・ということで借りたのです。

rakuten 思考としてのランドスケープ地上学への誘い



農耕と景観の関係を、見てみましょう。要するに水田のルーツを見たいのです。
p90~92
<農耕の解像度>
 伝統的な農耕が土地の形状に与える影響が小さいのは、造成が人の手で行なわれるからだ。盛り土や切り土や石積みが人の手によってなされるために、工事の空間単位が人の身体である。例えば伝統的な石積み擁壁は、積まれる石の大きさは人が手で持ち上げられる大きさに、壁の高さは人が手で積むことができる高さに、それぞれ人の体の大きさがその寸法を決めている。
(中略)

 農耕の特徴のもうひとつは、既存の環境条件に対する繊細さである。
 農耕はその土地の自然環境に大きく依存した営みであるが、それは生産物が植物だからである。植物の栽培はその土地の気候に大きく依拠している。そのため、地域によって農産物の種類は異なる。さらに同じ地域のなかでも日当りや土壌など土地の条件によって栽培できる植物の種類や生育状況が異なる。つまり場所によって生えるものや育つものは違うし、ちょっとした条件の違いによって育ちやすさが変わる。農耕者は、地域や場所ごとに種類や場所ごとに種類や場所ごとに種類や育て方を変えて、その土地に適した作物を栽培する。

 栽培の技術の基本は、その植物の生育に適した環境をそこに構築することである。植物種の好む育成環境はしばしばその種の原産地の気候を反映している。もちろん、原産地の気候が必ずその植物種の潜在的特性を最大限に引き出すとは限らない。例えばある種のサボテンは原産地の砂漠よりも日本のような多湿な土地で栽培したほうが大きく育つことがある。過酷な環境の地域を原産地にしている植物は、必ずしもそこが最適な環境であるということではなく、他の植物が生育できない環境に生きることでその種にとっての生育域を確保していると考えられる。

 また、栽培植物は長い時間をかけて人にとって有用であるように選抜され、交配されることで、その性質が変えられてきた。農耕の歴史は植物の品種改良の歴史でもある。栽培植物は野生種とは大きく変えられ、手なずけられたものなのである。

 とはいえ、植物はあくまでも生物である。その種がうまく生育する環境をつくることによって、生命活動を利用して栄養を偏在・集中させて収穫するという、農業の基本的な手法はいまも昔も変わらない。

 例えば、水稲の原産地は現在の中国の東南部、揚子江の下流域ではないかとも言われている。日本列島には野生種としてではなく、すでに栽培技術が確立した栽培種として、食文化とともに渡ってきたと考えられているが、温暖な気候の低湿地に適応した湿性植物であり、その性質には稲の原産地の気候と、その後に長く栽培されてきた地域の気候、そしてこれを育ててきた農耕者の改良の歴史が刻まれている。

 水田は、これらの気候・環境を再現する施設である。土地を均し、周囲を土手で囲み、水を流し入れることでいわば局所的に揚子江下流の湿地帯に似た環境をつくり、そのうえで伝統的に継承されてきた栽培技術をもって稲を育成、結実させて米を収穫しているわけである。

日本列島の大部分はもともと多雨で高温多湿の気候であり、稲作に適している地域ではある。しかし人の手が加わる前に水田のような状態を呈している低湿地はどこにでもあるわけではない。場所によっては給排水を確保するために用水路や貯水池などの基盤の整備が必要であり、そのためには河川や湧き水などの水資源が確保される必要がある。それなりに広域的な条件が揃っていないと水田をつくることは難しい。また、水田の造成はかなり高度な土地の加工である。

 水田には浅い水を湛える必用があり、10センチの高低差があるとイネは育たないと言われている。そのため、田の一枚一枚は厳密に平坦に水平につくる必要がある。一方で大抵の地面はそんなに平坦でも水平でもなく、凹凸や高低差が存在するため、造成できる水平面の大きさには限界がある。

 作業効率としては、田はなるべく整形であり、かつまとまった面積であることが望ましいが、面を広げれば広げるほど既存の土地の地形との乖離が大きくなり、造成工事の費用が増大する。そこで、土地の傾斜に応じた「適度な」大きさの田が造成され、高低差は畔によって吸収される。傾斜地の水田が棚田になるのはこのためである。 水田の風景は「水田の性能としての揚子江下流域的環境」と「対象地の固有な既存状況」との調停の結果としてあらわれている。

 水田について考えるうえで、性能の確保と対象地域特有の条件との折り合いが風景をつくっているという観点は重要である。たんにその場の気候条件適合した作物を栽培するのなら水田に固執する必要はなく、傾斜地を棚田にするような努力をする理由もないからである。 稲作にはそれだけ強い支配力をもつ優位性があったのである。

 稲は世界の温帯・熱帯地域で広く栽培されている。とくに日本を含む東南アジアからインドにかけて稲作は盛んで、農地の風景や食文化、社会制度にまで大きな影響を及ぼしている。栽培植物学者の中尾佐助は、その生産性の高さと食味のよさによって、世界的に見てもコメは好まれ、栽培が拡大する傾向にあることを指摘した。

 日本において、稲が他の農作物と比べても特別な位置を占めていることは言うまでもない。現代、食卓におけるコメの割合は相対的に低下したとはいえ、コメが日本人の「主食」であるという意識はいまだ多くの人がもっているだろう。稲の栽培は縄文時代から始まっていたという説もあるが、本格的な稲作が始まったのは弥生時代のことで、弥生時代の前期には本州全土に伝播したと考えられている。

 それ以来、稲作はそれぞれの時代を通じて主要な食料生産手段であり続けてきた。租税は収穫された米の物納であり、地域の権力者が支配する領土は「石高」という米の生産高でランキングされるようになった。それぞれの時代を通じて水田の面積は増え続けたが、最も大きく激増したのは17世紀、江戸時代中期の新田開発であった。

長い間、水田は、安定して水を得やすい谷間や山麓などに、小さなまとまりで作られていた。しかし、戦国の騒乱が終焉し、国内で平和な時代が続く17世紀に入ると、人びとのエネルギーは大地を切り拓くことに注がれるようになった。新田開発である。その結果、河川の上流から下流に向かって開発が進み、沖積平野とよばれる下流の平坦部にまで大規模な水田が造成されていった。これは、日本列島の大改造といえる。 この大改造が耕地面積をほぼ倍増させたことによって、日本列島の歴史上、初めて一面に水田の広がる光景が出現したのだ(武井弘一『江戸日本の転換点』[NHKブックス、2015]


ウーム 大陸からの渡来人が水田稲作を持ち込んだようだけど、当時の縄文人は機嫌よく狩猟・採取生活を楽しんでいたので、案外と「大きなお世話だ」と思っていたりして(笑)





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Last updated  2019.01.08 19:03:48
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