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2021.03.16
XML
カテゴリ: アート
図書館で『私が作家になった理由』という本を、手にしたのです。
阿刀田高さんといえば・・・
ロアルド・ダールの短篇集『キス・キス』の存在を教えてくれた作家である。
その阿刀田高さんが来し方を振り返るとは・・・興味深いのである。





阿刀田高著、日本経済新聞出版社、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
84歳の作家が“小さな説”で来し方を振り返る。人生の説明のつかなさこそ、いとおしくて面白い。
【目次】
1(読書好き/双子の兄 ほか)/2(司書/三帖一間で ほか)/3(ギリシャ神話/旧約聖書 ほか)/4(自国の言葉/国語審議会 ほか)/5(朗読/大震災 ほか)

<読む前の大使寸評>
阿刀田高さんといえば・・・
ロアルド・ダールの短篇集『キス・キス』の存在を教えてくれた作家である。
その阿刀田高さんが来し方を振り返るとは・・・興味深いのである。

rakuten 私が作家になった理由


国会図書館司書時代について語られているので、見てみましょう。
p70~72
司書
 文部省図書館職員養成所の特科で学んだのち採用試験を受けて国立国会図書館の司書となった。図書館は、そのころ赤坂離宮にあって、ここへ行くには四ッ谷駅からまっすぐな道路が敷かれている。主要道路のほうが左右に遠慮して迂回しているのである。バッキンガム宮殿を模した美姿を正面に見ながら行くのは、しがないサラリーマンながら少しうれしかった。

 が、すぐに永田町の新館が竣工し、この引越しが大変だったなあ!滅多にないことだが、図書館の移転は蔵書もろともだから、まったく容易ではない。
 新館に移ってすぐに整理部の分類係に配属され、ここは入って来た本を内容に従って分類し、分類番号を記すところだ。係長一人に、係員一人で、忙しい。国立国会図書館は納本図書館であり、日本で出版された本や雑誌は(原則として)全部入ってくる。

 新しいものは全部、分類係の係員の前を通り、
「えーと、これは日本の小説だから913.6、これは明治憲法だから323.13」
 日本十進分類法(当時はこれ、現在は独自の分類法)に従って数字を記す。

 たいていはペラペラと表紙をめくって目当がつくが、時折、厄介なものがある。
 それにしても、この仕事をやってみて、
 …知らないこと、多いなあ…
 つくづく実感した。自分が格別もの知りとは思っていなかったけれど、仏教の
経典はどう分類するのか、基礎医学と臨床医学は明確に異なるとか、電子工学はどんどん進んでいるとか、困惑してしまう。知らない分野の入門書や概説書を覗いて応じたが、これにより少しく知識がひろくなったかもしれない。

 私の仕事をチェックする係長が言うのである。
「君は自信がないとき、数字が小さくなるね」 
 本のタイトル・ページの裏に鉛筆で分類番号(数字)を書くのだが、言われてみると、そんな気がしないでもない。くやしいから逆に大きく書くように心がけたが、いつのまにか本来のくせが…自信がないと字が小さくなるケースが現れてしまう。

 今でもあのころの本たちが図書館の書架で大小いろいろの分類番号を背負って潜んでいるだろう。過日、たまたま借り出した本に、その一つを認めて…私の筆跡を見つけて、
「おい、元気か」
 奇妙に懐かしかった。

 毎日毎日、目の前に新しい本が運ばれてきて、少しは目を通すわけだから、
 …へぇー、こんなこと、買いてある…
 仕事を離れて目を止めてしまう。


『私が作家になった理由』2 :国語力の重要性
『私が作家になった理由』1 :山梨県立図書館





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Last updated  2021.03.16 00:01:05
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