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2021.03.16
XML
カテゴリ: アート
図書館で『私が作家になった理由』という本を、手にしたのです。
阿刀田高さんといえば・・・
ロアルド・ダールの短篇集『キス・キス』の存在を教えてくれた作家である。
その阿刀田高さんが来し方を振り返るとは・・・興味深いのである。





阿刀田高著、日本経済新聞出版社、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
84歳の作家が“小さな説”で来し方を振り返る。人生の説明のつかなさこそ、いとおしくて面白い。
【目次】
1(読書好き/双子の兄 ほか)/2(司書/三帖一間で ほか)/3(ギリシャ神話/旧約聖書 ほか)/4(自国の言葉/国語審議会 ほか)/5(朗読/大震災 ほか)

<読む前の大使寸評>
阿刀田高さんといえば・・・
ロアルド・ダールの短篇集『キス・キス』の存在を教えてくれた作家である。
その阿刀田高さんが来し方を振り返るとは・・・興味深いのである。

rakuten 私が作家になった理由


阿刀田高さんの転身が語られているので、見てみましょう。
p85~88
著述家に転身
 雑文書きで生活費くらい見込めるようになると、
 …図書館勤務をやめるかな…
 フリーの著述業者に転身することを考えるようになった。もとより危険をともなう決断である。五人の知己に相談した。三人は編集者で私の筆力をそれなりに知っている人たちだ。

 一人は少し前にサラリーマンをやめてフリーの著述家となった先輩だ。そして残りの一人は文筆とは関わりなく、古くからの私の生き方を見ている友人だった。もし否定的な意見が多数を占めるなら転身をあきらめるつもりだった。

 結果は四対一で肯定的なサジェッション。編集者はおおむね私の将来を保証してくれた。古くからの友人は、
「なんとか暮らしていけるなら自分の好きなことをやるべきじゃないのか」
 と、これが決め手となった。
 もちろん、妻の承諾はえてあった。

 初めから小説家を志していたわけではない。11年間務めた公務員生活を捨て、しばらくは収入を確保することにひたすらだった。字を書いてお金をまらえる仕事あたいていこなした。翻訳も、その下請けをやった。ゴースト・ライターもやった。そのうちに、
「せっかくフリーになったのだから小説を書いたら」
 と編集者から勧められ、実際に注文を出してくれる雑誌もあって、
 …やってみるかな…
 と思案をめぐらした。

 小説はよく読んでいたけれど、自分で書こうと考えたことはなかったのだ。
 …あれは、すこぶる特異な能力を必要とするもの。私には無理だな…
 本気でそう思っていたし、50年この仕事をやってきて今でも特異な能力の必要性については考えが変わらない。たまたま、なぜか私にほんの少しこの能力が恵まれていた、ということだろう。

 小説を書くよう依頼を受けたが、なにを、どう書いていいかわからない。
 …推理小説なら書けそうだな…
 殺人事件が起こり、探偵役が登場して謎を解く。とりあえずこれを綴ったが、雑誌の一番低いレベルは通過したらしく、処女作が活字化され、原稿料もありがたくいただいた。珍しいことである。

 続けて二つ、三つ発表したが、われながら、うまくない。なによりもすでにある作品に似ていて、劣っている。自分の独創性がどこにもない。
 …これじゃあ駄目…
 と悩んだとき、思い出したのが、欧米のユニークな短篇小説たちだった。
 日本の小説に私小説風が多いのに対し欧米の短篇には意表をつく作り物がある。

 …あんな作風を日本の風土の中で、日本人を登場させて書いたら、私の独自性が創れるかもしれない…
 療養生活で読んだ数多の短篇小説がヒントになってくれた。とりわけ『南から来た男』などトンデモナイ短篇を書くロアルド・ダールが手本となった。私の初期の短編集には、このあたりの思案がよく反映されているだろう。

 そして、初めての単行本『冷蔵庫より愛をこめて』が直木賞の候補となり、ついで上梓した『ナポレオン狂』で受賞となったのは、まったく幸運であった。習作の体験は乏しく、ただ小説を数多く愛読したことがデビューの原因となったのだ、と思う。

『私が作家になった理由』3 :国会図書館司書時代
『私が作家になった理由』2 :国語力の重要性
『私が作家になった理由』1 :山梨県立図書館

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Last updated  2021.03.16 00:06:40
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