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2021.06.26
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カテゴリ: 気になる本
図書館に予約していた『日々翻訳ざんげ』という文庫本を待つこと50日ほどでゲットしたのです。
ジョン・ル・カレの逆鱗に触れたというエピソードは如何なるものか?
このところ翻訳に関する本を読んできたが・・・翻訳家の苦労話が興味深いのです。





田口俊樹著、本の雑誌社、2021年刊

<出版社>より
本書はローレンス・ブロックの〈マット・スカダー・シリーズ〉をはじめ、2002年度「このミス」第1位のボストン・テラン『神は銃弾』、エルモア・レナード、トム・ロブ・スミス、ドン・ウィンズロウなど、ミステリーを中心に200冊近い訳書を刊行してきた名翻訳家が、自身が手掛けてきた訳書を再読し、翻訳家デビューのいきさつから、誤訳の数々、マイクル・Z・リューインとのメール交流、ジョン・ル・カレの逆鱗に触れた英文、レイモンド・チャンドラー「待っている」新訳での「大発見」まで、それぞれの訳書にまつわるエピソードと時々の翻訳事情で40年に及ぶ翻訳稼業を振り返る回顧録です。

<読む前の大使寸評>
ジョン・ル・カレの逆鱗に触れたというエピソードは如何なるものか?
このところ翻訳に関する本を読んできたが・・・翻訳家の苦労話が興味深いのです。

<図書館予約:(4/26予約、副本1、予約6)>

rakuten 日々翻訳ざんげ


チャールズ・バクスター『世界のハーモニー』あたりを、見てみましょう。
p80~84
<第9回 チャールズ・バクスター『世界のハーモニー』の巻>
 この本が出た今から27年まえ、新宿の紀伊国屋書店にはこんな棚が特設されていた。ミリマリストと呼ばれる純文系のアメリカ現代作家たちの棚だ。彼らの作品が何十冊も並べられ、「アメリカ青春小説」と銘打たれていた。

 ミリマリストを日本でも流行らせたのは村上春樹氏である。作家で言えば、氏が紹介したレイモンド・カーヴァーということにやはりなるだろう。それに勢いづいて、アン・ビーティやボビー・アン・メイソンやブレット・イーストン・エリスといったほかのミリマリスト作家も日本の翻訳界を一時期にぎわした。バクスターもそうした作家のひとりだ。
 本書は短編集だが、本書が出る1、2年まえに、たまたま表題作「世界のハーモニー」の翻訳を頼まれ、読むなりノックアウトされた。偶然手にして読んだ本が大あたり、ということがたまにある。読んで改めて、そうなんだよ、おれは今、こういう本が読みたかったんだよ、と気づかされる本がある。この表題作の短篇は私にとってまさにそんなタイムリーな一作だった。

 それを機会にこの短編集のあることを知り、編集者に頼んで取り寄せてもらい(アマゾンがまだない頃の話です)読んでみて、全篇是非とも訳したくなり、全訳の翻訳を出さないかと持ちかけたのだ。そう言えば、翻訳の企画を版元に持ちこんだのは本書が最初である。そんな意味でも本書は懐かしく、思い出深い。
 全十篇、ヴァラエティに富む作品集だが、ひとつひとつ触れる余裕はないので、やはり表題作を紹介したい。少し長くなるが、おつきあい願いたい。大好きな作品なので。

 主人公のピーターは子供の頃、オハイオ州の小さな町では神童だった。ピアノが並はずれてうまかったのだ。しかし、都会の音楽学校に進学して現実を思い知らされる。神童や天才などというものはこの世にごろごろしていることを。

 自分にはプロのピアニストとして生きていけるだけの才能はない。そう悟ると、彼は地方都市の新聞社に就職し、音楽評を書いて生きていくことを決める。その傍ら、アルバイトにピアノ伴奏をして、声楽専攻の学生や独演者のリサイタルを手伝うようになる。そんな彼のもとにアマチュアのソプラノ歌手カレンが現れ、3ヵ月後に開く自身の独演会の伴奏を依頼してくる。ピーターはその依頼を引き受けるものの、ああることに気づく。カレンの手首にはくっきりとリストカットの跡があった。

 ふたりはさっそく練習を始める。そのとたん、ピーターには、カレンのピッチ(音程)が絶望的なまでに不安定なことがわかってしまう。それが彼には赦せない。カレンはプロの歌手ではない。アマチュアがただ友達を呼んで音楽を愉しもうとしているだけのことだ。だから大目に見てもよさそうなものなのに、それが彼にはできない。
(中略)

 話を戻す。ピーターはカレンと恋仲になるが、当然のことながら、ピーターはカレンのエリサイタルを愉しめない。リサイタルのあとのパーティにもとても出る気になれない。この音楽に対するお互いの考え方の相違が、ふたりのあいだのどうにも克服できない障害となる。そのために、リサイタルの翌日、ちょっとした“事件”が起きる。ここには書かないが、これがなんとも切ない事件なのだ。彼女の置き手紙もどこまでも切ない。素敵な出会いをいたものの、このリサイタル以降、ふたりは永遠に交わることのない道を歩くことになる。

 翻訳は芸術ではないが、技量と情熱がなにより成果に表れるところは共通している。だからよけいにこの作品が好きなのかもしれない。それと技量と情熱の話というのは、突きつめるとどうしても切ない話になる。ま、私の偏見だろうが、この切なさも悪くない。

 翻訳に関しては、たぶん27年ぶりに読み返したのだが、ひとつも引っかかるところがなかった。これは実に珍しい。不思議なほどだ。

ウーム 翻訳とは、どうしても切ない話になるのか。

『日々翻訳ざんげ』2 :著者の処女訳
『日々翻訳ざんげ』1 :ジョン・ル・カレの逆鱗に触れた





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Last updated  2021.06.26 09:25:36
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