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2023.01.18
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カテゴリ: 中国
日本人が最も嫌う国は中国だそうで、大使も宦官という制度を備えた中華文明は好きになれないのです。
・・・ということで なぜ中国は眠れる獅子だったのか を、以下のとおり復刻します。

***********************************************************
今のところ、気まぐれな大使の関心は言語、中国あたりにあるわけで・・・・
図書館でジャレド ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄(下)」を借りたのは、中国について触れていたからです。
始皇帝始皇帝

今では2大覇権国として肩で風切る勢いの中国であるが・・・ひと昔前までは日本のODAを受けるほどで、何のこともなかったのだが。
トウ小平が現れる以前は「眠れる獅子」状態だったわけだが、これが大使最大の疑問であるわけです。



<なぜ中国でなくヨーロッパが主導権を握ったか>
 つまり、不運なことに、肥沃三日月地帯や地中海地方東部は環境的に脆弱だったのである。そして、これらの地域に繁栄した人びとは、自分たちの環境基盤を破壊し、自分で自分の首をを絞めてしまったのである。彼らの権力の中心地は、初めはもっと東部の肥沃三日月地帯にあった。しかし、もっとも古い時代に登場した東部地方の社会がしだいに衰退するにつれて、権力の中心地は徐々に西に移動していった。ヨーロッパ西部および北部の社会が同じ運命をたどらなかったのは、肥沃三日月地帯の人びとにくらべてヨーロッパの人びとが賢かったからではない。ヨーロッパ西部および北部は、降雨量が肥沃三日月地帯よりも多く、植物が再生しやすい土地だったからである。これらの地域では、食糧生産が伝播してから7000年を経た現在でも、生産性の高い集約農業がおこなわれている。作物や家畜や技術や文字をヨーロッパに伝えた肥沃三日月地帯は、その後、時代の経過とともに技術革新や権力の中心地としての座をみずからおりてしまったというのが実際のところである。こうして肥沃三日月地帯は、ヨーロッパに対して誇っていた圧倒的なリードを失ってしまったのだった。

 それでは、中国の場合はどうだったか。中国は、肥沃三日月地帯と同じくらい古い時代に食糧生産をはじめていた。北部から南部に、そして沿岸地帯からチベット高原にまで広がる中国は、地形や環境の変化に富み、多様な作物や家畜や技術が誕生している。世界最多の人口を誇り、生産性に富む広大な土地を所有している。肥沃三日月地帯ほど乾燥していない。生態系も肥沃三日月地帯ほど脆弱ではない。そのため、西ヨーロッパより環境問題が深刻化しているとはいえ、食糧生産の開始から1万年を経た現在でも、生産性の高い集約農業がおこなわれている。これらを考慮すると、中国がヨーロッパに後れをとってしまったことは意外であある。

 中国は、初めの一歩を早く踏みだしていた。そして、さまざまな有利な点をそなえていた。それゆえ、中世の中国は技術の分野で世界をリードしていた。中国で誕生した技術は数多くある。そのなかには、鋳鉄、磁針、火薬、製紙技術、印刷術といったものや、本書でもふれたさまざまな発明がふくまれている。中国はまた、政治制度の発達においても世界をリードしていた。航海技術や海洋技術にも優れていた。15世紀初頭には、大船団をインド洋の先のアフリカ大陸東岸にまで送りだしていた(鄭和の南海遠征)。数百隻で編成されたこの船団には400フィートに達する船もふくまれちた。乗組員の総数は2万8000人にも達した。彼らは、たった3隻のコロンブスの船団が大西洋を渡ってアメリカの東岸に到着する何十年も前に、インド洋を越えてアフリカ大陸にまで達していたのである。では、なぜ中国人は、アフリカ大陸の最南端を西にまわってヨーロッパまで行かなかったのだろうか。なぜ中国人は、バスコ・ダ・ガマの3隻の船が喜望峰を東にまわって東南アジアを植民地化しはじめる前に、ヨーロッパを植民地化しなかったのだろうか。なぜ中国人は、太平洋を渡って、アメリカ西海岸を植民地化しなかったのだろうか。言い換えれば、なぜ中国は、自分たちよりも遅れていたヨーロッパにリードを奪われてしまったのだろうか。

 これらの謎を解く鍵は、船団の派遣の中止にある。この船団は、西暦1405年から1433年にかけて7回にわたって派遣されたが、その後は中国宮廷内の権力闘争の影響を受けて中止されてしまった。これは宦官派とその敵対派の抗争であったが、この種の政治的争いはどこの国でもよくあるものだ。船団派遣の政策を推進していたのは宦官派だったので、敵対派が権力を握ると船団の派遣をとりやめたのである。やがて造船所は解体され、外洋航海も禁じられた。この出来事は、たとえば1880年代のロンドンのガス灯にかわる電灯による街路照明を阻止する法律の制定や、両大戦間のアメリカ合衆国政府の外交政策(孤立主義)などを思いださせる。また、国内の政治状況に対応するために、既存の進んだ技術を後退させていった多くの国々をも思いださせるが、中国は国全体が政治的に統一されていたという点でそれらの国々とは異なっていた。政治的に統一されていたために、ただ一つの決定によって、中国全土で船団の派遣が中止されたのである。ただ一度の一時的な決定のために中国全土から造船所が姿を消し、その決定の愚かさも検証できなくなってしまった。造船所を新たに建設するための場所さえも永久に失われてしまあったのだった。

 中国とは対照的だったのが、大航海時代がはじまった頃のヨーロッパだった。当時のヨーロッパは政治的に統一されていなかった。イタリア生まれのクリストファー・コロンブスが最初に仕えたのはフランスのアンジュー公である。そこがだめになると彼はポルトガル王に仕えたが、探検船団の派遣を拒絶され、つぎにメディナ・セドニア公のもとに行く。そこでも自分の願いがかなえられないとわかり、メディナ・セリ伯のもとに行くが、やはり船団派遣の願いは断られる。今度はスペインの国王と女王に仕え、初めは断られたものの、最後の最後に願いは聞き入れられた。コロンブスは3人の君主に断られ、4番目に仕えた君主によって願いがかなえられたのである。もしもヨーロッパ全土が最初の君主のうちの一人によって統一支配されていたら、ヨーロッパ人によるアメリカの植民地化はなかったかもしれない。
(中略)

 このように、ヨーロッパと中国はきわだった対照を見せている。中国の宮廷が禁じたのは海外への大航海だけではなかった。たとえば、水力紡績機の開発も禁じて、14世紀にはじまりかけた産業革命を後退させている。世界の先端を行っていた時計技術を事実上葬り去っている。中国は15世紀末以降、あらゆる機械や技術から手を引いてしまっているのだ。政治的な統一の悪しき影響は、1960年代から70年代にかけての文化大革命においても噴出している。現代中国においても、ほんの一握りの指導者の決定によって国じゅうの学校が5年間も閉鎖されたのである。

 中国の統一もヨーロッパの不統一も昔から連綿とつづくものである。現代中国でもっとも生産性の高い地域は、なんと紀元前221年に初めて政治的に統合されて以来、中国の長い歴史っを通じてほとんど分断されたことがない。中国では、人びとが文字を使いはじめて以来、ただ1種類の文字を使いつづけてきたし、長いあいだ、ほとんど1種類の言語を使っている。文化的にも、過去2000年間、ほとんど一つにまとまっている。これに対して、ヨーロッパが政治的統一に近づいたことは一度としてなかった。14世紀のヨーロッパには1000の小国家がひしめいていた。西暦1500年には500となった小国家は、1980年には25に減じたが、私がこの文章を書いている時点ではまた少し増えて40になっている、ヨーロッパには、それぞれが独自のアルファベットを使う45の言語がひしめいている。文化的な違いはもっと大きい。今日(1997年)では、ヨーロッパ経済共同体によってヨーロッパを統一しようという温厚な計画でさえ、意見の一致が見られずに挫折している。それは、統一を嫌う伝統がヨーロッパに深く根付いているからである。

 つまり、政治や技術の分野において、中国が自分たちよりも遅れていたヨーロッパにリードを奪われてしまった理由を理解するすることは、すなわち、中国の長期にわたる統一とヨーロッパの長期にわたる不統一の理由を理解することになる。そしてその答えは、1枚の地図が示唆している。ヨーロッパの海岸線は激しく入り組んでいる。ギリシャ、イタリア、イベリア、デンマーク、ノルウェー/スウェーデンといった5つの半島が海岸線から突出していて、その先に島々が点在している。これらの地域の人びとはそれぞれに独自の言語を話し、独自の民族を形成し、独自の政府を戴いている。中国の海岸線はあまり入り組んでおらず、なめらかである。半島も、重要なものは朝鮮半島のみである。ヨーロッパには、政治的に独立し、独自の言語と民族性を持つに充分な大きさの島が二つある(イギリスとアイルランド)。そのうちの一つイギリスは、ヨーロッパ本土の海岸線から遠くなく、強い影響力を持つ独立国となった。しかし、中国では、台湾と海南島という二つのもっとも大きな島でさえ、面積はアイルランドの半分以下である。近年になって台湾が頭角を現すまでは、この二つの島が独自に力を持つことはなかった。また、日本は、アジア本土から離れていて、ごく最近になるまで、イギリスがヨーロッパ本土と政治的にかかわったような関係をアジア本土と持つことはなかった。
(文字数制限により後略、全文は ここ




下巻

ジャレド ダイアモンド著、草思社、2010年刊

<内容紹介>より
なぜ人類は五つの大陸で異なる発展をとげたのか。分子生物学から言語学に至るまでの最新の知見を編み上げて人類史の壮大な謎に挑む。ピュリッツァー賞受賞作。朝日新聞ゼロ年代の50冊・2000年~2009年に刊行された全ての本の第1位のに選定された名著。

<読む前の大使寸評>
上下巻構成の名著であるが、文字、中国にふれている下巻から読もうと思ったわけです。
amazon 銃・病原菌・鉄(下)

朴大統領は恨1000年という認識を洩らすけど、ダイヤモンドさんはイギリスとヨーロッパ本土のような関係を日本はごく最近になるまでアジア本土と持つことはなかったと述べています。(歴史認識の深さと広さは、かくも違うものなのか)

読後の感想であるが・・・
宦官派とその敵対派の抗争が中国の停滞を生んだのか、そして、「政治的な統一」という悪しき伝統が中国の弱点のようですね。

この本は「覇権中国の弱点はどこにあるのか?」という大使の読み方に答えてくれる名著であったと思うのです♪
(大使、読む動機が不純です)





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Last updated  2023.01.18 00:12:19
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