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2025.12.24
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柴崎友香「フルタイムライフ」(河出文庫)  今日は 柴崎友香 「フルタイムライフ」(河出文庫) 案内 です。出版されたのが 2005年 ですから、今では、もう、 20年前の作品 です。最初は 「ウツ、」 という題名で雑誌に掲載されたようですが、単行本、文庫本の題名は 「フルタイムライフ」 です。
 彼女は 「春の庭」(文春文庫) という作品で 2014年 芥川賞 をとりますが、ボクが好きになったのはそれ以前の作品群に惹かれたからなのですね。で、 この作品 は芥川賞以前の 柴崎友香 作品の典型的な作品で、まあ、ボクの評価では 傑作 です。
 こんな書き出しです。
五月

 書類を細かく切り刻むシュレッダーは、どういう仕組みになっているのかはわからないけれど、一度にたくさんの紙を入れることができない。ホッチキスの針もいちいち外さなければならない。一つぐらい針がついたままでも、何の異常もないように飲み込んでしまうけれど、シュレッダーの刃が欠けて傷みが早くなるらしい。普通のコピー用紙なら多くて十枚ぐらいがこの機械の限界で、それ以上だとがこがこっと大きな音を立てて動きが止まり、入れた書類は途中まで切れ目が入った状態で逆向きに吐き出される。このシュレッダーは、細切りではなくて一センチメートルくらいの正方形に裁断するタイプで、途中で戻ってきた紙は三分の一ぐらいが一センチ幅に切り目が入れられていて、そのぴらぴらした形は七夕の飾りみたいに見える。
「喜多川さん、まだシュレッダーしてんの?わ、スゴイ量やな」(P7)
​  語り手 喜多川春子 、この春、美術系の大学を出てこの会社に就職した新入社員です。
「五月」 章題 がありますが、小説は、ここから翌年の 「二月」 まで続きます。
 文庫版の巻末に 山崎ナオコーラ という作家が 「もうそろそろ世界になれましたか」 と題して解説を書いています。その中で、​
 なんというか、たとえば雨降りのときに、「晴れている状態が正しい」とは決して言わずにちゃんと雨に濡れて、水たまりをじっと見つめながら、空の動きを想像している。
 ​という、実に卓抜な評言を記していますが、デザインを勉強していた女性が、さしたる当てもなく入社した機械部品の製造会社で、新入社員として暮らす一年間を 「雨に濡れ」 ながら 「水たまり」 を見つめ、遠くの 「空」 の様子を見上げては、語り続けるお話です。
 書き出しの シュレッダーの描写 と、後ろから聞こえてくる 同僚の声の音 との間に、ボーっと読んでるこちらを、なぜだか​
「ハッ」させる、間合いがあります
​が、これが、ボクの好きな 柴崎友香 本領 だと思います。
 何も起こりません。淡々と新入社員暮らしをする女性の日々の、 彼女なりのエポック、まあ、今日の出来事 が記されていきます。それが、実に面白いんですね。
 様々な境遇で人は生きていますが、じっと 「水たまり」を眺めること も、 遠くの「空」を仰ぎ見ること も、誰にだってあります。だからと言って、誰しも、取り立てて訴えたり、泣き叫んだりするわけではありません。でもね、 それを小説として成立させるのは至難の業 だと思のです。​
やっぱり、 傑作 ですね(笑)。
2025-no117-1190







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最終更新日  2025.12.24 00:18:35
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