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2024.09.12
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カテゴリ: メディア
2010年泉鏡花文学賞受賞作でもあるこの本が興味深いわけで・・・
以下のとおり復刻して読み直してみます♪

*********************************************************
図書館で「河原者ノススメ」という本を手にしたのです。
画像も多く、内容も充実していて・・・2010年泉鏡花文学賞受賞作というのも納得できるのです。





篠田正浩著、幻戯書房、2021年刊

<出版社>より
構想50年の渾身の書き下ろし。日本映画界の旗手が、芸能者たちの《運命》を丹念に追跡し読み解く意欲作。独自の視点で、日本の芸能の歴史を再構築する。2010年第38回泉鏡花文学賞受賞作。映画『夜叉が池』リメイク版公開を記念に、泉鏡花をめぐる文章を増補して新版として刊行。

<読む前の大使寸評>
画像も多く、内容も充実していて・・・2010年泉鏡花文学賞受賞作というのも納得できるのです。

rakuten 河原者ノススメ


「第17章 東海道四谷怪談」のなかで女形が語られているあたりを、見てみましょう。
p329~331
<女形という「型」>
 世間は腐食しはじめていた。
 創成期の歌舞伎や浄瑠璃は変動する政治社会に敏感に反応し、最も新しい情報や事件を組み入れて、市民に衝撃を与えてきた。しかし鎖国された民衆にとって周辺の海は水の壁でしかなかった。
 ラクスマンも間宮林蔵も大黒屋光太夫もアイヌの反乱も彼らの視野には入らず、江戸市民はといえば、祭礼に浮かれて永代橋を踏み潰してしまっていた。19世紀に突入した文化文政の世となっても、人民が親しむ演劇は「型」の継承がもっぱらで、新作で時代に挑戦する歌舞伎はなかった。

「型」といえば女形である。歌舞伎の運命は常に徳川幕府の禁制と不可分であった。女歌舞伎や若衆歌舞伎がその裏での売色を隠さなかったことから、男女共演は不可能になった。その屈曲の象徴が女形である。
 女性の出演が公認された舞台は、阿国歌舞伎の繁昌期だけということになる。いずれにしても、元禄以後の歌舞伎という芸能は、徳川幕府の治世の理念である儒学の倫理によってフェイクされたものであり、ここから女形という「型」が形成されていったのだ。

 ロラン・バルトは1970年に発表した『表徴の帝国』(筑摩書房・1996)で、現代人の位置から、三百年にわたって伝承された女形の本質を考察した。
(女形の)内部の男性は、ただ、不在化されているのである。俳優は女形の顔をつくって、女性を演じているのではない。女性を複写しているのではない。ただ単に女性を表徴するのである。いっさいの女性的現実を吸収するか消失させる結果となる・・・またはそうなることが当然となる。表徴されはするが、再現されはしない、この女性は観念なのである(後略)

 女形が観念だ、というバルトの指摘は、歌舞伎を独特の様式に仕上げてきた「型」の本質を的確に把握している。彼が観劇した時の女形は五十代で娘役を演じていた。フランス人がそれを女性だと認識できないのは当たり前である。初代芳沢あやめ(1673—1729)や四代目岩井半四郎(1747—1800)に代表される、日常まで女の暮らしを徹底しようと変身を心がけた女形はいたが、歌舞伎のドラマツルギーが進化、多様化するにつれて女形の「型」の正統、格式が論じられた一方、リアリズムが歌舞伎に侵入してくると女形の存在が不自然になった。この不自然を、現代人は観念の所為としてとらえなおそうと努力をはじめていた。

 私は歌舞伎を観るたびに、最初のうちは舞台上の「型」の美しさ、意表をつく「観得」に圧倒されるが、そこから先、芝居の内部に入ろうとしても興醒めする場合がしばしばある。現代人にとって、「型」の内実はガランドウなのだ。それを異国人のロラン・バルトは「観念」と呼んだ。


『河原者ノススメ』2 :小津安二郎の自嘲
『河原者ノススメ』1 :「第1章 芸能賤民の運命」の冒頭

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『河原者ノススメ』3
https://plaza.rakuten.co.jp/foret/diary/202402040000/





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Last updated  2024.09.12 00:40:06
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