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佐伯一麦
という作家のエッセイ集 「とりどりの円を描く」(日経新聞社)
を読み終えた。
「この人、何か変わったかな。」 何が変わったのかは、よくわからない。知り合いが勤めている大阪にある大学の文芸科で先生をしていると聞いたのもこのころだった。
化けた! という感じだった。以前のイメージが、小枝にとまって囀り続ける小鳥だったのに対して、かなり大きな鳥が大きく羽ばたいて、空をゆく感じがした。
はるか上流の足尾銅山の鉱毒によって渡良瀬川は汚染され、流域の農地にまで及んでいった。日本における郊外に始まりととされる足尾鉱毒事件。そのために、時の明治政府によって、洪水調整の名目で、もともとは肥沃な農地で流れている川には魚影も濃かったこの土地は、遊水池として強制的に水没させられ作り替えられたのだった。
そして今、上流の足尾山地や赤城山一帯は、放射能の汚染地帯が広がっており、大雨のたびにセシウムを含んだ大量の土砂が、遊水池へ運ばれてくる。震災によって三年ぶりにおこなわれた野焼きは、放射能の悲惨を懸念する声を配慮して、焼く葦原の面積を例年の四〇%にとどめたという。百年を経て歴史が繰り返されている思いが湧く。
「あっ、そうか、ここが『谷中村』の水没地点だったんだ。」 さすがのぼくでも、 渡良瀬川 が 足尾銅山 の鉱毒が垂れ流された川だということくらいは知って読んでいた。
小説 「渡良瀬」 の大きさ を、あらためて実感した。
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