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いせひでこ
さんという 絵本作家
、いや、 絵描きさん
とお呼びする方がいいかもしれませんね。その方の 「ルリュールおじさん」(理論社)
という絵本を図書館で見つけました。
ジル・バシュレ
というフランスの人が書いた 「わたしのネコが小さかったころ
」(平凡社)
という、全く、人をくった、愉快な絵本の訳者の名前として知ったのですが、御本人の絵本もなかなかなものでした。
絵本の舞台はパリです。表紙はアカシアの木陰を走る少女ですね。登場人物は、大好きな植物図鑑が壊れてしまった少女 ソフィー
とその本を直してくれる ルリュールおじさん
の二人です。
お読みになればすぐにわかりますが、 ルリュール
というのは人の名前ではなくて、仕事の名前でした。オジサンのお父さんも ルリュールという仕事
の職人さんだったそうです。
印刷した紙の冊子を革装の表紙をつけて製本したり、読み込んで傷んだ本を修復修理したりするお仕事ですね。
日本語には訳すことができない仕事です。製本屋さんという訳だと少し違う気がします。多分、聖書に始まるヨーロッパの本の文化を支えてきた伝統的な仕事でしょうね。
その
製本の仕事をそばで見ている ソフィー
と、機械を操作している おじさん
の姿のページです。もうオジーさんですね。
オジサン
は、自分のお父さんの仕事を見て、この仕事の職人になりたいと思ったそうです。そのころの思い出のシーン。
セピア色の思い出が、 オジサン
の心の中にあります。お父さんの手元を覗き込んでいた少年も、今では背筋も曲がり、頭も白くなった老人です。
次の絵は、ようやく修理がすんで、新しい本になった図鑑を覗き込んだり、抱きしめたりしている ソフィー
の姿です。
床に置いた図鑑に覆いかぶさっている様子を描いている絵が、ぼくは好きです。
この本の中には壊れた本がどういうふうに修復されていくのか、順番に描かれています。ノリが乾く時間、 おじさん
と ソフィー
が パリの街
を散歩したりもします。
なんと言うんでしょうね、上品な絵のタッチとお話しのテンポがゆったりしていて、とても贅沢な印象の絵本です。大げさなドラマは何もありません。でも、本の好きな人にはうれしい絵本だと思います。
ぼくは、 ルリュールおじさん
の仕事がどんな子供を育ててきたのか、フランスや、ヨーロッパの、今も息づく歴史と文化の厚みにあこがれを感じました。
そんなフランスでも、新しい ルリュールおじさん
はもう生まれないのかもしれませんね。
日本人は 「書物」
を文化として受け取る知性を、近代 150
年かかっても育てることができませんでした。今、書店の棚に並ぶ本の内容の品のなさ、浅薄さ、毎週廃品回収に捨てられている本の山を見てそう思います。
すぐに答えを教えてくれて、すぐに役に立つ本は、やがて捨てられます。本を捨てる社会は 「歴史」
も 「文化」
も育てる事が出来ないような気がします。
100年以上も前に 漱石
が小説 「三四郎」
の登場人物、 広田先生
に言わせたことば、 「滅びるね」
が、もう一度リアルに響き始めているのではないでしょうか。
伊勢秀子
さんはノンフィクション・ライターの 柳田邦男
さんの配偶者だそうです。この絵本は2007年の 講談社出版文化賞
だったようです。
公立の図書館ならどこにでもある絵本でしょうね。でも、今はどこも閉まっていますね。またいつか、どこかで読んでみてください。
追記2022・05・21
神戸に 「子どもの本の森」
という図書館(?)がオープンしています。本を陳列して、本を読むイベントをする施設らしいのですが、貸し出しはないということです。大きな書店で、椅子とかベンチに座って棚の本を読めるというところもあります。 「ブック・カフェ」
とかいうコンセプトの喫茶店もあるようです。喫茶店の書棚に、読んだことのない本がならんでいて、毎日通って読むのでしょうか。
何故そうなのか、自分でもわかりませんが、図書館とか教室とかでは読むことに集中できない シマクマ君
には、 「貸し出しのない図書館」
、 「新刊の試し読み」
、 「大きな書棚の喫茶店」
、みんな無縁ですが、ついていけない、そういう時代というのが始まっている印象です。「本」なんてものは、親兄弟の目を盗んで、友だちとかを出し抜くために、こっそり読むものだと思うのですが、どうも、そういう時代は終わってしまったようです。棚に飾ってある本が好きな人は増えても、読んでいる人があんまり増えていないようですし、読んだ本は断捨離という不思議な時代ですね。
やっぱり、ついて行けそうもないですね(笑)。
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