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アーシュラ・K・ル=グウィンの「ゲド戦記」第四巻に、とても印象的なシーンがある。 読みながら、ふと、思ったことなのですが、映画では、このお話の 「美しい肌」 と 「ケロイド」 が、ちょうど逆の構造になっていたのではないでしょうか。映画は、美しく、働き者の クリス の、普段は隠された ケロイド を、ただ、一度だけ露わに映し出します。しかし、そのシーンが暗示するケロイドの正体が、どういう経緯のものであるか、今後どうなるのかについて語るわけではありません。
大魔法使いゲドの「伴侶」であるテナーという女性は、テルーという里子を育てている。テルーは、まだ小さな子供だが、言葉では言えないような陰惨なことをされて、顔の半分がケロイドのようにただれている。テナーは、心に難しいところをたくさん抱えるテルーを心から愛している。もちろんその顔の傷も一緒に愛を注いでいる。
しかし、こんなシーンがある。ある夜テナーは、ぐっすりと寝て居るテルーの寝顔を見ているうちに、ふと、手のひらで顔のケロイドを覆い隠す。そこには美しい肌をした子供の寝顔があらわれる。
テナーはすぐに手を離して、何も気付かず寝ているテルーの顔の傷跡にキスをする。 (岸政彦「断片的なものの社会学」)
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