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著者の 計見一雄(けんみ かずお)
という人は、裏表紙の紹介によれば 1939年の生まれ
で、1980年代から 精神科救急医療
の確立に尽力した精神科医のようです。だれにも媚びないで、まっすぐに自分の意見を書く態度が気に入って、別の著書にも手を出したりして、まあ、あれこれ面白がっていた人なのですが、ネットのニュースで 「新幹線の運転士 走行中に運転室離れトイレへ JR東海が処分検討」
という記事を見て、この本を思い出しました。学校でのいじめ、自殺。 「あってはならない」 ことが起きました。命の大切さを教育しましょう。児童の動揺がはなはだしいので、カウンセラーを導入します。まことに申しわけありませんでした、で終わる。「本校ではかかる事態を根絶することを誓います」とは、絶対に言わない。 と、まあ、ありがちなシーンを取り上げて、これを、こんなふうに批判しています。
(この言い方だと)「あってはならない」というのは「存在してはならない」としかとれない。 要するに 「あったらどうするか?」 という発想がないことに対する批判ですが、 「精神科救急医療」 の現場で実践してきた人として、実にまっとうな批判ですね。
なぜおかしいかというと、それは実際に存在してしまった。出現してしまったんだから、今後も出現する可能性があります。それを防ぐ手段を考えなければいけないし、仮に出現したときにどのように対処するのかということを、今後作っていかなければなりませんというのが正しい回答である。( 第1章「否認という精神病理現象」 )
「兵士は肉体を持つ」という事実―食い物と便所が大事 いかに愚かしい 「観念」 であれ、政治家やマスコミによって煽られ、 「同調圧力」 とかを笠に着て拡がり始めたときに、おろそかにされる個々の人間の 「肉体性」 について、目をそらしている自分がいないか、心して世間と向き合う必要を痛感する時代が、やってきているようですね。
戦争を可能にする病理とは、観念が実現するという思い込み、つまり ウィッシュフル・シンキング 、現実を否認する志向だ。その否認される現実の中に、旧日本軍の場合は 「兵士が肉体を持つ」 という事実が含まれていたようだ。
日本軍に体質にはそれがあった、とまでは思いたくない。でなければ日清・日露の戦役は戦えなかったろうから。昭和の戦争で、難戦・激戦になるにつれて、兵士の肉体性というのはほとんどなきに等しきに扱われた。第一次上海事変で登場した〈肉弾三勇士〉という英雄譚がその好例で、肉体をもって爆弾に代える、そうせよという命令。肉が爆弾になるというメタファー、これ以上の肉体軽視はない。肉体を軽んじ精神を高みに置く、昭和の最初の二〇年間を貫く「思想」のプロトタイプというべきものだろう。この三人の勇士を貶める意図はみじんもないが、この思想は徹底的に批判されるべきだ。 (第3章「兵士の肉体性」)
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