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100メートルも行ったであろうか、ルーベンは鼻をぴくつかせていたが、しわがれた声で「ゴリラ」とささやいた。私にはなにも見えない。かすかな音も聞こえない。ルーベンはぐいと私の手をひっぱり木立の中をさした。二、三歩進んだ私は、思わず棒立ちになって息をのんだ。10メートル先に、巨大な漆黒の手が伸びているのを見たのだ。ゴリラだ!彼は私たちに気づかず、木の葉をたべていたのである。 長々と引用しましたが、 「ニホンのサル学がゴリラと出会った瞬間」 というべきの場面の描写です。 学術文庫 で、300ページを超える大作ですが、こうして写していてもワクワクしてきて、夢中になった記憶が浮かんできます。もう、35年も昔の話です。
後ろでカシャと音が聞こえた。水原君がニコンのシャッターを切ったのだ。同時にかき消すようにその手が消え、鈍い音とともに黒い塊が左へとんだ。ルーベンは茂みの穴をさして、そこへはいっていけという。雨は相変わらず降っていて、しずくが音を立ててヤッケにあたる。不気味にあいている穴は、地獄の門のように見えた。ちゅうちょする私を、ルーベンは容赦なくぐいと押した。
茂みは分厚くもつれ、ぬれた木をおしわけて、はうようにして進むのがようやくである。茂みの中は薄暗かった。私は闇の中を手探りで、一歩一歩ふみしめて歩いていく思いだった。足跡は深い谷に落ち込むように向かっていた。とつじょ、十二、三メートル横の茂みで「グヮーッ」というものすごい咆哮がした。そして、大きく木がゆれた。そこにひそんでいたゴリラのリーダーが威嚇したのだ。しかし、私たちは身動きもできず、急ながけのツタにつかまって体を支えていつのがせいいっぱいであった。逃げようたって、このがけではどうにもならないではないか。(第1章 「ゴリラの聖域」 )
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