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の返却の棚にありました。
武漢
という地名が気になって手に取りました。
2020年
の
1月
、中国、湖北省の
武漢
という都市の封鎖、ロック・ダウンが発表されて驚いた記憶があります。ぼくの中では、もう
3年
、そして
4年目
に入った
コロナ騒ぎ
の始まりの町の名前です。
「面白いの?ずっと、置いているんだけど、誰も手に取らないのよね。」 と、まあ、こんな会話でしたが、度重なるネット記事の削除や極左による誹謗中傷の中で、書き手の 方方 は、自らの執筆動機、意図について、こんなふうに語っています。
「うん、面白いよ。コロナで閉じ込められた、あの時の感じ、この人はかかっていないけど、あの、何とも言えない気分とよく似てる。ネットの記事らしいけど、1回、1回、数ページで終わるから読みやすいし、記事のメインが日常生活なところがいいとおもうよ。」
「ふーん。」
「中国では、ネトウヨのことは極左というらしいけど、悪質さではエエ勝負やね。」
私は一人の物書きに過ぎず、私の見る世界は狭い。私が関心を持ち、体験できることは、身辺雑事と、一人一人の具体的な人間だけだ。だから、私は細々としたことを記録し、その時々の感想を書くことしかできない。自分のために、生きてきた過程を記録に残したいのだ。
まだある。私の主たる仕事は、小説を書くことだ。以前、小説について話したとき、次のようなことを言った。小説とは落伍者、孤独者、寂しがり屋に、いつも寄り添うものだ。ともに歩き、援助の手を差し伸べる、小説は広い視野を持って、思いやりと心配りを表現する。時には、雌鶏のように、歴史に見捨てられた事柄や、社会に冷遇された生命を庇護する。彼らに伴走し、温もりを与え、鼓舞する。あるいは、こうも言える。小説自体が、彼らと同じ運命にある世界を表現することもあり、彼らの伴走、温もり、鼓舞が必要なのだ。この世の強者や勝者は普通、文学など意に介さない。彼らの多くは、文学を単なる装飾品、首にかける花輪のようなものと見なしている。だが、弱酒たちは普通、小説を自己の命の中の灯火、溺れかかったときにすがる小枝、死にかけたときの命の恩人などと捉えている。なぜならそんな時、小説だけが教えてくれるからだ。落伍してもかまわない。多くの人があなたと同じなのだ。あなた一人だけが孤独で寂しいのではないし、あなた一人だけが苦しく困難なのではない。また、あなた一人だけが気をもみ、くじけそうになっているのではない。人が生きるのには多くの道がある。成功するのに越したことはないが、成功しなくても悪くない。
考えてみてほしい。私は小説好きなので、毎日些細なことを日記に書く時も。やはり自分の創作方法に沿って、観察し、思考し、理解してから書き始める。これは果たして間違いだろうか。
昨日の微信は、またしても削除された。残念至極としか言いようがない。封鎖の記録は何処に発す、煙波江上、人を愁えしむ。思考し、理解してから書き始める。これは果たして間違いだろうか。 (P103~104)(注「微信(ウェーイシン)」:日本の「LINE」にあたるチャット・サイト」
本当は、最初の宣言のような部分だけ写し始めたのですが、日本ではあまり知られていない 方方
という作家について、とりあえず知っていただくにはと思い直して、彼女の文学観の吐露の部分まで引用しました。語られていることは、少し教条的かもしれませんが、彼女の人間性については、かなり正直に表現されていて、本書の記事全体が、売名や金儲けが目的ではないことがよくわかります。
都市封鎖下の日常の記録ですが、そこに生きている人の、かなり正直な肉声が聞こえてきて、リアルです。権力のご都合主義、全体主義的統治についてもリアルに実感できます。蔓延する感染症の世界について、 カミュ
が 「ペスト」
で描いたのは小説的な創作ですが、この記録は 事実
だというところが圧倒的だと思いました。
忘れっぽい昨今ですが、コロナを忘れる前にお読みになることをお勧めします。
一つだけ、蛇足を付け加えますが、この記録に、繰り返し記述されている、ネット上での個人の意見表明に対する誹謗中傷や権力的な弾圧を読んで 「やっぱり中国は…」
という、流行りの中国ヘイトがらみで語る向きもあるかもしれません。しかし、ここに描かれている事象が、中国という国に特有なことだとは、ぼくは思いませんでした。むしろ国家主義化している日本にも十分当てはまる事象だという気が強くしました。マア、そのあたりは、お読みいただいたうえで、考えていただきたいことですね。
追記2023・09・08
方方の「武漢日記」(河出書房新社)
の英訳を担当した マイケル・ベリー
という人の 「武漢日記が消された日」(河出消防新社)
という本について読書案内しました。ネット社会の現実の、まあ、暗黒面が如実に感じられる本でした。そちらも覗いてみていただければと思います。
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