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大江健三郎の魂に捧げる — 装幀者として という 献辞 を最初のページに記して、 3月 に 大江 が亡くなった 2023年 の 6月 に出版されたのがこの 「私小説・夢百話」(岩波書店) という、 「絵」 と 「掌編小説」 をセットにした 小説集 です。
「ああ、あれか!」 と思い浮かべられるかもしれないという程度の、
あれ! の単行本化です。書き下ろされた分には、少し長いものもありますが、だいたい、 見開き2ページ で構成されている、いってしまえば大人の 「絵本」 です。
赤んぼうの脳は白紙ではない 先だって、死んだ母親の頭に妊娠していた彼女の胎児の脳を移植して、新しい人格が生まれるという、 ギリシア の ランティモス という監督の、まあ、へんてこな映画を見たのですが、その印象に誘われてこのページを引用しました。
子どもは意識を持って生まれてこないけれど、心は白紙ではなく、現代に至る歴史を備えた脳を持って生まれる、とユングは、身体の歴史を例に語っています。人間誰もが持っている胸腺は魚類にまでつながるとも。
「子ども科学電話相談」のファンである私は、宇宙誕生までの壮大な想像をかきたてられます。
「惑星ソラリス」(タルコフスキー)の、惑星ソラリスの海全体が脳です。海は、ソラリス・ステーションに滞在する学者たちの夢を読み取って、死んだ妻や怪物を「ゼリー状」の生きものとして作り出し、学者たちを戸惑わせます。学者の一人が地球に戻り、空に浮かんでいた巨大な赤んぼうの存在を語ります。四メートルもある生まれたての裸の赤んぼう、私は、「あれだ。アグイーだ」と思いました。
大江健三郎の「空の怪物アグイー」です。普段は空を浮遊していて、ときどき前衛音楽家Dの脇に降りてきます。
「カンガルーほどの巨きさで木綿の肌着をつけた赤んぼうで名前はアグイー」
Dはかれのアグイーの世界を、中原中也の《含羞はじらひ》で語ります。
枝々の拱(く)みあはすあたりかなしげの
空は死児等の亡霊にみち まばたきぬ
をりしもかなた野のうへは
あすとらかんのあはひ縫ふ 古代の象の夢なりき
目次
私小説・夢百話1(マグリットの『夢の箱』;天才・安部公房のマネ;夢の耳 ほか)
私小説・夢百話2(朔太郎の『猫町』;猫町;夢中夢 ほか)
私小説・夢百話3(武満徹の『夢の引用』;鳥人間のピアノ調律師;水のピアノ ほか)
司修[ツカサオサム]
1936年生まれ。独学で絵を学び、絵本の原画、書籍の装丁、小説の執筆、装幀家として、大江健三郎氏、小川国夫氏らと交流した。1978年『はなのゆびわ』で小学館絵画賞受賞。1988年「バー螺旋のホステス笑子の周辺」で芥川賞候補、1993年「犬」(『影について』)で川端康成文学賞。岩波書店刊『新約聖書』『旧約聖書』の装幀
追記
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