この言葉、実は『チェコ語=日本語辞典』には収録されていない。その理由は恐らく口語的な表現過ぎることではないかと思う。昔、チェコ語を勉強していたころ、この言葉について、師匠が笑いながらこんなことを言っていた。
「あの人、よほど頭に血が上ってたんだわ。インタビューでakorátなんて言葉使ってる」とかなんとか。当時はまだこの言葉の意味も知らなかったから、質問すると、信じられないものを見たというような顔で、
「知らないの? この言葉、よく使うんだけど」
と言いながら、授業中の師匠はめったに口語的にすぎる表現は使わなかったから、少なくとも師匠の口からは聞いたことはなかったのである。
チェコ語でどんな説明をされたか再現するのは無理だけれども、当時のこちらのつたないチェコ語で理解できた範囲では、「akorát」というのは、日本語の「ただし」と同じような使い方をする言葉だということだった。つまり、逆接だけれども完全な逆接ではなくて、前に出てきた情報を部分的に否定しながら接続する表現だと理解したのである。
師匠が笑っていたのは、この「akorát」という言葉は、公式の場面で使うような言葉ではなく、「あの人」と呼ばれた人は大学の先生だったから、そんな人が新聞のインタビューで使用していたのが意外であると同時に、思わず使ってしまった心情が読み取れておかしかったかららしい。インタビュアーが失礼だったのか、インタビューのねたになっていた事情が腹を立てる理由になっていたのかは覚えていないのだけど。
とまれ、この件で「akorát」という言葉を覚えられたのはいい。失敗だったのは、口語的に過ぎる「akorát」の正しい書き言葉的な表現を質問しておかなかったことで、いや質問して教えてもらったのかもしれないけれども「akorát」の響きのよさに忘れてしまったのである。「ただし」のような微妙な接続詞は、「しかし」で代用しても何とかなるもので、チェコ語でも「ale」を使ってごまかしていたのだけど、ちょうどいい言葉を発見して、以後、「jen?e」「jenom?e」という表現を覚えるまで、濫用してしまうことになる。
それから、この言葉にはもう一つ重要な意味があって、特に「tak akorát」という形で使うと、「ちょうどいい」という意味になる。これは師匠に教えてもらったのではなく、かなり後になってから知り合いに教えてもらったものだが、このときも、知らないの? と意外そうな顔をされた。チェコの人にとっては、普通に使う、ある程度チェコ語ができる人なら知っていても当然だと思うような言葉なのだろう。
ということで、辞書には載っていないけど、チェコ語を使って生きていくうえでは大切な言葉なのである。なくても何とかなるのは確かだけど、知っておいて的確に使えると、実際の実力以上にチェコ語ができるように聞こえるし、しかもハッタリかましているようには響かないところが素晴らしい。知らなかった人には使ってみることをお勧めする。
2019年2月10日13時55分。
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