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2021年03月01日
国会もめちゃくちゃ(二月廿六日)
この日は、下院で本会議が行われることになっており、特に二つの議題が注目されていた。いや二つの議題について話し合われることになっていたというほうが正しいか。一つは、一年ほど前、チェコで最初に非常事態宣言が出された頃から、その必要性が指摘されていながら、放置されてきた感染症対策に関する法律で、もう一つは、先日地方知事たちの要請を受けるという茶番の果てに、新規の宣言が出され、実質的には延長された非常じた宣言の延長である。
感染症対策法案は、二月半ばに非常事態宣言の延長でもめた際に、改めて俎上にのぼり先週ぐらいから与野党間で議論がなされた結果、下院では可決されて上院に送られていたものである。この下院で可決された案にどれだけ野党の考えが取り込まれているのかはわからないが、上院では否決され、上院による修正案が下院に差し戻された。それで、非常事態宣言が切れる前に上院案を可決するか、下院案を再度可決するかが求められていたのである。
非常事態宣言なしでも移動の自由の制限など感染症対策に必要な規制を行えるようにするのが目的の法案だけに、野党側が妥協して下院案に賛成するか、政府側が上院案も取り入れた修正案を出して可決しやすくするか、どちらかになるだろうと思っていたのだが、与野党間の対立はこちらの予想以上に深く大きく、海賊党、市民民主党など反政府を標榜する野党は上院案に賛成し、与党も譲歩しなかった結果、どちらの案も可決されないという事態に陥った。特に下院案の再可決に足りなかったのはたったの一票だったというあたりは、少数与党政権の弊害である。
その結果、感染症対策法案が可決されていたとしても、政府はより都合のいい非常事態宣言の継続を求めたはずだが、非常事態宣言の延長についての審議が重要性を増した。ただその経緯と結果には全く納得がいかない。
政府が求めた現在の非常事態宣言の延長に関して、否決されたのはこれまでの経緯を考えれば当然である。前回延長が否決されたときからも、政府が非常事態宣言を活用して有効に規制を行っているというよりは、自らの都合のいいように悪用しているようにしか見えないわけだし、これで賛成に転じたのでは、野党として失格である。
しかし、その野党側が、非常事態宣言の延長を否決した後、政府に対して、新たな非常事態宣言を発することを求めたのである。現在の感染状況で、感染症対策法もないまま非常事態宣言を解除するのはよくないと、野党の側でも考えているのだろうが、延長に賛成できない理由があるらしい。現在の非常事態宣言が、野党所属も含めた知事たち全員の要請によって発令されたというのが、野党が延長を認めたがらない理由になっている。
また、裁判で違憲だとみなす判決が出ているのも、現在のものを延長せず、新たな宣言を出したほうがいいと考える理由になっているのだろうが、状況や発令の根拠が同じ非常事態宣言を繰り返し出すことはできないというルールについてはどうなっているのだろうか。少なくとも、二週間前の非常事態宣言延長も、新たな非常事態宣言の発令も、ウイルスの変異種がチェコ国内に蔓延しつつあることを理由にしていたはずである。だから、現在の非常事態宣言が違憲なら、これから出されるものも違憲だと考えるのが普通だと思うのだけど。
とまれかくまれ、本来であれば終了するはずの非常事態宣言の実質的な延期が決定した。政府では同時に月曜日からの規制の強化も計画しているようだ。ただ、政府自らが国民が守らないと認めている規制を強化することに意味があるのかという疑問に、与党であれ野党であれ、政治家は誰も答えていない。不自由な生活がまた一段と不自由になりそうだ。少なくとも気分の上では。
2021年2月27日24時
2021年02月26日
カオスは止まらない2(二月廿三日)
文部省では、三月からの卒業と入試を控えている学年の通学を再開させようとあれこれ交渉しているようだが、前提条件として、アンチゲン検査で定期的に生徒たちの陰性を確認することが予定されている。当然授業の前に検査が行われている場所まで出向いて検査を受けてから学校に行くなんてことはできないから、簡易検査キットを使って生徒たちが自分で検査をすることになる。これはすでにオーストリアでも使われている方法らしい。
その検査キットに関しては政府が一括で購入して、無料で書く学校に配布することになっているのだが、その納入業者が先週の後半に選定された。その選ばれた会社が、医療機器とは全く関係のない会社で、選ばれるための条件を満たしていないのに選ばれたとして、週末の間、バビシュ首相が選定のやり直しをすると大騒ぎをしていた。
現在は非常事態宣言下にあるおかげで、所定の手続きを踏んで入札を行って業者を決める必要がなくなっている。だから、いくつかの会社に価格や納入期間、納入可能量などの見積もりを出させて、その中から最も都合のいい会社を選定することができる。問題は、誰にとって都合がいいかというところにあって、当然国にとってではないわけである。担当のハマーチェク内務大臣は、バビシュ首相の批判に対して、この会社だけが設定した条件を満たしていたと弁護しているけれども、先手伊尹の中からも異論があがっているようだった。
個人的には、この時点で納入業者の選定が行われたことが理解できなかった。というのは、先週半ばのニュースで、いくつかある簡易検査キットの中で、もっとも信頼性の高いものを選ぶための実験がカルビナーの学校で始まったと言っていたからだ。中国製の簡易検査キットは、去年の春も使われて全く使い物にならないと現場の評判は最悪だったから、事前に信頼性を確認しておくのは全く持って正しい。
その実験の結果が出たという話が聞こえてくる前に、納入業者の選定が始まっていたというのはどういうことなのだろう。使用する検査キットが変われば、業者も変わるはずである。これはもう、最初からどの会社のものを使うか話が決まっていて、実験は形式を整えるためのものに過ぎなかったのではないかと疑ってしまう。しかも、納入業者の選定に関しても疑いがあることを合わせると、最初から台本のできていた茶番にしか見えない。
茶番は月曜日になっても続き、バビシュ首相があれだけ批判していたのに、選定のやり直しはしないことが決まってしまった。その理由については、少なくともこちらが理解できるレベルでの説明はなされていない。そもそも、チェコ企業に生産させるのではなく、どうして中国から輸入する必要があるのだろうか。去年の春もチェコ企業が機能性の高いマスクや、防護シールドを開発して生産を始めていたのに、政府は中国からの輸入にこだわっていた。こういうのは泥棒に追い銭といって批判の対象になるはずなのだけど。
それから、今度は憲法裁判所ではなく、普通の裁判所で現在の非常事態宣言を違憲とする判決が出た。プラハのあるギムナジウムの学生が、授業がオンラインになってしまったことを憲法で保障された学ぶ権利を侵害するものだとして起こした裁判で、プラハの地方裁判所がギムナジウムに対してオンライン授業をやめて学校での授業を再開するよう命令を出したのである。その最下位命令の根拠となったのが、現在の非常事態宣言が憲法に違反したもだという解釈で、今後この司法の判断を受けて行政側がどう対応するのかが見ものである。
残念ながら件のギムナジウムは、春期休暇中で即時の授業再開とはならなかったが、来週の月曜日から再開する準備を始めたようだ。ただし、学校側が命令に対して異議を申し立てたという話もあるし、政府が再開を阻止するために動くという話もあるので、実際にどうなるかはわからないのだけど。一方で、感染状況の悪化で、せっかく再開した小学校の低学年の学校での授業を再び禁止しようとする動きもあるのだが、文部省では最後まで抵抗しようとしている。さすがコメンスキーを生んだ国であるというと誉めすぎか。
今日は、記者会見で厚生省の感染対策を担当する役人が、現在の状況は誰の責任でもなく、自然災害とでも言うべきものだと発言して、批判をあびていた。いやあ、ウイルスが世界に広がった責任は中国にあり、チェコの状況が壊滅的な原因は政府を初めとした政治家にあると考えるのが自然だと思うのだが、官僚としてはそんなことは口にできなかったのだろう。日常生活が戻ってくるのはまだまだ先のことになりそうだ。累計の感染者数が120万人に、死者数が2万人に迫るなど、割合で言えば世界最悪の状況にあるチェコだけど、政治があれな割には、頑張っている方じゃないかと個人的には思う。
2021年2月24日24時30分。
2021年02月25日
カオスは止まらない1(二月廿二日)
先週の半ばぐらいだっただろうか。厚生省が布製の普通のマスクでは感染対策に不十分だとして、他人との人間距離が2メートル以上取れない場所では、医療用のFFP2レベルのマスク、もしくはナノ繊維で織られたマスクの着用を義務付けることを検討していると言い出した。現在の感染状況を考えると、ウイルスを遮断する割合の高いマスクが必要だという判断のようだが、問題はマスクの質ではなく、着用しない人が増えていることにあると思うのだが、厚生省の役人達は気づいていない振りをすることにしたようだ。
厚生大臣自身が認めているように、定められた規制を守らない人が増えていることが、感染者の数が減らない原因になっている。守られない規制など、まじめに守っている人の生活を苦しくするだけで、状況改善の役に立つとも思えない。なすべきは規制の強化ではなく、確実に守らせる方法を導入することである。実際、今回のマスクの条件の強化にも、布製のマスクにナノ繊維のマスクについているマークを刺繍してごまかそうなんて考えている人も多いようだし、マスクをしない人は布でもFFP2でもしないことには変わりはない。
もちろんまじめに規制を守ろうとする人たちは、去年の春と同様にマスクの確保に走り、先週の金曜日の時点で、FFP2のマスクは品切れというところが多かった。幸いなのはチェコ国内の企業がマスクの生産に力を入れていて、国内の需要はほぼ賄えそうなことである。ただ、政府はそれでも、不良品の割合の高い中国からの輸入にこだわりそうなのが問題で、確かイタリアかどこかで不良品のマスクの多さがニュースになっていたと思うが、自家製の布のマスクのほうがましということにもなりかねない。
結局、このFFP2のマスクの義務付けは、政府の話し合いの結果、当初噂された月曜でも火曜日でもなく、木曜日からということになったのだが、新たな問題が発覚した。義務化される場所を考えると1年生、2年生が通学している小学校もその対象で、子供たちもFFP2のマスクが必要になるわけだが、本来医療従事者用のFFP2のマスクには子供サイズが存在しないのである。それをどうするかでもめたのも、木曜日からになった理由の一つだろう。
ハブリーチェク産業大臣が、口にしていた今日月曜日からの小売店の営業再開については、感染状況が全く改善しないことから、行われないことになったのだが、憲法裁判所が政府が1月に出した営業禁止命令を違憲だとする判断を下した。残念ながら裁判所がひよったせいで、これがそのまま命令の解除を意味するわけではないが、余りにも意味不明な、営業できる業種、禁止される業種の分類と、その理由付けが不十分だったことから違憲という判断に至り、今後に向けて改善を求めるということらしい。
靴屋や本屋は営業禁止なのに、銃砲店や花屋は営業可能というのは、生活必需品を扱う店に限り営業を許可するという本来の方針からは大きく逸脱していたし、スーパー内の靴売り場、服入場なども閉鎖させ、後には子供向けだけなら販売していいと規制を緩和したのも理解不能だったから、この判断には納得できるのだが、政府の政策を変えるところまで行くかどうかはわからない。業界団体からは、違憲の営業禁止命令に従わされた期間は、例年の利益と同じだけの補償を求めるなんて声も上がっている。
現在の、入店人数の制限という規制が解除されたかのように人がたくさん入っているスーパーマーケットの現状を見ると、小売店の営業禁止を解除した上で、入店人数の制限を厳しく守らせた方が、感染症対策としてましなんじゃないかと思えてくる。おっちゃんの店のような小さな店なら、入店人数を管理するのも簡単だし、買い物客が分散するから、特定の店の混雑も多少は緩和されると思うし、不満のガス抜きにもなるから規制を守る人が増えそうな気もする。
営業禁止でリフトなどが止まっているスキー場でも、多くの人が集まって、自力で斜面を登ったり、スノーモービルから伸びた紐に数珠つなぎに捉まって引っ張りあげてもらったりして、スキーを楽しんでいたが、混雑ぶりを見ると、人数制限付きで営業させていた方が、いい結果が出たんじゃないかとも思える。サッカーの試合なんかでも、スタジアムの外の中が見えるところにたくさんの人が集まって観戦していることがあるけど、これも中に入れて大きく間隔をあけて座らせた方がましで、マスク着用などの義務も守られるような気がする。
現在のバビシュ政権は、感染症対策に関して完全に国民の信頼を失っているので、新たな規制を導入したり、規制を強化したりしても、ほとんど意味がないだろう。状況が改善しない理由をお前らが規制を守らないからだと国民のせいにするような政府には、未来はなさそうだ。だからといって野党が政権を取ったところで、状況が劇的に改善するとは思えないのが、チェコの現状である。期待できそうなのは海賊党だけど、市長連合との協力がそこまでうまくいくとも思えないし、市民民主党あたりと連立を組んだら、それはそれでえらいことになりそうである。今の野党の協力関係は野党だからこそうまくいっている部分が多いのである。
2021年2月23日22時。
2021年02月19日
気分は憂鬱(二月十六日)
意味不明な非常事態宣言の延長がなされて、いや新たな非常事態宣言が発令されて二日目、職場に向かう途中に見かけた知り合いがマスクをしていなかった。つい先日までは、どんなときにもマスクをしていただけに意外だったのだけど、同時にこの人でさえマスクを外してしまうほどに、今のチェコ社会には、規制に対してもううんざりだという気分が蔓延しているということで、規制を強化したところでろくに守られず、何の効果も挙げそうもないことを象徴している。
そんな目で見るからかもしれないが、マスクをしていない、一時的にあごの下に持って行っているのではなく、完全にマスクの着用を拒否している人の数が、先週よりもはるかに多くなっているような気もする。ということは当然、マスク以外の規制を守っていない人も増えていることを意味する。この手の自由を制限する厳しい規制は、最初から期間が決まっているならともかく、長引けば長引くほど守らない人が増えていくのは当然のことで、政府が言うようなモラル云々はあまり関係ない。特に守っても何の効果もないとなればなおさらである。
去年の春の非常事態宣言下での規制を守る人が多かったのは、一つには最初の宣言だったというのもあるだろうけど、比較的短い期間で規制の緩和が始まり、宣言の終結が見えてきたのも理由の一つになっている。守らない人が目に見えて増える前に、規制が緩和され非常事態宣言が集結したのである。それに規制を守る効果があって、徐々にとはいえ感染者数という数字によって状況が改善していく様子が、目に見えたのも大きいか。
秋の非常事態宣言だって、少なくとも規制が導入された当初は守っている人が多かったのだ。その結果、状況が急速に改善して、クリスマス前には、非常事態宣言は解除されなかったとはいえ、規制がかなり緩和されるところまで行ったのだ。当時は導入されたばかりの犬システムも感染者数だけではわからない感染状況を示すものとして役に立っていた。
それが、クリスマス前に犬システムの示す数値を無視して規制の強化を先送りにしたり、年明けに逆に緩和を拒否したりしたことで全てがおかしくなった。規制を守っても状況が改善されない、もしくは改善されても規制が緩和されないなら、規制を守る意味がないと考える人が増えたのである。もちろん、非常事態宣言と規制が、いつ終わるという期限もなく、長期間にわたり続けているのもその原因のひとつである。
十月の上旬の発令からすでに四ヶ月を越えようとしていることを考えると、そこに政治家たちがやっているでたらめも考え合わせると、チェコの人たちはよくここまで我慢して規制を守っているものだと思わなくもない。規制反対のデモはしばしば起こるけど、アメリカや西欧とは違って暴動にはならないし。
せっかく犬システムで、全国的な評価だけではなく、地方ごとの感染状況を示す数字も出すようにしたのだから、規制の度合いもそれぞれの地方の状況に合わせて変えればいいと思うのだが、それをやると非常事態宣言が必要な理由がなくなるせいか、現在まで実現はしていない。犬システムを導入したときには、将来は地方単位で規制を変えるために使うといっていた記憶もあるのだが、厚生省の犬システムのページでは地方ごとの数字が見られなくなっている。
これもまた、規制を守らない人が増えている理由のひとつである。感染状況は地方によって大きな差があるのだが、全国一律での規制のため、状況が比較的良好な地方の人が、別の地方のせいで規制が厳しくなっていると考えてしまうのである。地方によってある程度規制に差をつけるような対応にしておけば、犬システムの示す危険度指数を我がこととして受け止められただろうに、特に年が明けてからは数字がどうなっても規制が変わらないということで、まともに受け止める人はいなくなった。
もっと言えば、今更言ってもしょうのない話だけど、秋に非常事態宣言が発令される前の、プラハで大規模集団感染が頻発していた時期にプラハを閉鎖しなかったのもよくない。春のリトベルが閉鎖されたときよりもはるかに状況が悪かったのを放置したことで、その程度のものでしかないのだと理解した人は多いはずだ。プラハですら閉鎖の対象になりうるということを、この時期に示せていたらこんな状態にはなっていないと思うのだけど。
2021年2月17日24時。
2021年02月18日
冗談じゃなかった(二月十五日)
非常事態宣言を巡る与党と野党の政治的な駆け引きは、もう冗談としか言いようのないレベルにまで堕ちていて、醜悪さでは日本の、マスゴミも含めたでたらめ振りと大差ない。最悪なのは、日曜日のバビシュ政権の悪あがきがなぜか成功してしまったことで、その結果、実質的には、木曜日に国会で否定されたはずの非常事態宣言が、さら14日間延長されることになった。
もともと去年の秋に発令され、共産党の協力で延長されてきた非常事態宣言は、日曜日の深夜24時に切れることになっていた。それで先週政府と野党が、延長するかどうか、延長するならどんな条件で延長するのかなどについて話し合いを進め、木曜日に国会で採決が行われたのだが、話し合いが物別れに終わり、要求した防衛予算の削減の詐欺的な取り扱いに不満をためていた共産党が協力を拒否した結果、非常事態宣言の延長は認められなかった。この時点で、秋から続いた非常事態宣言が終了することは決定したのである。
それに対して政府は、野党所属の地方知事の中にも、中央とはちがって非常事態宣言の必要性を訴える知事がいることを利用するという手に出た。つまり、地方からの要請で非常事態宣言を改めて発令するというシナリオを用意したのである。地方単位の非常事態宣言であれば、これまでも洪水が起こった際などに出されているが、政府だけでなく知事の権限でも発令できるはずである。政府が狙っているのはあくまでも全国的な非常事態宣言だったから、プラハ市長も含めて全国14人の知事が全員一致で非常事態宣言を要請することを求めていた。
具体的な交渉は土曜日に始まったのだが、土曜日の時点では話し合いがまとまる可能性は低そうだった。知事側は、仮に政府の求めに応じるにしても、規制に関して自分たちの要求を飲ませたいなどと発言していたし、下院での審議でも野党の要求をはねつけた政府側が知事たちに大きな譲歩をするとも思えなかった。何よりも、政府批判を繰り返しワクチン接種なんかでも独自のやり方をしているプラハ市長が全会一致をぶち壊してくれると信じていたのだが……。
日曜日の夜になって(夕方だったかもしれないけど)、非常事態宣言が継続されるという情報が流れ、政府の記者会見が始まった。知事たちとの話し合いが成功したということは、小売店やスキー場などの営業禁止の緩和を訴える知事もいたし、同じ非常事態宣言でも、規制の内容が少なくとも多少は緩和されるということだろうと期待したのだが、首相をはじめ政府関係者の口から漏れる規制に関する発言は、これまでとまったく変わらないことを繰り返すだけだった。例外として役所の営業時間に関する規制が撤廃されたけど、一つは譲歩したという象徴的な意味しか持たないように思える。
政府の記者会見は、これまでと同じことを繰り返すだけの意味のないもので、特にバビシュ首相は、非常事態宣言の延長に協力しなかった野党を、秋の下院選挙対策でANOの政策に反対しているだけだと批判というよりは、口汚く罵倒していた。正直聞くべきことはほとんどなかったといていい。
国会で否決された非常事態宣言の延長を、知事の要望があったとはいえ、実行することについては、延長ではなく、深夜に効力の切れるこれまでの非常事態宣言に接続する形で、新たな非常事態宣言を発令するのだから問題ないと説明していた。ひとつの事態に関して複数の非常事態宣言は、政府独断では出せないという問題にも、今回の新たな非常事態宣言は、これまでのものとは違って、ウイルスの変異種がチェコ国内に入ってきて感染の拡大につながっている事態に対応するためのものだから、違憲ではないという。
しかし、変異がチェコ国内で新規感染者数が減少しない原因になっているというのは、国会で延長を求めるときに提示された理由のひとつではなかったのか。結局無用の長物に過ぎなかった犬システムが、危険度4を示しても、規制に関しては5レベルが継続されているのも同様の理由とされているはずである。ならば、変異種を理由に新たな非常事態宣言を発令するのには、論理的に無理があるような気がする。
これなら、野党は大々的に新たな非常事態宣言に反対する行動に出ると期待したのだが、下院での審議を求めると主張しているのは、オカムラ党と共産党だけで、ほかはしばらく様子見をする方針のようである。政府が疫病対策の新たな法律案を提出するのを待つというのだが、この一年の間に出てこなかった、野党が飲めるようなものが出てくるわけがないのだから、これなら最初から延長に賛成していたほうがマシだったというものである。
2021年2月16日9時30分。
2021年02月16日
バビシュ政権の悪あがき(二月十三日)
木曜日に、下院で非常事態宣言の延長を認めさせることに失敗した政府は、未だに自分たちに都合のいい形での非常事態宣言を継続することを諦めていないようで、非常事態宣言の継続を求める声を上げていた地方知事たちと交渉を始めた。よくわからないのだが、プラハ市長を含めて14人の知事達が全員一致で非常事態宣言の継続を求めた場合は、非常事態宣言の継続が可能になるようだ。
チェコの法律、もしくは憲法の規定では、政府は、政府だけの決定で非常事態宣言を発することができる。ただしその期限は最大30日で、延長するためには下院の承認を必要とすることになっている。そして、延長の提案が否決された場合には、同じ理由で非常事態宣言を発令することはできないらしい。少なくとも、木曜日の時点では、そのような説明だったので、国会で否決された時点で、非常事態宣言の解除は決定したものだと考えていた。
それが、知事たちとの交渉でどのように状況が変わるのかは、よくわからないのだが、全ての知事たちが非常事態宣言を発することを求めた場合には、改めて宣言を出すという。ただ、その知事たちは、去年の秋の地方議会の選挙を受けてANO所属の知事が減り、プラハ市長を筆頭に国政における野党所属の知事が増えているから、簡単に政府の思い通りになるとは思えなかった。
それぞれの地方には、それぞれの事情があるわけで、非常事態宣言について交渉するに当たって、それぞれに要求があったようだ。それに対して、ある知事の言葉を借りれば、政府側は何の新しい提案も持たずに交渉に望んだらしい。木曜日の下院での交渉を繰り返しただけだということだろうが、これでは知事側も賛成することができるわけがなく、今日は交渉がまとまることはなく、また日曜日に再度交渉が行われることになった。
ところで、文部省では、下院で非常事態宣言の延長が認められなかった時点で、非常事態宣言が解除されても、学校に関する規制は変わらないと発表した。このときには非常事態宣言なしでどの規制が継続できるのかはっきりしていなかったのだが、先に省としての方針を発表したのはよかった。少なくとも学校が対応に混乱することだけは避けられた。この手の規制の切り替わりの際に最悪なのは、結局どうなるのかぎりぎりまでわからないという事態である。
今回も非常事態宣言の解除を見込んで、一部のショッピングセンターやスキー場などで営業再開の準備を始めているようだが、解除されたとしても実際に営業禁止の規制が解除されるかどうかははっきりしない。全国一律の規制は不可能でも、特定の地域を対象にした営業禁止命令は、地方政府と厚生省の権限で出せるらしいから、規制が継続される可能性も高いのである。政府はできる限り現状の規制を継続しようとするだろうから、ぬか喜びに終わりかねない。
実は、下院で延長が否決された木曜日から、感染の拡大がひどいとされるトルトノフ、ソコロフ、ヘプという三つの地域(オクレスと呼ばれるかつての行政単位)が、春のリトベルのように閉鎖されている。期間は非常事態宣言が切れるまでとなっているが、閉鎖を担当する警察では非常事態宣言が継続された場合、非常事態宣言が解除されても閉鎖は継続される場合、どちらにも対応できるように準備を進めているという。これもまた政治の無能を現場がカバーする実例である。
現時点では、地方知事たちが全員一致で非常事態宣言を求めるということにはなりそうもないが、何が起こるかわからないのがチェコの政治なので、最悪の場合には非常事態宣言三度ということになりかねない。せっかくちょっとばかり明るくなった気分は再び最悪である。ここは反バビシュの急先鋒、スタンドプレー大好きのプラハ市長が、他の知事たちが合意した場合でも、一人だけ反対して非常事態宣言を阻止してくれることを期待しよう。
因みに、この非常事態宣言を巡る与党側と野党側の交渉は、ANOが仕掛けた罠ではないかという説もある。つまり、同じ野党所属でも現場で非常事態宣言の必要性を訴える地方組織と、非常事態宣言を政争の具にしてしまった中央との乖離を目的にしているとか、非常事態宣言が延長されなかった責任が野党にあるように見せかけようとしているとか言うのだろう。下院の議論を見ても、議論というよりはどちらも相手の話を聞かない、目糞鼻糞レベルの罵りあいに終始していたし、与党と野党とを問わず、現場を担当する地方の切実さを中央が共有できていないのは明らかだった。チェコ人が規制なんか守ってられるかと考えたくなる気持ちもよくわかるというものである。
2021年2月14日20時30分。
2021年02月14日
非常事態宣言の終わり(二月十一日)
去年の秋に再度宣言が出されてから、いつ終わるともなく延長が繰り返されてきた非常事態宣言がようやく今度の週末に終了することが決まった。これは感染状況が改善したことが理由での解除ではなく、下院の審議で、政府の提案した非常事態宣言の延長案が事前の予想通り否決されたことによる。これまでは、政府与党に加えて、共産党が多少の政治的な要求を飲ませるのと引き換えに賛成に周ることで延長されてきたのだが、共産党までが支持を拒否したのである。その結果、下院に過半数を持たない政府の延長案は否決され、現在の非常事態宣言の期限が切れると同時に、解除ということになった。
ただし、これが野党側が非常事態宣言を不要だと考えていたということにはならない。不要だと主張しているのはオカムラ党だけで、ほかの野党は非常事態宣言の有用性は認めつつ政府の行っている対策では効果が出ていないから、自分たちの立てた対策を取り入れるように求めていた。当然、政府にとって都合の悪い部分のある野党側の提案を政府が議論の俎上に上げるわけがなく、話し合いは話し合いにならず、非常事態宣言の延長は否決された。野党に所属する各地方の知事からも非常事態宣言の継続を求める声が上がっていたのだが、中央での政局が優先されて、与党も野党も妥協に走らなかったのである。
政府は非常事態宣言が解除されると、あれもこれもできなくなると主張しているのに対して、野党側は逆に非常事態宣言がなくても、あれもこれも既存の法律に基づいて規制できると主張していたから、解除されても完全に規制がなくなるということはないようだが、全国的な一律の規制は難しくなり、どの規制が継続し、どの規制が解除されるのか判然とせず、解除後に地方単位で出される規制もありそうだから、混乱を極めるに違いない。
それでも、あえて言うと、オカムラ党の主張に賛同したくはないのだが、ここで非常事態宣言が解除されるのは悪いことではない。チェコの政治家は、春にはチェコ人の間に存在したモラルが消えてしまった結果、規制を守らない人が増えていると主張して、守らない人を批判しているが、その原因が政府にあることは無視している。何よりも、どうなれば規制が解除されるのか、非常事態宣言が解除されるのか基準がまったく示されなかったのが最悪である。
いや、犬システムが導入された当初はよかったのだ。この数字がよくなれば規制が緩和されるという目標があったのだから。それがクリスマス商戦に向けて規制を緩和して営業の再開を許可した後、数字が悪化し始めてからも規制の強化を先送りしたあたりから、おかしくなった。その反動のように、数字が改善されても規制の緩和は行われず、何をしてもしなくても規制は変わらないという絶望感を人々に与え、規制を無視する人が増えたのである。
去年の春は危険を声高に訴えて規制を守ることを主張していた知人が、規制の例外となっている出張と称して家族旅行に出かけて観光地のペンションに宿泊していたのがその辺の事情を如実に物語っている。そういう人が増えた結果、宿泊施設側が宿泊客に出張である証明書をもとめる義務が追加されることになった。
正直な話、非常事態宣言があろうがなかろうが、規制があろうがなかろうが、守る人は守るし、守らない人は守らないのが今のチェコの現状である。自分で守れる範囲で守っている人が多いという方が適切か。だから、非常事態宣言が解除されて、一部の規制が解除されたとしても、人々の行動には大きな変化は出ず、政府が主張するような感染の爆発的な拡大にはつながらないだろう。レストランやお店が営業再開したとしても、客が押し寄せるなんてことにはならないだろうし。
非常事態宣言が解除されることで変わるのは、行動よりも精神的なもので、これまでの先が見えない閉塞感や圧迫感が多少は消えて、例年と比べて大きく増えているらしい家庭内暴力も減るのではないかと思う。この辺の規制強化による悪影響というのは、日本と同様チェコでもあまり大声では話題にされないのだが、さすがにデータが漏れてくるようになった。
命や健康が一番大切というのはその通りだとしても、規制によって失われる命や健康があることも忘れてはなるまい。病気で死者が増えるのと、家庭内暴力や経済的困窮から自殺者が増えるのと、どちらが政府の責任が大きいかと言えば、後者だと思うのだけど、話題性に欠けるのか取り上げられることは少ない。
非常事態宣言が解除されても、これまでの自分の生活を変えるつもりはないけれども、気分は楽になるだろうから、ちょっとだけ健康にはなれそうである。
2021年2月12日23時。
2021年02月10日
冗談だろ(二月七日)
チェコでは感染状況が改善しないということで、犬システムによる危険度判定ではレベル4であるにも関わらず、規制はレベル5の状態が続いている。つまり、旅行など以ての外で、ホテルなどの宿泊施設を利用できるのは、仕事で出張の場合だけである。当然、国外に出るのも原則禁止で、仕事で出る場合のみ特別に許可されることになる。
それなのに、バビシュ首相の夫人が飛行機に乗って中東にバカンスに出かけたというから開いた口が塞がらない。秋には非常事態宣言が再度出された直後ぐらいにANOの副党首のファルティーネク氏が、プリムラ氏のスキャンダルを引き起こした責任から逃れるために、カナリア諸島だったかに出かけていたけれども、政治家とその家族が自ら規制を守らないのだから、一般の人々が守ってられるかと怒るのも当然である。
ハブリーチェク大臣と言えば、遅れてバビシュ内閣に参画したにもかかわらず、産業省、交通省という二つの重要な省の大臣を務めているわけだが、バビシュ首相の仕事の効率ではなく、時間による評価によれば最も有能な大臣ということになる。何でも毎日早朝から深夜まで働き続けているのだとか。それでかどうかは知らんけど、スーパー大臣とか、マルチ大臣とか揶揄されている。文部大臣が学校での授業の再開のためにあれこれ厚生省と交渉しているのに対して、営業の再開を口にするけれども、そのために何をしているのかはさっぱりわからない。
そのスーパーマルチ大臣が、SNSで犬の散歩をしている写真を公開したらしい。それが雪の積もった山で撮影されたもので、大臣の住居からは100km以上も離れたところだという。散歩ってのはそんな遠くまで出かけることを言うのか。政府はクルコノシェなどの山に出かける人が多いのが、流行の拡大をもたらしているとして、移動は自分の住む地方内に限るという規制の導入をしようとしているのに大臣がこんなことをしていたら、守ろうとする人はいまい。
もう一人のバビシュ内閣の名物大臣、シレロバー財務大臣は自分で車を運転してプラハのスーパーマーケットの視察を行ったらしい。目的はFFP2にカテゴリーされるマスクの販売価格を確認すること。感染の拡大が止まらない中、厚生省では手作りのマスクよりもFFP2のマスクを着用することを推奨し始めており、文部省でも卒業学年の学校復帰にかんして、FFP2のマスク着用を義務づけることで厚生省側と交渉しているようである。
ただ、品薄ではなくなり、以前ほどではないとはいえ、このマスク、値段はそれなりに高い。この値段で義務付けられたらたまらないという批判の声が上がっていた。それに対して政府は、このマスクに関しただけ消費税を取らないという決定を下した。つまり、業者や販売店が値下げをしなくても、消費税の分、約20パーセントは販売価格が下がるはずである。
財務大臣がチェックして回っていたのは、この消費税分の値下げ、別な言い方をするなら、FFP2のマスクの税抜き価格での販売が実際になされているかどうからしい。以前の価格で販売されていたら脱税みたいなものだし、チェコ人ならしれっとやりそうだから、チェックが必要だというのはわからなくはないのだが、大臣自ら車を運転してやるべきことなのかねえ。しかもシートベルをしていないのを指摘されたらしいし。
マスクを1、2枚配るよりも、供給を安定させて販売価格を下げさせるほうがはるかにましであろう。ただし、これをチェコ政府素晴らしいなどと称賛したのでは、正しくチェコを理解したとは言えない。ここはアグロフェルト社がマスクの生産に乗り出したのかとか、中国にぼったくり価格で売りつけられたマスクが余っているのかななどと疑わなければならない。この疑いの真偽はすぐにはわからないだろうけどさ。
ここにあげたのは、政権関係者の行状だけれども、野党の政治家の中にも同じようなことをしている人はいるに違いない。ただ、ユレチカ氏とかカロウセク氏のような大物ならともかく、無名の議員じゃあニュースにならないからなあ。
2021年2月8日23時
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2021年02月07日
選挙法改正続(二月四日)
前回簡単に説明した現行のチェコの選挙法の改正が成立したのは、2000年のことである。当時は市民民主党と社会民主党が政界を牛耳っていて、交代で政権を担当していたのだが、どちらも単独で過半数を確保するのはもちろん、他党と連立を組んで過半数を確保するのにも苦労しており、ビロード革命後に雨後の筍のように(ちょっと大げさ)乱立した泡沫政党や、伝統はあるけれども支持者の数はなかなか増えない小政党が、いくつも議会に議席を確保できる選挙制度の弊害が現れていた。
二つの大政党は、この状況を両党で、どちらが第一党になっても、連立はしないが、もう一方の党が野党として政権運営に協力するという協定を結ぶことで解決していた。だからこの時期には、少数与党の内閣が誕生することがままあったのである。この状況の抜本的な改善を求めて制定されたのが、第一党の議席が増えやすい現行の選挙法だったらしい。
ドント方式もこのときに導入されており、仮に2017年の選挙でドント方式ではなく、以前の議席配分方式が使われていたとすると、現在の与党ANOと社会民主党に、閣外協力をしている共産党の議席を合わせても半数に届かず、逆に市民民主党、海賊党以下、反バビシュ政権の野党の議席を合わせても半数に届かないという結果になるらしい。そうなると仮の計算ではどちらにも入れなかったオカムラ党が完全にキャスティングボードを握って今以上に存在感を発揮していたということになるから、ドント方式でよかったと思うんだけどね。
それはともかく、憲法裁判所が現行の選挙法で問題にしているのは、二つの点にまとめられる。一つ目は合意に達するのも難しくなさそうな、二つ以上の政党が共同で選挙に臨んだ場合に必要となる最低得票率の問題である。これが原因で議席を獲得できなかったという党はないようだが、共同での選挙を取りやめたという例ならいくつかある。また名目上合併して一つの政党として選挙に臨んだ例もあったと記憶する。
憲法裁判所では、政党の数が増えても5パーセントという最低得票率を変えないように求めているようだが、政治家たちはさすがにそれはまずいと考えているようで、現時点ではスロバキアを真似て、当の数が一つ増えるごとに最低得票率を2パーセント増やすという方向で話し合いがまとまりつつある。つまり2党なら7、3党なら9パーセントで議席が獲得できるようになる見込みである。秋の選挙に向けて共同で候補者を立てる交渉が進んでいるので、この辺は切実なのだろう。
もう一つの問題は、恐らくぎりぎりまで合意に達しないであろう。地方を単位に14の選挙区に分けた上で、ドント方式を採用したことで、得票率の高い大政党への優遇が過ぎるというのだが、これは安定した政権をという前回の法改正の理念を完全に否定することになる。ということは、法改正の理念から話し合いを進める必要があるということで、半年で間に合うとは思えない。もちろん、理念など無視して、制度だけ決めるという手もあるだろうけど、憲法裁判所が求めるものとは違った方向に進む可能性も高い。どの党も自党に最も都合のいいルールを求めるはずだし、合意しない可能性も高いか。
そもそも、海賊党と市長連合、市民民主党とTOP09など、野党を中心にこの秋の選挙に向けて共同で候補者名簿を作成する交渉が進んでいるのは、得票率が高い政党ほど有利になる現行の制度を前提にしている。つまり二つの党がそれぞれ10パーセントずつ獲得した場合よりも、共同で20パーセント獲得した場合のほうが議席数が増え、政権獲得に近づくのである。それが、どちらの場合でも差が出ないような制度になるのであれば、これまでの交渉は無駄になる。いや、協定を結ぶことを嫌う支持者の存在を考えると議席を減らす可能性さえ出てくる。だから、今回の憲法裁判所の決定に不満を持っているのは、ANOだけではないはずだ。喜んでいるのは協力相手がなさそうなオカムラ党、共産党ぐらいじゃないだろうか。
個人的には、国会議員を比例代表制で選出すること自体が受け入れがたいのだが、最低でも比例代表で当選した議員が所属政党を離れる場合には議席を失うぐらいの規定は導入してほしいものである。それから、議席獲得のための条件が全国で5パーセントの得票率というのも、選挙区制を導入しているのと矛盾している。全国での得票率に関らず、それぞれの選挙区での議席獲得の条件が5パーセント以上ということになっていれば、一つの選挙区にしか候補者を立てない地域政党が活躍する余地も出てくる。この二点ぐらいなら半年もあれば、合意できるだろう。
抜本的な選挙法の改正を行うなら、今年の選挙の後から始めて、次の選挙に間に合うように、4年かけて行うほうがましだったのではないかと思う。いや、ほぼ確信を持って、現行の選挙法と大差のないものになると断言しておく。一見大きな改正に見えても、優遇する対象、もしくは優遇のやり方が変わるだけで不公平な点では変わらないものになるに違いない。それがチェコという国の政治というものである。
2021年2月5日24時。
2021年02月06日
選挙法改正(二月三日)
チェコでは解散がない限り4年に一度行われる下院の選挙まで半年ちょっとという時期になって、憲法裁判所が現行の選挙法を違憲だと認定し、選挙までに新たな選挙法を制定するように議会に求めた。事前にゼマン大統領が、この時期に、この決定を下すことは、混乱を引き起こすだけで、何の役にも立たないと警告したらしいが、憲法裁判所では採決を強行して、意見の判決を下したということのようだ。
チェコの現行の選挙制度が不完全で、不平等なものであることは周知の事実だが、いやそもそも完全に平等な選挙制度など存在しえないことを考えると、バビシュ首相がこの決定に対して強く批判する気持ちもわからなくはない。このままでは、わずか数カ月で、現行の選挙法に変わる新しい制度を作り出さなければならないのである。しかも、各政党がそれぞれ自分たちに都合のいい方向に話を持って行こうとするだろうから、現行よりもマシな法案ができたとして、国会で可決される保証はどこにもないのである。
この件について少しわかりやすく説明をすると、憲法裁判所というのは日本の最高裁裁判所が持っている違憲立法審査権を行使する権利を持つ裁判所で、一般の最高裁判所を含む裁判所とは役割を異にしている。原則として法律や法令、政府の決定などが、憲法に違反していないかを審議する機関である。審議するのは訴えがあってからだと思うのだが、今回の決定が誰の訴えに基づいて開始されたのかは、わからなかった。
憲法裁判所がチェコの政治に大きな影響を与えたものとしては、2009年の判決がすぐに思い出される。チェコは当時EUの議長国を務めていたのだが、トポラーネク内閣が、下院での不信任決議だったか、信任決議だったかで、信任を得ることができず、下院の解散、総選挙の実施を決定した。これに対して、共産党かどこかの下院議員が、憲法上内閣に解散権はないのではないのかと、憲法裁判所に訴えた。その結果、下院の解散は違憲だという決定がなされて選挙が中止になり、任期満了までの半年ほどの間、暫定内閣が成立し、暫定でEUの議長国を務めるという恥をさらすことになったのである。
2009年以前には、下院の解散が行われたこともあるのだが、誰も問題にしなかったため、憲法上、もしくは選挙法上解散権はあるものだと思われていたようだ。さすがに、下院に不信任決議をする権利があるのに、内閣に解散の権利がないという偏った関係はよくないと考えたのか、法律が改正されて(憲法かもしれない)、内閣の解散権が明記されることになったはずである。当時は珍しく与野党の意見が一致して、速やかに合意がなされたと記憶する。
この2009年の前に憲法裁判所が政治的な判断を下したのが、実は現行の選挙法が制定されたときのことで、このときは当時のハベル大統領まで担ぎ出されて、違憲という判断は下されたものの、選挙法の効力を止めたり、改正を求めたりまではしなかったようだ。だからこそ、当時の法律が今まで生き続けてきたわけである。面白いのは、当時社会民主党の中心人物の一人で、現行の選挙法の導入に貢献したリヘツキーが、現在は憲法裁判所の長官で、違憲だと糾弾する立場になっていることである。
現行の選挙法のどこが問題なのかを説明する前に、簡単に下院の選挙の制度をおさらいしておく。選挙は政党に投票する比例代表制で行われ、プラハと13の地方、合わせて14の選挙区に分けられており、政党はそれぞれの選挙区ごとに候補者名簿を作成することになる。選挙区ごとの定員は、人口、もしくは有権者数に基づいて制定されているが、その割り振りのルールはよくわからない。カルロビバリ地方のように定員が非常に少なく、どうして独立させているのだろうと不思議に思うような地方もいくつかある。
また極右政党が議席を獲得することを防ぐために、得票率5パーセントという議席を獲得するための最低得票率が制定されているが、これは各選挙区での得票率ではなく、全国での得票率5パーセントである。そして、二つ以上の政党が連合を組んで共同で候補者名簿を作成する場合には、地方単位では認められず、全国すべての選挙区で連合しなけらばならず、議席を獲得するための最低得票率は5パーセントに政党数をかけたものになる。つまり、2党なら10、3党なら15パーセントというわけである。
実際の得票数に基づく議席の配分は、日本などでも取り入れられているドント方式が採用されている。この方式は、いくつかある配分方式の中では、得票率の高い政党に有利な方式だと言われている。つまり得票率が高ければ高いほど、1議席を獲得するのに必要な票の数が減っていくのである。弱小政党の乱立を防ぎ、第一党が議会で過半数を取りやすい、取れなくても連立相手を見つけやすい制度だということもできそうだ。
というところで、いったんおしまい。
2021年2月4日21時。