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2016年02月03日
プラハ嫌い(一月卅一日)
師匠は、プラハはいい意味でも悪い意味でもチェコの典型だと言っていたが、悪い意味でなら、メーターを使わないボッタクリタクシー、数字を使わないで小さなローマ字で書かれたチェコ人向け料金の脇にその何倍もの大きさで外国人料金が数字で書いてある観光名所、ビザ延長の申請者を人間とは思っていないとしか考えられないような対応をする外国人警察などなど、いくらでも思いつくのだが、いい意味でとなると観光名所がたくさんあることぐらいしか思いつかない。その観光名所も、あることないことでたらめを並べ立てる似非観光ガイドがセットになっているので、必ずしもいい意味でとは言い切れないのだが。旧市街広場のヤン・フスの像を、カレル四世の像だと言ってみたり、聖バーツラフの騎馬像をヤン・ジシカだと断言してしまうようなガイドがいくらでも転がっているのがプラハの町なのである。
昨日、ほぼ半年ぶりに出かけたプラハは、いつものプラハだった。旧市街の歴史的な建物の中に、きらびやかな商店が入り、中にはショッピングセンターのようにされてしまった建物もある。中世と現代の融合と言えば言葉はきれいだが、実際は、現代の醜悪性が近代以前を凌駕して、派手なばかりの街になってしまっている。昨日は冬だったから、それほどでもなかったが、夏に行くと、歩道にまではみ出して商品が並べられそれを見るために立ち止まる人のせいでまともに歩けない。そんな雑然性が中世の象徴だというのなら、むしろ中世の醜悪さと現代の醜悪さが同居していると言うべきなのだ。
道行く人の顔を見て国籍を判断するなんてことはできないけれども、プラハの中心で耳に飛び込んでくる言葉は、ほとんどチェコ語ではない。ごくたまにチェコ語が聞こえてきても、例のプラハ的な発音なので耳が聞くのを拒絶してしまう。昨日は午前十一時ぐらいから午後四時半ぐらいまでプラハにいたのだが、その間に聞いた一番まともなチェコ語は、駅の構内放送を除けば、一仕事終えて昼食に入った中華料理店の中国人かベトナム人の店員さんの話すものだった。ちょっとした訛りはあったけれども、私のモラビア育ちの耳にも聞きやすいチェコ語だった。プラハで一緒に集まって話をしたのが日本人ばかりだったせいもあるのだが、この町の中心部は、またチェコ語ではなく、外国語の町となろうとしているのである。
昔こんなことを書いたことがある。プラハではプラハ人は外国人に対して英語で話しかける。外国人がチェコ語で返しても、チェコ語で話してほしいと言っても、英語で話し続ける。ブルノでは外国人に対して英語で話しかけるが、外国人がチェコ語で返せば、チェコ語に切り替えてくれる。それに対して、オロモウツ人は、相手が外国人であろうとなんであろうとチェコ語で話しかけてくれる。わからなそうな顔をしたら、ゆっくりもう一度言ってくれる。
チェコ語のことを世界で二番目に美しい言葉と言ってはばからない私にとって、オロモウツというのはある意味で理想の町なのである。それに、レギオジェットが予想外に気に入ってしまった理由の一つも、乗務員が、下手に英語で話しかけるような無駄な努力をせず、最初っからチェコ人相手であるかのようにチェコ語で話しかけてくれて、チェコ人に勧めるように、チェコ語の新聞や雑誌を勧めてくれたからかもしれない。
最後にこれはプラハのせいというわけではないのだが、ニュースなどでプラハが出てくると必ずのように、「首都プラハ」という言い方がなされるのも、ものすごく気に食わない。プラハが首都だということにけちをつける人間などいるまいに、特別な事情があるわけでもないのに「首都、首都」連発するのには、何の理由も意義も見つけられない。アメリカのワシントンD.C.を意識しているのかもしれないが、あれにはワシントン州との区別をつけるという立派な理由があるはずだし、チェコ語でも、ただ「ワシントン市」と言うことが多いような気がする。
そんなこんなでチェコ人の間にもプラハを嫌っている人は多く、特にライバル関係にあるモラビアの首都ブルノ(「首都ブルノ」とは言われない)では、酔っ払ってプラハナンバーの車にいたずらをする人が多いので、プラハ出身や在住ではないのにプラハナンバーの車に乗っている人の中には、方言で「私はプラハから来たんじゃないんです」なんて書かれたステッカーを貼っている人も多いらしいのである。ブルノではプラハ人に理解できないようにという理由で、半ば人工的に作られたハンテツという方言もあるという。
モラビアに住んでいると、プラハ在住の日本人には申し訳ないけど、プラハ万歳よりは、プラハなんかくそ食らえといいたくなることのほう多いのである。
2月1日22時30分。