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2017年01月23日
ダビット・ラート、あるいはチェコの政治家の一典型1(正月廿日)
もう十年以上前になるだろうか。当時ラート氏は、医師会だったか、何だったか正確には覚えていないが、医師の団体の会長だった。つまりは本業は医者だったのである。厚生省の政策に対して医師としてあれこれ反対の意見を述べていたのが、この人物がメディアに登場し、一般のチェコ人にまで知られるようになったきっかけだったと記憶する。
それが、当時の総理大臣、確か社会民主党のパロウベク氏と、なぜか意気投合して、厚生大臣に就任することになった。ただし、党内の反対が大きかったのか、手続き上ラート氏に大臣に就任する資格がなかったのかよくわからないが、大臣は無理だということになり、政治家の役職である大臣を除いた省内のトップ、日本の事務次官のような役職に就任してしまった。
本業が医師の国会議員が、厚生大臣になるのはチェコではよくあることなので、大臣にしようというのはまだ納得できたのだが、それまで厚生省でまったく仕事をしたことのない人物が、事務次官のようなものになるのには、疑念が起こるのを禁じえなかった。友人にいいのかと聞いたら、チェコだからという答えしか返ってこなかった。
しかも、ラート氏は社会民主党のノミネートで厚生省の役人になったのだ。ということは、チェコには、官僚に不党不偏を求めることはないということなのか。いや、むしろ各省庁の上のほうにいる役人を任命するのは、大臣、つまり政権与党の権利だと考えられているふしもある。日本だって、不偏不党の建前はあっても、官僚の中には特定の政党のシンパはいるわけだから、特定の政党に属していたり、支持したりしていることを公言するかどうかの違いに過ぎないのだろう。
医師会の総会か何かで、対立する人物と演説を通して罵詈雑言の投げ合いをやったのもこのころだっただろうか。お互いに、相手を「弱虫」「臆病者」という言葉をキーワードに罵倒し、最後は腹に据えかねたラート氏が、「俺は臆病者じゃないから」とか言いながら、演台に立って演説中の相手の頭を、後ろから引っぱたいたんだったか、その逆だったか。とまれ、このときのビデオは、世界中に広まり、クラウス大統領の署名のペン窃盗事件のビデオが世に出るまでは、チェコの政治家が関係するニュースとしては、世界でもっとも有名だったはずである。
その後、ラート氏は社会民主党から国会議員の選挙に出馬し、当選、晴れて厚生大臣になったんじゃなかったか。この辺の時系列が正確には思い出せない。その次の下院の選挙で社会民主党が大敗し、下野したときもラート氏は、国会議員であり続けた。そして、国会議員でありながら、党の地方選挙にも力を入れるという戦略に基づいて中央ボヘミア地方の議会選挙で、社会民主党を勝利に導き、そのまま中央ボヘミア地方の知事に就任してしまった。このときには、南ボヘミア地方や南モラビア地方でも、国会議員と兼任の知事が誕生し、批判の対象になっていた。ただそこまで批判の声が大きくならなかったので、議員と知事、どちらかを選べということにはならなかった。
順風満帆にみえたラート氏の政治家としてのキャリアが暗転したのは、2012年のことだった。翌年に下院議員の選挙を控えて、言動が活発化していたラート氏が突如警察に逮捕されたのだ。中央ボヘミア地方の管轄する病院の改築に関して、建設業者から賄賂を受け取っていたというのである。ほかにも補助金関係での疑惑もあったかな。賄賂自体には驚かなかったが、現職の国会議員が逮捕されたのには驚いた。
逮捕の状況は、後に一緒に起訴された関係者宅から、箱をもって出てきたところに警察がいて、中身を問われて、「ワインだ」と答え、警察に「じゃあ開けてみましょう」と言われて開けたら札束だったことらしい。手に持った箱ではなくて、車のトランクに積んだ箱だったかもしれない。裸で持ち歩くには、少々どころではなく大きすぎるそのお金が、業者から受け取った賄賂で、関係者に分配しているところだったのだろうか。警察では、かなり前から内定を進め、携帯電話の盗聴などで証拠を集めて逮捕に踏み切ったらしい。
ラート氏は当初から冤罪を主張し裁判ですべてを明らかにするとか言っていたがこの件がどう解釈すれば冤罪になるのか、さっぱり理解できなかった。むしろ、疑惑は社会民主党が党ぐるみで翌年の下院選挙に向けてなりふり構わず資金集めをしているのではないかというところにあった。ラート氏を切り捨てることで、その疑惑の打ち消しに成功したのか、下院選挙で社会民主党は第一党に返り咲くことになる。この結果は、社会民主党が勝ったというよりは、市民民主党のネチャス首相が政権を放り出し支持を失った結果と言ったほうがいいかもしれない。
予定より長くなったので、切りはあまりよくないけど、ここで一休みして、以下明日である。
1月21日22時。