蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

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2005/08/11
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カテゴリ: 韓流ドラマ&映画
春とはいえ、3月の東京はまだ肌寒い。

初めて訪れる国、日本。言葉はなんとかカタコトで話せるが、彼はそれ以上の日本語能力を必要とする使命があった。
ポケットから写真を取り出す。その青年とよく似た若い男の笑顔があった。
「ソンウ・・・。この国のどこかにいるんだよね?」
そう呟くと、再び写真をポケットにすべりこませる。
青年は小さなボストンバッグを持ち、ゆっくりと歩き出した。

日本に住んでいる親戚の金田恭一に指示された通り、チョン・ソンジェはリムジンバスに乗り、新宿方面へ向かう。
ハングル文字は見当たらず、かわりに漢字とひらがなカタカナが氾濫する街へと、バスは動いていった。

漢字はよくわからないが、ひらがなカタカナはマスターしていた自分を誉めてやりたいと、ソンジェは思った。

車窓から見える日本の街。少しは日本語をマスターしていたとはいえ、やはり母国語とは違う。ソンジェは見えてくる日本語の看板を、一生懸命に読もうとした。しかし漢字がわからなければ、なかなか意味が理解できない。
さっきまで自分を誉めてやりたいと思っていたソンジェの気持ちが、どんどん萎れていき、かわりに不安が膨らんでいった。
『恭一兄さんは、ちゃんとバス停まで迎えに来てくれるのかな。一応住所は聞いているけれど、探すのは大変かもしれないな』

ソンジェがそう考えている間にも、バスは目的地へと走っていった。

「ソンジェ、お前が日本に行って、ソンウを探してきてくれ」
兄のソンミンに言われたのは、年が明けてすぐだった。
日本人女性との結婚を家族に反対され、駆け落ち同然で家を出たソンウは、正月にも帰ってこなかった。
帰ってくるはずがないと思ってはいたものの、実際にソンウの顔が見えないと、母親は気落ちしたらしい。元気がなくなった。父親も何気ない顔をしてはいるが、やはりショックだったようだ。
そんな両親の様子を見て、長男のソンミンが次男のソンジェに日本行きを命じたのだ。
「東京には親戚の金田恭一がいる。父さんが以前世話をしてやった男だ。きっとお前の面倒を見てくれるはずだ。だからお前、日本に行ってソンウを探して来てくれないか」

ソンミンは、見つけたら女と別れさせて、首に縄をつけてでもソンウを連れ戻して来いと言った。しかしソンジェの思いは違った。ソンウに謝りたかったのだ。
ソンウが、彼の夢をあきらめたくないと父親に言った時、ソンジェは力になってやれなかった。日本人女性と結婚したいと言い出したときも、家族の猛反対から守ってやることが出来なかった。
『すまない、ソンウ。僕たちはなんでも言えた兄弟だったのに、お前が一番僕を必要とした時、僕は力になってやれなかった。だから日本で会えたとき、帰れとは言わない。まずすまなかったと謝りたいんだ』

ソンウのことを思いながら、再び車窓へと目を移す。
信号待ちでバスが止まった時、中年女性が2人、ベンチに座っているのが目に入った。

優しく控えめだけれど、芯の強い人柄を感じさせる作品。
韓国の利川で、おじさんが陶芸に携わり、幼いころから手伝いをしてきたソンジェには、よくわかった。
ソンジェは茶碗を手にしている女性の顔を見た。
ショートボブヘアの女性は、ややうつむき加減に茶碗を見ていた。長い睫毛が彼女の瞳に陰影をつけている。少し開いた口元はにこやかに微笑んでいた。特に目を引かれたのは、あごにあるホクロだった。ややあどけない表情の女性の印象が、そのホクロによって大人の女を感じさせている。

『かわいい人・・・』
ソンジェは胸が高鳴るのを感じた。
もう一度彼女の姿をよく見ようとしたとき、信号が青に変わった。バスはゆっくりと動き出す。

ソンジェは首が痛くなるまで振り返りながら、その女性を見続けていた。





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最終更新日  2005/08/11 10:55:11 PM
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