蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

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2005/08/25
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カテゴリ: 韓流ドラマ&映画
それから数日は、ソンジェにとって夢のような日々だった。葉子は毎日のようにソンジェの病室を訪れ、なにかと世話を焼く。足の打撲がひどく、しばらく車椅子を使っていたソンジェにとって、彼女の気遣いはうれしかった。

ソンジェが苦手なブロッコリーを残している時も、「食べなきゃダメよ」といいながら、ソンジェの口に入れてくれようとする。ソンジェは顔をしかめるふりをして、葉子の手からフォークを奪い、彼女の口にブロッコリーを入れた。
『まるで恋人同士のようだね。僕は事故に遭ったことに感謝したいくらいだよ、葉子さん。貴女とこんなにも幸せな時間を過ごすことが出来て』

葉子が帰った後は、彼女にもらったケナリの花を眺めて過ごす。
『まるで葉子さんのようだ』
ソンジェはそっとケナリの花に唇を寄せた。

しかし楽しい時間は長くは続かなかった。
葉子がソンジェの病室から出て行くのを、恭一が見ていたのだ。

「恭一さん、彼女にまた何かするんじゃないだろうな。彼女に何かしたら、僕が許さない」
ソンジェは恭一の目を、まっすぐに見て言った。
恭一はソンジェから目をそらせた。
「何にもしねぇよ」
『あの奥さんに手は出さねぇさ。俺はああいう女にはそそられねぇからな。でも大切な金づるなんだよ』
ニヤリと笑った恭一の顔を、ソンジェは不安そうに見つめた。

恭一が葉子を見つけた翌日から、葉子はぱったりと姿を見せなくなった。
ソンジェは病室の扉が開くたび、はっとして顔をあげる。しかし何度見ても葉子ではなかった。
『葉子さん、どうしたんだろう?まさか恭一さんが、また何かしたんだろうか?』

「チョン・ソンジェさん、体温を測ってくださいね」
いつもの看護師が検温にやって来た。

「そうねぇ。今先生は出張中なので、確かな事はいえないけれど、もうすぐ退院できると思いますよ」
退院して、すぐに葉子に会いに行こう。ソンジェはそう思った。
退院・・・そういえば治療費を払わないといけない。
ソンジェは急に心配になった。治療費はソウルの兄に頼んでおいたが、すぐには入金できないという返事だった。
「あの、今お金ないです。もう少し待ってくれませんか?」

「カイケイ?」
「後で私が聞いておいてあげましょうか?」
「はい、よろしくお願いします」
やはり異国での入院生活は、心細い。葉子が来てくれていたときは、全く感じなかった不安が、ソンジェの心に忍び込んできた。

しばらくして、さっきの看護師が戻ってきた。
「チョン・ソンジェさん、今日までの支払いは済みになっていましたよ」
「え?」

ソンジェは恭一が済ませてくれたのだと思った。彼以外に日本でソンジェのために治療費を立て替えてくれる人はいない。
『恭一さんに、昨日ひどいことを言ってしまったな。彼が来たらあやまらなきゃ』
そう考えていると、恭一が顔をのぞかせた。
ソンジェは恭一に微笑みかけながら言った。
「恭一さんだろ?治療費、立て替えてくれたの」
「なんだと?治療費?」
恭一は顔色を変えた。
「まさか、あの女、くそ」
「あの女って・・・。まさか彼女を脅したんじゃないだろうな?」
「そんなことしねぇよ」
「何言った、あの人に」
「何も言ってねぇよ」
ソンジェの頭には、恭一に脅されている葉子の姿が浮かんだ。
「恥かしくないのか!」
ソンジェは恭一の胸ぐらをつかんだ。
しかし、すぐに振りほどかれた。
「世の中きれい事だけじゃ生きていけねぇぞ」
そう言って病室から出て行った。

『何てことだ!恭一さんは、また葉子さんを脅したのか。葉子さん、だから来てくれないんだね。僕なんかと、もう関わりたくないと思ったんだろうか?』

次から次へと不安が頭をもたげてくる。ソンジェは廊下にある公衆電話へ急いだ。
コール音が鳴る。
「はい、もしもし」
「ヨボセヨ」
ソンジェは思わず韓国語を口走った。
「あ、こんにちは」
懐かしい葉子の声だ。心なしか戸惑っているように聞こえる。
「私の治療費、払ってくれたの、貴女ですね」
「ええ・・・」
「どうもありがと。お金、すぐ返します」
「それより、早く元気になって下さいね」
葉子の優しい言葉に、ソンジェは不安が消えていくのを感じた。
「今度、いつ会えますか?」
声だけでなく、葉子の顔が見たい。
「・・・ごめんなさい。私、もう貴方とは会えないかもしれません。貴方はソウルへ帰るわけだし、私にも家族がいるから、もうこれ以上は・・・。貴方と会っていると楽しいけど、貴方も私も、それぞれの生活があるでしょ?だからもう会わない方がいいと思うの」
『葉子さん?』
ソンジェはキリキリと胸が痛んだ。もう会えないなんて考えられない。
「ごめんなさい。もう電話切りますね。それじゃあ」
電話は切れてしまった。
ソンジェの耳に、虚しくツーツーという音がこだましていた。







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最終更新日  2005/08/26 12:39:20 AM
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