蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

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カテゴリ: 韓流ドラマ&映画
ソンジェは宗太のためにケーキを買って帰宅した。

いや、そんなことはできない。葉子には家庭がある。そして自分にも守るべき者たちがいる。
ソンジェは何度も頭を振り、葉子の面影を心の中から追い出そうとした。

「ただいま」
努めて明るい声を出してドアを開ける。
「パパ~」
宗太が走ってきた。
「宗太、ケーキ買って来たぞ」

宗太はケーキの箱を受け取り、佳織の傍に行った。
「おかえりなさい」
佳織はソンジェを見ずに、机の上に置いたタオルをかばんにいれている。
「何してるの?」
ソンジェの問いに、手を止めた。
「私宗太と二人で暮らすから」
「佳織・・・」
ソンジェは佳織の青白い横顔を見つめる。
「いろいろ考えてね、その方が貴方のためにもいいかなって。宗太には話した。貴方が本当のパパじゃないってこと。」
佳織の言葉はソンジェを動揺させる。
『どうして?こんなに幼い宗太にそんなことを言ったの?それで宗太は納得したの?』

「大丈夫、私と宗太は何とかやっていくから。だからソンジェも陶芸続けて。今まで本当にありがとう。ソンジェには本当に感謝している」
紙のように白い顔の佳織はようやくソンジェのほうを向いた。
「佳織、僕は佳織や宗太と離れない」
ソンジェは一言一言かみ締めるように言った。それはそのまま自分自身に言い聞かせるためでもあった。
ソンウの遺影の前に座り、ソンジェは言葉を続ける。

ソンジェの脳裏には、初めて日本に来てソンウを探し回ったときのことが蘇ってきた。
どうしてもソンウを見つけることが出来なかったとき、ソンウが亡き人だと知ったとき、心が弱くなってどうしようもないとき、いつも葉子が傍にいてくれた。
『葉子さん・・・』
ソンジェは心の中で葉子の名前を呼んだ。
遺影のソンウと目が合う。再びソンウに申し訳ないという気持ちがあふれてきた。
『ソンウ、ごめん。こんな気持ちでお前の大切な人たちを守るなんていえないよな。もう金輪際、葉子さんのことは忘れるから・・・』
「お前の代わりにはなれないけれど、お前が残した大切な人を精一杯に守る。ソンウ、僕は佳織と結婚する。いいだろ、ソンウ」
天国にいるソンウにも聞こえただろうか。ソンジェはソンウの遺影を見つめた。
「ソンジェ」
佳織は泣きそうな顔でソンジェの背中にしがみついてくる。
ソンジェは葉子と違う感触に、とまどいを隠せなかった。

数日後、ソンジェは婚姻届を持って、安岡のアトリエに出向いた。証人になってもらうためだった。
婚姻届には、ソンジェと佳織のサインがしてある。
『これが婚姻届・・・』
まじまじと見て、ふっとソンジェは葉子と昭彦のことを思い出した。
『彼らもこういう風に婚姻届にサインをしたことがあったんだろうな』
サインをする葉子の姿を想像し、ソンジェは軽く嫉妬をした。
『僕が葉子さんを知る前に、井手先生は葉子さんと愛し合い、婚姻届を出したんだ。今の僕のように』
しかし自分は佳織を女として愛しているわけではない。自分が男だと自覚し、欲するのは葉子しかいない。
ソンウの遺影の前で、葉子のことを忘れると言っておきながら、まだ葉子のことを思い出している。
つくづく自分は諦めの悪い人間だと、ソンジェは自嘲の笑いを浮かべた。
安土に着くと、安岡はすぐに婚姻届にサインをしてくれた。
「これで、よし・・・と。本当に私でよかったのかね」
「佳織はお父さんもお母さんもいません。僕の方もソウルの兄やオモニは許さない。安岡先生しか頼む人いません」
「結婚は本人同士がするもんだ。2人が幸せになれるんだったら、私は祝福するよ」
「ありがとうございます」
ソンジェは、もうあとは役所に届けるだけの婚姻届に目を落とした。


今夜も新宿の夜が始まる。猥雑な喧騒には、何年経っても慣れることができない。ソンジェは婚姻届を背広の内ポケットに入れたまま、「ゴールド・デビル」に行った。
すっかりお得意様になった毒舌家の中年女がまた来ている。恭一のことがお気に入りらしい。
「千草っていうんだってよ。似あわねぇ名前だと思わないか?」
恭一はソンジェにこっそり言って笑っている。
『陰ではそう言って、相手の目の前ではほめるんだよな。そういう世界なんだ、ここは』
慣れなくてもいい、ソンジェはそう思う。
千草と同行している女の顔を見て、ソンジェは驚いた。葉子の友人、由紀だった。彼女もソンジェを見て驚く。
「ここで働いていたんだ。ふふ、びっくりした」
ソンジェは顔が赤くなった。こんな姿を葉子の友人に見られたくない。同席していたホストの先輩、サムに促されて、ソンジェはシャンパンをグラスに注ぐ。
「どうぞ」
由紀の携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし。あら。珍しい・・・え?葉子が?」
“葉子”の名前にソンジェはドキリとした。
「ええ、何の連絡もありませんけど」
『誰としゃべっているんだろう?葉子さんがどうかしたの?』
ソンジェは胸騒ぎを覚える。
電話を切った由紀は、考え込みながら呟いた。
「きっとなんかあったんだ。だってこんな時間に昭彦さんから電話がかかってくるなんてよっぽどのことだよ」
ソンジェはいてもたってもいられなくなった。
「ちょっとごめんなさい」
そういったが早いか、店を飛び出した。
『葉子さん、何があったの?今どうしているの?』
彼女がいる場所はわかっている。きっとあの公園だ。
葉子がうなだれてベンチに座っている姿を想像して、ソンジェは胸が痛くなった。
『葉子さん、どうかずっとそこにいて!』
ソンジェは全力疾走しながら、葉子のことを考え続けていた。





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最終更新日  2005/11/01 11:09:53 AM
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